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西田幾多郎の生涯にわたる思想の変遷を簡単にたどり、彼の思索の歩みを一貫しているものについて論じている本です。
『善の研究』において「純粋経験」の立場に立って哲学的な思想を構築した西田は、その後「自覚」「場所」「絶対矛盾的自己同一」と、その立場を変えてきました。しかし著者は、そうした西田の思想にはつねに「真正の自己の探究」という根本課題を追い求めてきたものであるといいます。そして、このような西田の思想は、禅における「己自究明」の精神に通じるものであり、東洋思想の伝統を受け継いだものだと考えられます。
さらに西田哲学には、自己の内への超越をめざす宗教的な性格が見られると著者は述べています。これは、自己の外に「超越」を求めるプラトンの二世界論とは異なる発想にもとづいた思想であり、プラトンの「善」が「形相の形相」であるのに対して、西田の「自己」は「質料の質料」というべき性格をもっており、こうした西田哲学の特徴が彼の「場所」の思想に見られると論じられます。
西田の思想の変遷を簡単にたどりつつも、その中心となる思想につねに照準をあてて解説をおこなっているところに、本書の特徴があるということができるように思います。