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シリーズ1作目の『試験に出る哲学』は、プラグマティズム、実存主義、ウィトゲンシュタインで終わったが、3作目の現代思想は「二〇世紀後半の半世紀に脚光を浴びた哲学や思想」(p.3)で、具体的には「ドイツのフランクフルト学派、フランスの構造主義やポスト構造主義、アメリカを中心とした現代正義論」(同)を扱っている。人物としては、フッサール、ベルクソン、フロイト、ソシュール、ホルクハイマー、アドルノ、ベンヤミン、ハーバーマス、ホネット、レヴィ=ストロース、フーコー、ドゥルーズとガタリ、デリダ、レヴィナス、アーレント、ロールズ、セン、サンデル、ローティ、ピーター・シンガー、ボーヴォワール、バトラー、ギリガン、ハンス・ヨナスなど。
正直言って、少なくともおれの経験だけだったら、高校で倫理やってもせいぜいキーワードを1語覚えているかどうかで、思想の内容まではよく分からないし、そんなところまでセンター出ないから大丈夫、というのが正直なところだった。おれがセンター受けたのが2003年とかなので、その時点では少なくとも本試ではこの辺の「現代思想」ってあんまり出てなかったんじゃないかと思うけど。取り上げられている過去問を見ていると2020年の本試験でデリダとかノージックとか、おれの頃とは違うのかなあ。ということもあって、1作目の『試験に出る哲学』とは違っておれにとってはとても難しかった。サラッと読んだだけではあんまり頭に入ってこない。
あとは興味深いと思ったところのメモ。ホネットの承認論、って初めて聞いたけど、「愛、法、連帯を通じて他者から承認されることは、それぞれ自己信頼、自己尊重、自己評価を育むことへとつながっています。いわば私たちは、他者からの承認を通じて、自分の人生が生きるに値するものだという自己認識を得ることができる」(p.117)だそうで、要するにみんな承認欲求に飢えてるってことなのか、と考えるとそんなにすごい話じゃないなあとか思ってしまった。フーコーのパノプティコンは知ってたけど、その世界をディストピアとして描いた小説が、伊藤計劃という人が書いた『ハーモニー』というSF小説らしい(p.148)。ぜひ読んでみたい。ドゥルーズとベルクソンも名前くらいしか聞いたことなかったが、「ドゥルーズの『差異』や『生成変化』という発想は、ベルクソンの哲学から大きな影響を受けています。ベルクソンはこの世界を切れ目のない流れと捉え、それを『持続』と呼びました。ドゥルーズは、それを『差異』という概念で捉え直した。これは諸行無常と近い考え方でしょう。世界は常に転変していて、何一つとして『同じ』である状態などありません。(略)構造主義の『構造』はがっちりした感じがしますが、世界を差異と捉えれば構造もまた仮りそめのものにすぎません。ドゥルーズのみならず、ポスト構造主義のキーワードが『差異』と呼ばれるゆえんはそこにあります。」(pp.155-6)ということで、これは分かりやすいから覚える手掛かりになるかも。あとはリベラリズムとかリバタリアニズムも整理できて良かった。リベラリズムは「市民的な自由と平等を両立させる立場のことをいいます。アメリカでは個人の自由を尊重することは大前提であり、その上で富の再分配���どを通じて弱者への配慮を支持する立場がリベラル」(p.191)、「個人の精神的自由や経済的自由を絶対的に尊重する立場をリバタリアニズム(自由至上主義)といいます。リバタリアニズムは政府による富の再分配や銃規制のような法的な規制に対しては、個人の自由を脅かすものとして徹底的に反対します。」(pp.191-2) ということらしい。あと関係ないけど、ハンナ・アーレント「ハイデガーの愛人」(p.196)とか、興味深い。あと「動物倫理学」なんて、高校倫理の分野では聞いたこともなかったが、ピーター・シンガーというオーストラリアの功利主義者が『動物の解放』という本を書いたのが始まりらしい。あと最近職場でジェンダーについての講習会みたいのがあって、その時にも話題になってたと思うけど、「生物学的な性差として語られる事柄もまた、社会的に構築されたものにすぎません。私たち人間が言語で事物を理解する以上、生物的な性差も、言語を通じてしか語ったり理解したいすることはできない。だからこそ『セックスは、つねにすでにジェンダー』」(p.254)ということに改めて納得した。
1作目の西洋思想から続けた方がいいかなと思って、3作目の現代思想を先に読んだが、もちろん2作目の東洋思想も読むつもり。(26/09)