韓国文学の読書案内であり歴史案内
2023/01/25 13:07
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
韓国文学の翻訳者による、韓国文学の読書案内。
大ヒットした「キム・ジヨン」が私たちにもたらしたものを語る第1章から、社会の矛盾やほころびをあらわにした、セウォル号以降の文学や現代の韓国社会を説いた第2章、
IMF危機や光州事件など韓国の軍事独裁政権と経済成長の時代背景を、文学から読み取る3~5章。そして韓国エンタメとは切っても切れない朝鮮戦争と分断、文学との関係を解説した6~8章。
時代をさかのぼるようにして、重苦しい歴史や社会が生みだした韓国文学作品を紹介しながら、その魅力をつづっている。斎藤さんの文章の味わいも手伝って、紹介されている作品を、次々読んでみたくなる。
さらにこの本の中で、韓国文学によって逆照射されている日本文学も、いま一度読んでみたいと思った。
知っているところでは堀田善衛の『広場の孤独』と韓国の崔仁勲による『広場』の対比などはひざを打つ面白さだった。
さまざまな知的欲求を刺激してくれる、素晴らしい一冊。期待以上だった。
ただの本紹介とは違います。
2022/10/06 10:18
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投稿者:あずみん - この投稿者のレビュー一覧を見る
奥が深い。これは、学校で習わなかった、韓国の歴史や朝鮮戦争がよく分かります。
そして、なぜ韓国文学がこんなにも面白いのかが理解できます。
日本人が日々をエンジョイしていた時に、どんな思いで韓国人が生きてきたのかを知ると、もっとがんばれ日本人と思います。
読んでよかった。
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投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
植民地時代の作家の邦訳や張赫宙と金史良なら読んでいるが、昨今の「K文学」は読まないのでよく分からないが、邦訳がある作品を使って書いている。
この本に出て来る日本人文筆家にも言える事だが、植民地時代の作家には著者が熟知していても「K文学」の読者には馴染みがない名前が多いと思われるので、登場する作家の簡単な略伝をつけて紹介した方が親切ではないか。ある主題ごとに色々な作家の作品が羅列しているみたいだ。
北朝鮮が「社会主義朝鮮の成果」だと宣伝していた興南肥料工場とは、この本に否定的に書かれている日本資本の工場の後身なのだが、言及している本同様、一言も触れていない。北朝鮮の事だから、有機水銀は垂れ流しになっているだろう。朝鮮戦争の記述(今頃になって、ソ連崩壊後の史料によって北朝鮮が南侵したと「ほぼ」確定したはないだろう)や李光洙のように朝鮮戦争当時に拉致された作家や李泰俊と韓雪野のような北朝鮮で粛清された作家には言及しているけれど、北朝鮮や南労党のパルチザンに対する批判が少ないようだ。拉致された人々は勿論、カップ系をはじめ、自分の意思で入北した人々で、北朝鮮で粛清された文化人を列挙したら切りがないのではないか。粛清されたからこそ、崔承喜が日本で語られなくなったのだから。日本でコップに参加したが転向して「親日派」となり、光復後は左翼陣営に復帰しなかったし、人民軍の手中に陥らなかったので韓国で天寿を全うし得た金龍濟のような人がいるから余計にそう思う。一頃は戦前の日本で有名だった朝鮮人の文化人で言及されていたのは韓国を選んだ金素雲ぐらいなのは著者なら知っているだろう。
韓国の小説は文体は優しいけど奥の深い作品が多いのだ
2024/12/19 17:07
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハン・ガン氏がノーベル文学賞を獲得して私は鼻高々なのだ、ハン・ガン氏の他にも82年生まれ、キム・ジオンのチョ・ナムジュ、パク・ミンギュ氏、キム・ヨンハ氏の作品を読み漁っていた私は先見の明があったというものだ、韓国の小説は文体は優しいけど奥の深い作品が多いのだ
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私だけかどうかわからないが、いやー、相当にヘヴィだった。
斎藤真理子が出てくるまで韓国の文学は金芝河くらいしか知らなかった。それが『カステラ』以降、なんでこんなに面白いの、力があるの、とぐいぐい読まされてきたが、いかに表面的だったことか。セウォル号事件や光州事件、そして朝鮮戦争などを今に至るまで背負い続けその影響下にあるからこそ(若い世代の作家まで含めて)の、力だったんだな、と思い至る。その重さ。読み終えて、ぐったりくたびれてしまった。面白いけど、重い本だと思います。そして確認したい本、読みたい本が増える。
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韓国社会が経験する苦難に作家はどう向き合い、そうして生まれる作品を読者はどう受容してきたか、の一端が見えてくる。
また、1960年は日本と韓国にとって分水嶺だったんだな、と。市民運動の成功体験と失敗体験は、その後の両社会における主権者意識にも根深い影響を与えたことが、比較によって鮮やかにわかる。
そして、知れば知るほど日本について、自分について考えることを余儀なくされる。韓国社会の痛みや苦しみを「よその国」の出来事とするには、日本の関わりはあまりに深い。
個人的に物心ついたとき既に日本は経済大国だったし、それを享受してきた自覚もあるが、その発展の礎には隣国の悲惨な戦争が含まれ、その戦争が今も終わっていないということ、しかも日本においてそのことはほとんど意識されないということ。意識せずにいられる状況の中で、価値観や歴史認識が形成されているということ。そういったことと否応なく向き合うことになる本だ。
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解放後(日本の「戦後」にあたる)の大きな出来事(解放、分断、済州、朝鮮戦争、維新、光州、IMF、セウォル、キム・ジヨン現象、等)について人々がどのような思いを持ってきたか。文学作品を紹介しながら、それらをたどっていく。それぞれの出来事が韓国の人々にどれだけインパクトのあることだったのかを教えられる。民主化前の出来事に関する部分は特にヘビーなので、現代から時代をさかのぼる構成にしたのは正解だったと思う。
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大げさにではなく、いままで抱いていた戦後のイメージが180度変わった。
通り一遍の韓国の歴史の本も読んでいたけれど、韓国と日本とでは、経験してきた歴史やそこから見える景色がこんなに違うのかと愕然とした。
この先、ドラマを見たりアイドルが兵役に行ったりするたびに、きっと本書の内容を思い出すと思う。
戦後、朝鮮特需や韓国への罪悪感とともに戦後を乗り越えてきたという日本人の姿は、ヘイト渦巻く現代には見えなくなってしまっているけれど、たしかにもう少し昔の人たちは日本の戦争責任や反省をもっと普通に口にしたり書いたりしていた気がする。ごく最近読んだ茨木のり子さんのエッセイでも、日本が朝鮮を植民地化していたことを失念していて恥じ入る記述があったけれど、今あんなことを書こうものなら叩かれかねないもの…
セウォル号に関しては、政治や社会が正常に機能しなくなりつつある今の日本を予見しているかのような内容でゾッとした。民営化によって人命救助が十分にできなかったとか、船長は非正規雇用せだったとか、当時操縦していたのは新人だったとか。知床遊覧船の事故も、これを読み終えた直後に起きた梨泰院の事故も、根っこは同じな気がする。
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まず声を大にして言いたい事は、タイトルと装丁はシンプルだけど中身は濃厚てんこ盛り!時系列を遡るかたちなのもわかりやすいし情報量が凄い。これまで漠然と聞き流していたニュースや両親から聞いていた時代のことが次々に繋がり出す感覚に圧倒され、基本的に本は図書館で借りる派だけど読了後即、発注しました。巻末の年表はこれから資料としても何度も見直すと思う。
ポリタス 石井千湖さん推薦本
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東アジアで隣同士の国。日本と韓国。似た風土であるが、過去からの文化も違い、また歴史も違っている。その韓国の文学を最近から遡って日本からの解放までの時間軸で文学を論じている。沢山の読んでみたい本を紹介された。それらの本で少しでも韓国の風に触れたいと思う。
第一章:キム・ジヨンが私たちにくれたもの、第二章:セウォル号以後文学とキャンドル革命、第三章:IMF危機という未曽有の体験、第四章:光州事件は生きている、第五章:維新の時代と「こびとが打ち上げた小さなボール」、第六章:「分断文学」の代表「広場」、第七章:朝鮮戦争は韓国文学の背骨である、第八章:「解放空間」を生きた文学者たち、終章:ある日本の小説を読み直しながら。
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隣国を知ることで、自国の特徴を知ってみようと、本書を取る。
が、本当にここまで悲惨な状況なのだろうか。文学では過剰に表現されるためなのか。
彼我の差を感じずにはいられない。
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なぜ韓国文学に惹かれるのか今までうまく言語化出来ていなかったが、『修復』という単語を見てなるほどと思った
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韓国の文学について、韓国の歴史の中での大きなできごとを織り交ぜながら記述されている本。
セウォル号事件は知っていたが、ほかの事件やIMF危機、朝鮮戦争など、知らないことが多すぎた。ここまで悲惨なことが起きていたとは。
国の主導権を国自身が握れないことの恐怖、そして今なお戦争が終わっていないことの重大さ、 日本人はもう少し関心を持つべきだと思った。
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2023.3
この3年で触れてきた本・映画のことや、その間色んな作品に触れながら自分なりに学んできたことを振り返っている。と同時に読みたい・観たい作品が増えていく。知りたいことが増えていく…(そして気付けばまた夜更かしをしている)
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『少年が来る』で光州事件についてあまりに知らなさすぎたので、こちらでお勉強を。
『82年生まれ、キム・ジヨン』が書かれる背景となった江南女性殺人事件、韓国におけるフェミニズム文学に始まり、セウォル号、IMF危機、光州事件、朝鮮戦争へ、韓国現代史を遡りながら文学との関わりを解説している。
著者の斎藤真理子さんは韓国文学を読む人なら知らない人はいない翻訳者で、日本における韓国文学ブーム立役者のひとり。ハン・ガンの文章の美しさは原文はもちろん翻訳の力も大きいのだと思う。本書でも、非常に重く、複雑な韓国の歴史を読みやすい文章で解説してくれている。
梨泰院の事件のときも感じたことだが、韓国で起こる事件は突発的なものではなく、そこに社会の矛盾だったり、歪みみたいなものが関係している。少なくとも韓国の人たちは何か事件が起きたとき、それを運の悪い人に起きた他人事とはとらえていない。
本書が時系列ではなく、遡る形で現代史を追っているのも象徴的で、現代の韓国は朝鮮戦争、さらに日本の占領時代から続く死者の蓄積の上に成り立っているという意識がどこかにある。韓国文学は直接に歴史を扱っていない作品でもそれを忘れていない。BTSが歌詞の中に光州事件を象徴する「518」を入れてくるように、現代の若者たちにとっても遠い昔の話ではないのだろう。
朝鮮戦争は日本の占領とは無関係ではありえないのに、朝鮮特需という後ろめたさもあり、日本はその後に続く韓国の困難な歴史から目を逸らしてきたという部分も納得。しかし、本当に私たちは隣の国に対して無関心すぎたのではないか。
韓国文学になぜ惹かれるのか、韓国文学のもつ力の源泉とは何かがよくわかる一冊です。
図書館で借りて読みましたが、ブックリストだけでも手元に欲しいので新たに購入しました。
以下、引用。
41
私はそこに、個人の中の社会と社会の中の個人を浮き彫りにする韓国文学の底力を感じる。
57
「誰かの苦痛に共感することと不幸を見物することとはまったく違う」
95
この本を読むことは、今まで知らなかったスポーツをする体験に似ている。身体にかかる負荷が独特なのだ。たとえていうなら、水の中でやるべきではない動作を水の中でやっているような、異様に重い食器で食事をするような、今までにない感覚である。それは、死に一歩踏み込んだ状態でハン・ガンが書いており、それを追体験する形になるからではないかと思う。
189
韓国で、開戦の日付によって戦争が記憶され、語られていることは重要だ。
逆に韓国では、戦争の入り口である六・二五を絶対重視し、休戦協定が成立した七月十七日には関心を寄せない。それはもちろん戦争が終わっていないからである。
212
わたしだけが見ているのなら、そこに何か意味があるのではないか。
わたし一人だけが見ているのなら、それを証明する責任があるはずだ。
226
日本の植民地にされ、第二次世界大戦に何の責任もなかった朝鮮がアメリカとソ連によって分割占領され、五年���、全土が分断されたまま大きな戦争が始まり、第二次世界大戦による日本の死者数よりずっと多くの人々が死んだことは何度でも思い出すべきだろう。
231
若いときに最初の戦争を経験した彼女らは、人生の中でいつ何時でも二度めの戦争が起こりうると思い、それは思うというよりほとんど無意識の確信と予感であり、それを抱えて生きてきたため、ときおり、知らず知らずのうちに同じようにして過去が今でもここに現存していると認めるしかないことがあり、そう考えると自分たちの人生の内側では……つまり心の中では……戦争が完全に中断されたことはないみたいだ、と言った。
267
「儒教やシャーマニズムに由来する伝統的な死生観のゆえに、韓国の現代史は無数の死者たちが突き動かしてきたといっても過言ではない。時代と時代の裂け目に既成社会の矛盾を露呈する衝撃的な大量死、または個人の死が発生するごとに、もとより人びとのなかに積もっていた鬱憤が一気に噴き出し、それが社会を一新するような大規模な地殻変動をもたらしてきたのである」
291
私たちは未だに分断が現実である世界に、韓流ドラマやK-POP人気とヘイトスピーチが同時に渦巻く日本に生きている。
302
「良い小説とはたいがい、価値ある失敗の記録だったりします」