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イノセンスのゆくえ
2018/05/18 22:34
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治から昭和にかけての稀代の名棋士、そして悲運の名棋士である雁金準一の一代記が書かれるのは、もう感涙しかない。
著者は、いろいろあるが、将棋界のタニマチとしても有名で、これも悲劇の真剣師小池重明をモノにしているのだが、それが囲碁の話というのは意外なようで、コノ異端の人物を描けるのはコノヒトでもあるかもしれない。
雁金の第一線での活躍は明治後期からなのだが、明治御一新の囲碁界から筆を起こすのは、いささか大時代めいてはいるにせよドラマチックであり、封建制化の権威、格式の時代から合理主義の時代へ移っていく中での棋士たちの苦闘は、確かに雁金の時代にも続いている流れで、大事な前段なのだが、講談調の因縁やら怨念やらが強調されすぎて、技術的な革新に触れられなのは、著者の性質なのか、一般読者向けに分かりやすい仕立てにしたのか。
結局未完で終わっている。雁金の生涯は、本因坊継承争い以降、裨聖会旗揚げ、棋正社・日本棋院対抗戦、瓊韻社設立と呉清源十番碁など、昭和に至るまでさらに波乱万丈なのだが、その最初の山で終わってしまっている。伊藤博文の書生として可愛がられた少年時代はいいとして、成人後も、周囲に気を使って流されていくイノセント青年のままで描かれているが、その後の幾多の蹉跌が彼を、柔軟でありつつも強靭な精神の持ち主にしていったと思われる、その行く末、あるいはそこにつながるような精神遍歴の端緒でも見られればと思う。
しかしこう書いてみると、雁金は単純に悲運の棋士とも言えない、実り多きものだったようにも思う。裨聖会は総互先ルールを史上初めて持ち込んだし、段位が下の呉清源とも互先で対局し、不遇にありながら多くの門人を育てた。才能のある若者にチャンスを与えようという一点で、彼の意思は一貫していたようにも思う。その弟子の一人の富田八段が育てた台湾人少年王メイエンが、2000年になって本因坊のタイトルを獲った。孫弟子の代になって宿願が実を結んだとも言える、と言い添えておきます。
人物造形や文章は類型的だし、その上に展開もくどくどしいところなども残念ではある。ただ明治開花の時代から、近代化、合理化が破壊的に進む中で、伝統を受け継ぎ、発展させていこうとする人々の意思が全編から滲み出ている。それは雁金だけでなく、その周囲にいた、囲碁界を支える立場にいた人々みなが同じ思いだった。伊藤や、師匠中川亀三郎、その後弟子入りした本因坊秀栄、生涯のライバル本因坊秀哉、雁金たちを翻弄した策士高部共平、明治碁界のスポンサー高田商会の文子夫人と、名棋士、名伯楽と呼ばれる人たちは、それぞれ強烈な個性の持ち主だが、それぞれの囲碁に対する愛情の物語がここに紡がれている。
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