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1964年というのは、その時代を生きていた人にとってはとりわけ記憶に残る年じゃないかと思う。
敗戦から立ち直り高度成長に向かって邁進する中、東海道新幹線が開通したり東京オリンピックが開催されるなどエポックメイキングな出来事で国全体が高揚していた年。
私は長崎に住む小学生だったので、かなり温度差はある(東京の小学生は道路掃除とかしてたんだ)と思うし、年を重ねるに連れ記憶が美しく上書きされていることはあると思うのだが、それでも「1964年」という言葉に惹かれるところはある。
さて、この物語、そんな東京オリンピック前後の時期に、涼子という女性と何らかの関りを持った7人の話で章立て(それらを涼子メインの序章と終盤2章で挟む全10章)。
個々の話だけ読むとノスタルジックな時代背景に乗せて涼子が周囲のちょっとした困りごとを解決していく話のようにも見える。
話ごとに彼女の印象は変わり、蓮っ葉な言葉を使っていたり怖い人たちを従えていたりする一方、「お嬢さん」と呼ばれ運転手付きの大きな車に乗っていたり。少しずつ彼女の生い立ちや素性が分かってくるに従って、それらの言動も相俟ってちょっと不穏なところが見え隠れ。
全ての話が終わったところでそれまでの話の色んなことが結びつく、なかなか面白い構成と展開だった。
ただ、隠されていた謎にはあまり驚きがなく、涼子の実像が不穏さとはつながりがなかったことも、良さげな結末に水を差すようで悪いが、全体のトーンからするとなんか物足らないところを感じた。