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「一部に話題になっている」というように見受けられる本に興味を抱き、入手してゆっくりと紐解いた。そして素早く読了に至った。
本作はフィクションである。「2022年7月の或る日に事件発生」という辺りから物語は起こる。勿論、実際の事件に着想は得ているのだが、飽くまでもフィクションである。とは言え、「飽くまでもフィクション」と断ってみたくなる程度に、「事件が在ったとすれば起こり得る事柄」がリアルに描き込まれていて引き込まれる。
物語は「事件発生」から起こる。
群馬県高崎市の高崎駅前で、衆議院選挙の街頭演説が催されようとしていた。地元出身の元総理が議員を退き、息子が立候補している中で応援弁士として登場しようという時だった。銃声がして、元総理は斃れてしまった。
この事件を巡っての警察官僚等の動き、解明し悪い事件の真相、そして「その後?」というように物語は展開して行く。
本作の、殊に最初の方は異常な事件が起こってしまっている中で、適宜様々な場所に在る人達が視点人物となるのだが、全般的には元首相の事件が発生した時点で47歳の警察官僚である山田が主要視点人物となっている。
元首相の事件が発生した時、山田は警察庁の外事課長であった。事件発生と続報が伝わる中、直ぐに逮捕されたという被疑者の氏名に引っ掛かりを覚えた。同年齢で、友人と言い得る間柄の、防衛相の情報課長を務める井上との非公式な遣り取りで取沙汰していた名であったからである。
事件そのものの謎を解くというよりも、事件を巡って起こる様々な事態と、それらを経ての関係者が目指そうとするモノということが主眼になる物語である。
実は作者は、警察の公安部門での長い勤務経験を有している人物であるという。外事課や危機管理部門で勤務していたそうだ。そういう経験に依拠した見聞や発想が散りばめられた本作は、少し独特な空気感を放っていると思う。
単純に物語を愉しむという意図で読んでいても、何か「色々な事柄を考える材料」という雰囲気も帯びる。なかなかに興味深い読書経験が出来ると思う。御薦め!
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まずは、「一日」の話ではなかったこと(マイナス点)。
それどころか、11年にも及ぶ長い話だった。
昨年(2022年)の元首相の暗殺事件を題材にしているということで、興味を持って手に取った。前半は良かった。多分に陰謀論に傾く内容だけど、あくまで「小説」として面白く読めた。が、後半は、事件を発端に、日本にも独自の情報局を作ろうという話になり、それが10年続く。
あとは、もの書きのプロによる筆ではない点がマイナス。
一番読みにくいのは、会話の「」と、内面の思い、モノローグも同様に「」で括られていて、最後まで慣れることなかった(これはどっちだ?と都度、立ち止まる感じ)。こんなの、編集、校正の段階で、簡単に直せると思うのに、なんで放置??
といった欠点はあるものの、面白く読めたのは、近頃、喧しい情報、インテリジェンスにまつわるお話だったからだろうか。少し前に読んだ池上彰氏によるスパイものの本や、毎日新聞社によるOSINTという情報活動にまつわるルポの影響で、本書も手にしたのかと思ったが、図書館に予約を入れてからしばらく日が経っていて思い出せない。書店に陳列されている画像を押えてあったので、多分、書店でたまたま見つけて興味を持ったのだとは思うが。
ということで、2022年7月の元首相暗殺狙撃事件の当日から物語はスタート。本書タイトルのとおり、この一日が具に語られていくのかと思ったが、日時は刻々と過ぎて行く。
ともあれ、この暗殺の背後には、宗教団体が関与していて、さらにその背後にはアメリカ(=CIA)の存在があったことを仄めかしながら話は進む。さらには、この事件に、世間の注目が集まらないように、国民が関心を寄せそうな別の事件をぶち上げるという裏工作もアメリカが仕掛けてきているという、陰謀論が存分に展開されていく。ただ、そのぶち上げる別件も、元首相の暗殺事件が実際にあった事件であるのと同様に、東京五輪2020に絡んだ実際の大規模収賄事件である点が面白い。そのタイミングも、まさに、元首相暗殺事件にこれ以上注目が集まらないよう、世間、マスメディアの目を逸らすかのように展開されていたんだぞと、事実と符合するように、本作「小説」の中で語られていく。なかなか面白い。
もっともっと、宗教団体の闇(旧統一教会は、KCIAとCIAが反共のために作ったもの)や、暗殺の意図について、深掘りしてくれるのかと思ったら、主犯者などが自殺してしまい真相究明には至らない。そこは、実際に分かっていたとしても、踏み込んではいけない領域と著者も筆をおさめたか? いろいろ妄想が膨らむ。
後半は、故に、日本独自の情報機関、JCIAの設立が必要だ、ということで、登場人物たちがその後10年間、奮闘努力するのだった。
ちょっと尻切れトンボ感はあるのだが、本書を読んで、あれこれ日本の置かれた状況、国際情勢、今後の情報の見方、捉え方を再考する“材料”を提供してくれている一冊として、読んでおいて損はないと思うところ。
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全然一日じゃないし!
あの実際の事件にはCIAが絡む陰謀説がおよそありそうな仮説で統一教会がなぜあそこで噴出したかなど上手く構成されているなぁと感心するも、機関、役職名が名が長すぎてそれが読むテンポを悪くするばかりか、登場人物が山田に石田に村田。もうちょっと考えてほしいし、女性は小説定説通り苗字でなく名前で表記してくれないから誰が誰やら迷いそうになった。あくまでフィクションなので少々の無茶はOKなのでもう少し展開を早くしたら面白かったのに実際時間ぐらいに遅遅として進まない状況に眠気猛襲でしんどかった。話がマクロな割に全体的な構成がミクロ過ぎて大胆さが弱い。エンターテイメント性に欠ける。
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元公安警察が書いた、安倍元首相狙撃事件を基に書き下ろしたポリティカル小説である。半分ぐらい読んだところで、あとはサラッと読んで終わらした。何故か。
勿論小説と謳っている以上、小杉元首相狙撃の真相もフィクションとして書いているのはよくわかる。ただ、CIAや中国の暗躍にいついて、またそれらの動きの原因となったと思われる日本版CIA(JCIA)を小杉元首相が立ち上げようとした動きについては、なんかいやらしいという感覚がついて回った。極東平和教会(統一教会がモデルなのは明らか)や安保関連三法や軍拡の動きについて今年冬までの情勢は、そのまま殆どリアルになぞっている。
著者は主人公・山田警察庁警備局外事情報部外事課長の呟きを借りて、「陰謀論やフェイクニュースに気をつけなくてはならない」と再三言わせているが、この本全体を通して書いているのは、日本にも「情報戦」を一手に引き受ける「JCIA」が必要だという主張、その一択である。「戦争が起こるぞ。戦争に備えよ。情報戦争プロであるCIAを持て」という「情報戦対処戦略」の一環が本書だと思えて仕方ない。陰謀論を真実のところで把握しているのは私だ、という自意識がぷんぷん見えてきてページを捲れなくなった。
ちなみに狙撃事件の「長い1日」はあっという間に終わって、最終的には2034年まで、近未来まで話はつづいてゆく。全然「長い1日」じゃない。
決してホラーやイヤミスではないけど、一言で言えば、ものすごく気持ち悪い本だった。
私は、情報屋が国の未来を正しい方に導くとは絶対に思わない。現代でも、ウクライナ戦争の未来は、情報を正しく把握し、或いは情報を操作した側が「最終的に」勝つとは思わない。戦争はこの20万年間の人類史の、つい最近かかったウイルスによる深刻な病だと思っている。だとしたら、適切なクスリは必ず作られて、戦争という病は根絶できるだろう。
今年3月発行。今のところ、図書館の予約は居なくなりそうにはない。