中立政策の難しさ
2024/02/27 16:32
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二次世界大戦中の北欧4カ国の出来事についてよくわかる本。どの国も中立を宣言していたがフィンランドはソ連に侵攻されノルウェー、デンマークはドイツに占領、スウェーデンも中立政策を掲げながら対独協力を余儀なくされた歴史が語られる。本書はソビエト崩壊前に書かれた本だが、2022年のロシアによる蛮行によりスウェーデン、フィンランドがNATO入りしたように現代にも通じる安全保障のあり方が問われているのがわかる。
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激動の第二次世界大戦中、大国独ソの狭間で北欧の小国はいかに生き延びたか。その苦闘の歴史をドラマチックに綴る。〈解説〉岡崎久彦〈新版解説〉大木 毅
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現在、北欧諸国は比較的政治が安定しており、平和な印象を思い浮かべるかもしれない。実際、どの国も治安の良さや社会福祉の充実度は世界屈指である。しかし、第二次世界大戦時代において、各国が辿った運命は必ずしも同じではない。奇跡的に参戦せずに済んだ国もあれば、戦争に参加せざるを得ない状況に追い込まれた国もある。本書はそんな北欧の国々の歴史、具体的にはフィンランド、ノルウェー、スウェーデン、そしてデンマークの歴史的経緯に着目して、現代の政治体制に至ったのかを見ていく。
まずフィンランドの歴史であるが、この国はソ連とフィンランドとの戦争(冬戦争)で、一部の領土割譲で和平協定を締結した歴史がある。これはフィンランドの軍人マンネルヘイムの活躍が重要であった。圧倒的な資源や人口を持つソ連と比べて、フィンランドは小国であり、ゆえにソ連のほうが戦争において優位な立場である。そんな現状を把握したうえで、マンネルヘイムは、国軍が健全な状態である間に、和平交渉を成功させることが残された道だと判断した。国際連盟や隣国があてにならない孤立状態だと理解していたため、ソ連との交渉で一部の領土を割譲せざるを得なかった。しかし、それによって最悪のケースは避けられ、犠牲者をむやみに増やすことなく収束した。一方で、その後フィンランドがナチスドイツと手を組んで、ソ連の戦争に参戦した(継続戦争)経緯ははっきりしないという。
ノルウェーの場合、1940年ナチスドイツがノルウェーに侵攻して、傀儡政権が立てられた。ナチスドイツによる占領期間、ノルウェー政府を掌握したのがキスリングである。キスリングはナチスドイツに感化された人物で、政権を担った際、王位廃止、議会の解散などを実行して、キスリングに同調しない者は排除された。そんな状況下でも、抵抗運動は活発化しており、ドイツの敗北が決まり、キスリングは逮捕されて死刑が下された。
北欧諸国で、唯一最後まで中立国を保ったスウェーデンは、本書を読むと偶然が重なって、結果的に中立を保てたことがわかる。それと同時に、中立保持が参戦国と比べて、どれほど孤立な戦いで危ない橋を渡っていたのがわかる。スウェーデンにも、キスリングのような人物は存在したが、キスリングほどの指導力がなかったおかげで、ノルウェーと同じ道を辿らずに済んだ。これもある意味偶然であった。
最後にデンマークの歴史であるが、この国の場合、ドイツの侵攻からわずか4時間で降伏した。これは本書で言及されているが、デンマークには逃げるべき山岳地帯はなく、土地が平坦であった。また救援の余裕もなかったことから、抵抗できる時間がわずかであった。このように、北欧諸国は別々の運命をたどってきたが、いずれにせよ第2次世界大戦の経験から大国の恐ろしさを痛感し、小国ならではの安全保障を模索したのである。