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読者からの質問に一問一答で答えるスタイル。マーケティングの話のみならず、ブランディング、DX、部下の育成などマーケティングに従事する人達のよくある悩みに答える。著者は考え方が一貫していて、かつ、これまでの多くの経験から導き出させる回答を説く。
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マーケティングとは、市場創造である
「目的」と「資源」を推察する2つの問い
「なぜそんなことをするのか」
「なぜそんなことができるのか」
「志望動機」で会社のニーズを解釈し、自身の経験や特技を踏まえつつ、「自己PR」でそのニーズを解決するベネフィットを提示できる人物
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全てのマーケティング活動には「達成すべき目的」があり、使える「資源は有限」です。そこで、資源を有効に使うための指針が必要です。この指針が「戦略」です。戦略は「重要な」「長期的な」「計画的な」などの言い換えや、高尚な雰囲気を出すために曖昧なまま使われたりしますが、「目的達成のための資源利用の指針である」と定義づけられます。戦略というと難しそうに思えますが、その構成要素は前述の通り、「目的と資源」の2点だけです。戦略を明確にしておくことで、計画をうまく立案しやすくなるだけでなく、正しい意思決定も示唆してくれると思います。
実際に戦略を開発する際には、①目的の再解釈、②資源の解釈、③資源の優勢を図ること、の3点に気を付けましょう。
①目的の再解釈
目的を明確にした後、再解釈をすることで戦略の選択肢とします。例えば、「来期は10億円の売り上げ増を達成する」という目的が示された場合、この「10億円の売り上げ」は(A)「10万人の新規ユーザー」を意味するかもしれないし、(B)「100万人の既存ユーザーが年に1回多く使う」、あるいは(C)「既存ユーザーの10%が買い替えをする」などと示されるかもしれません。それぞれの再解釈案(A)(B)(C)が、いわば戦略の選択肢です。10万人の新規ユーザーを獲得するアプローチと、既存ユーザーに1回多く使ってもらうアプローチでは随分と異なりそうです。いずれも目的を達成できますが、この時点では、まだどれを選べばいいか分かりません。
②資源の解釈
(A)から(C)のそれぞれの選択肢に対して、どのような資源を投下できるか考えてみましょう。新規ユーザーを獲得するのに十分なマーケティング予算が用意されているとか、既存ユーザーのうち追加使用をしてくれそうなユーザーが200万人は確実だとか、既存ユーザーの買い替えを来期に5%程度は見込めそうだ、などと把握できるかもしれません。
③目的と資源を比較する
①で再解釈した目的と、②で解釈されリストアップされた資源を比較します。再解釈された目的に対して、資源が多めであれば、実現しやすい戦略案となっていることでしょう。目的に対して資源が多めであることを「資源優勢」と呼びます。山に登るとき、山頂に至るルートがいくつかある、といった場合を想像してみてください。再解釈案はそれぞれのルートです。リストアップされた資源は自身の装備や脚力のことです。自身の装備や脚力(資源)で登り切れるルート(再解釈された目的)を選んでいれば、登頂の可能性は高まります。
戦略の概要とつくり方を簡単に説明しました。本編で、悩みや迷いを解決する際にも使うことの多い考え方です。目的とか資源といった言葉が出てきたときには、この説明を随時参照してみてください。理解しやすくなるかもしれません。
▪️SDGsを考えることは、ブランドの存在理由を考えること
外務省のWebサイトによると、「持続可能な開発目標(SDGS:Sustainable Development Goals)とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です」とあります。いろいろな解釈がありそうですが1つの考え方として、「国連が全会一致で合意した大義である」とも理解できます。
宗教や民族、国家の歴史や政治体制などの立場によって大義や正義は異なるので、衝突することもあります。経済発展と環境保全のように、両立が難しくトレードオフが発生することもあるでしょう。正義の反対にあるのは悪ではなく、別の正義だ、といった考え方もあります。同じ活動でも、立場によって善悪の見え方が異なるのは世の常です。そうした困難な世の中において、様々な立場を超えて全人類が合意できる大義が、国連によるSDGSであると解釈できます。そして、人類が希求すべき大義の実現に貢献するブランドは、立派で親しむべきブランドである、という連想を獲得できそうです。消費者の選好に影響しても不思議ではありません。
基本的なことですが、意外と忘れられがちなので、まずは成功した状態を目的として明示しましょう。次いで、マーケティング部門のビジョンやパーパス、つまり大義や存在意義を示しましょう。併せて、ミッションやバリューなど役割や行動規範を明示するのもいいアイデアです。理念を共有できれば、一緒にがんばりやすくなります。同じ釜の飯を食うように長い会議に出なくても大丈夫です。ブランドマネジメントの部門全員で心底共感し、共有できる理念をつくり、浸透させましょう。この理念が、善悪判断の基準として使えます。
理念の実現に資するのであれば「善」、そうでなければ「要改良」です。これで、目的と理念に基づく団結を期待できます。とはいえ、教条主義的・原理主義的にならないよう注意が必要です。原理主義的な正義では、律することが目的化してしまうこともありそうです。
▪️ブランドマネジメント文化の導入
①成功した様子を目的として明確にする
②部門として何を目指すのか、ビジョンやパーパスをつくり浸透させる
③目的と戦略によって健全な権限委譲できるよう仕組み化する
④失敗を自分のせいにできれば、成功も自分で管理できる
⑤知識や学びを大事にする
⑥ブランドの長命を尊ぶ
▪️電気のような商品こそベネフィット訴求で差別化を図る
質問:私は春から電力会社で働きます。電力のように商品自体を差別化しづらいものでも、機能ではなくベネフィットでのアプローチは適用できますか?
・機能や性能でポジション確立するブランドは少ない
最近では大手の電力会社だけでなく、新電力やガス会社や通信会社など、様々な業種の会社から電気を買えます。そして、供給される電気そのものに差はなく、違いは料金プランくらいのように見えます。エネルギーの小売りが自由化されたことで、マーケティングへの意識が高まったことでしょう。昨今の世界情勢や経済環境の変化から、目に見えるマーケティ ング活動はやや控えめになっているかもしれませんが、競争環境が本質的に変化したことは間違いないと思います。
こうした市場環境にいると、「製品の機能や性能で(大して、あるいは全く)差別化ができ ない特殊な市場だ」と説明されることも少なくありません。全くその通りだと思います。同時に、製品で差別化しにくいのは、電気やガスに限ったことでもありません。ブランドマネジ メントが発展した洗剤、水、ビール、あるいはもう少し複雑な製品を扱うクルマや家電、コン ピューターなどの領域でも、機能や性能の違いは頻繁に体感できるものでもありません。で ありながら、認識の上ではそれぞれが大きく異なって理解されていることも多いように思い ます。機能で差別化しにくいからこそ、消費者が認識するベネフィットや、ブランドが持つ意味を通して、包括的な差別化を志向する意義が大きいように思います。
新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギー環境の変化を通して、電カサービスの「低価格」という属性の反対側に、「高価格」ではなく「安定供給」という属性 が見えてきました。また、「低価格」であったとしても、それは条件付きであることが分かっ てきたかもしれません。最安値はA社かもしれませんが、最安値を維持するために「電気を使う時間を気にする」といった努力が必要だったり、「もっと安い方法があるのではなかろうか」と、そこはかとないストレスが続いたりするなら、特殊環境下での最安値が最適とも限りません。ブランドの違いを示す変数が価格しかないように見えていた電力でも、「安定して 使えるから安心して暮らせる」とか「年間通して料金比較を気にせずに済むので気が楽だ」など、多様なベネフィットの訴求を通して、ブランドの差別化が可能であると分かります。
自社の観点から世界を眺めると、自分たちはとても差別化がしにくい、特殊な製品やサービスを扱っているように見えると思います。確かに、全てのビジネスは固有で、それぞれに 難しさがあります。同時に、機能や性能の違いを認識しにくい製品カテゴリーは珍しくありません。むしろ、機能や性能の違いだけでポジションを確立しているブランドは、意外と少ないのではないかしら。
▪️P&Gの人事リーダーから受けた大事なアドバイス
「面接には3つ、大事なことがあります。第一に、優秀な人材を選別するのではなく、向い ている人に気付くこと。全面的に有能な人物も、全面的に無能な人物もいませんが、向いている人物や不向きな人物はいます。そこで、現時点での能力の高低ではなく、向き不向きを見ましょう」
確かに新卒であれば、面接を受けに来るのは大学生です。現時点の能力よりも、必要な能力を獲得するのに向いていることのほうが大事でしょう。そして「向き不向きは、その場の発言だけでなく、実際の行動から確認しましょう」とアドバイスされました。ハキハキした発言だけでうっかり評価してしまわぬよう、注意喚起だったのかもしれません。これは必ずしも「成功体験や成果を重視する」ということではなく、「実際に実行に移した思考を見よ」ということと理解しました。
「第二に、評価基準にかかわらず、一目で優秀だと分かる人材が少しいます。こうした人については、評価や選抜の場というよりも、会話を通して魅了する場です。キャリアの可能性や社内の雰囲気などを正直に説明し、うまく魅了しましょう」
学生だった頃の自分に対する面接が、果たして選抜だったのか、それとも魅了するための説明だったのか、記憶はかなり曖昧です。魅了された��うな気もしますが、勝手に魅了されただけのようでもあります。そうした人材に当たった場合に備えて、魅了する文言を用意しておきました。
「最後に、たとえ不合格であったとしても、うちの会社のユーザーになる可能性は十分あります。消費者との大事な接点でもあるので、好印象で終わるよう心がけましょう」
社会心理学の実験のように、面接担当者は偉そうになりがちです。こわもてであれば、座っているだけでも圧迫感があります。真剣に聞いているのか不機嫌なのか、一見分かりにくい人もいます。にこやかに笑う方法も指導してもらいました。
加えて、できれば面接の終わり際に強みをアドバイスしてあげるようにも言われました。自身の強みを知ることで、自分に向いている仕事や会社を探しやすくなるかもしれません。
とはいえ、既に何十年も前の話です。今でもそうであるかどうか、確認していませんので、実践に際してはご注意ください。
私がダノンジャパンにいた時、とてもずうずうしいけれど、とても頭の良いフランス人の上司がいました。彼はある日、自分の部下のフランス人についてこう言ったのです。
「お前たちは、何でこんな日本語もしゃべれないヤツを日本に連れてきたんだと思っているだろう。でもヤツの目を通してでないと、お前たち日本人が自然と無意識にやっていることの違和感に気付けないんだ。だから普通にしていたら、自分たちでは気付かないところをヤツに探させろ」
その場にいた全員が大いに膝を打ち、素直に腑に落ちました。常識を共有しない視点を通してみることで、いままで看過してきたことに気付けます。