世界はこんなふうにして出来ている
2022/12/21 14:53
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
もしかしたら、
この世界にいる自分ではなく、
別の世界にも自分がいて
まるで違う生活を送っていたりしないだろうか。
あの時、ああいう選択をしているのではなく、
違う選択をした別の自分がいる世界があったりしないだろうか。
藤野千夜さんが2013年に発表した『君のいた日々』を読んで、
そんなことを考えたりしていた。
不思議な小説だ。
「春夫」とタイトルにはいっている章では
春夫の妻久里子は亡くなっている。
「久里子」とタイトルにはいっている章では
夫の春夫はこの世にいない。
そういう章立てが3つずつある。
つまり、「春夫」と「久里子」の章は別々の世界だ。
不在なのは「久里子」であったり、「春夫」であって、
二人の息子はそれぞれの世界で生意気ざかりの高校生で変わらない。
春夫の姉も久里子の友人もちゃんとふたつの世界にいる。
そんな世界ながら、
どうしてこんなにもうまく行ったり来たりできるのだろう。
読み手である私たちは
もしかしたらそういう別次元の世界の存在をどこかで
認めているからかもしれない。
そして、それは物語の世界がもっている世界観であることに気がつく。
ページの中の世界はいつだってもうひとつの別のものなのだから。
だから、この物語は心地いいのは
それこそが読書の愉しみでもあるからだろう。
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投稿者:しんごろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある夫婦の妻を亡くした夫と、旦那を亡くした妻の場合のその後の生活を描くパラレルワールド的な話。ありふれた日常生活の中に愛がいっぱい溢れてるということを気づかせられ、愛してるからこそ愛する者を失うのが、こんなに寂しいものなのかという事を気づかされますね。自分も連れあいを失ったら春生と一緒で泣き虫になるな。間違いなく毎日、きっと泣いてる。心と体が弱ってる人はセンチメンタルに、元気な人は優しさを感じる作品だと思います。とにかく人に優しくなれる素敵な作品でした。そして、微妙に繋がってる構成もいいですね。
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著者作品で、若くない世代が主役の物語は初めて読む。
長年連れ添った夫婦の、それぞれがそれぞれを喪った、という話をパラレルに展開する。
各エピソードもよいが、登場人物たちの人間味が至高。
いい人・わるい人、という分類が不適切な人物で二人の主人公を囲むこの構成は、絶妙な言葉選びや描写と相成って、起伏のなだらかなストーリーを極めて印象深くしていると思う。
話もキャラクターも温か過ぎるのかもしれないが、違和感なく、味わい深かった。
4+
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すごく不思議な小説だった。
春生と久里子という、50代目前の一組の夫婦の物語なのだけど、夫婦が揃ったところは一切出てこない。
なぜなら春生は久里子を病気で失い、久里子もまた春生を突然死という形で失っているから。
妻をなくした男と、夫をなくした女。そして高校生になる息子の亜土夢。それぞれの生活が交互に綴られた短編集で、どちらの世界が本物なのか、どちらも本物なのか、それともどちらも偽物なのか、不思議な感覚に包まれたままラストへ向かう。
ミステリではないので謎解きがあるわけではなく、両方の世界が同じ時間に並行して存在している、そういう小説。
幸せだったから悲しい。
春生も久里子も、パートナーをなくした後でそれぞれそのことを実感する。
時間とともに忘れていくのは悪いことではない。でもまだもう少し、引きずっていたい。忘れたくない。悲しんでいたい。
日々の生活のあらゆるところに亡くした人の影を見いだしてしまうのは、誰か大切な人を亡くした経験がある人ならば、よく理解できると思う。
この人と人生をともに行くんだ。そう思えるパートナーとすでに巡り会えている人ならば、尚更この物語は胸に響くと思うし、自分に起こったことだと想像して悲しくなるかもしれない。
でも不幸な感じはしない。むしろ幸福。
幸せだったから悲しい。なくした後そんな風に思える誰かと出逢えるって、切ないけれどこの上ない幸福だ。
温かい読後感の小説でした。
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主人公の加部春生は去年妻の久里子を病気で亡くし、今だにめそめそしていて、一人息子で高校生の亜土夢にも呆れられています。そして妻の久里子も過労死で夫の春生を亡くしていて、亡くなったその日の朝に、昨夜の小さな喧嘩がきっかけでちょっとした意地悪をしてしまったことを悔いています。
1章ごとに交互に主人公が入れ替わり、同じ人物がパラレルワールドのように登場し、物語が進行します。妻を失った夫と、夫を失った妻の、それぞれの優しさが溢れる感動の物語です。ずいぶん泣きました。
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切なくて穏やかな話。話の流れを理解するのに少し時間がかかってしまった。身近にいる人との時間を大切にしたいと改めて思いました。
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夫を亡くした妻、その妻を亡くした夫をそれぞれの立場で書いた物語。泣いちゃうよね。何か置き換えちゃって。私はどうにか暮らして行けるかもしれないけど、夫は大丈夫かなぁ?
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日常のちょっとした「何だろ、これ」が、気味悪さでなく、ついつい亡くなった人に結びついたり、似た背格好の人を見つけると「ひょっとして」と思ったり。大切な人を亡くした人あるあるだった。残されるって本当に辛い。体はなくなっても、その人がなくなるわけじゃないといいな。また会えるといいな。
あとがきを木皿泉さんが書いていて、そういえば作品の匂いが似てるなあと思いました。
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君のいた日々
藤野千夜(ちや)
春生(はるお):夫
久里子(くりこ):妻
亜土夢(あとむ):高校生の息子
義姉
孝美(たかみ):久里子の友達、塾で働いてる
あっちゃん:孝美の妹、商店いずみやで働いてる
三浦さん:秘書課、春生と同じ会社
西沢さん:春生と久里子の若い時からの友人
配偶者を亡くした後の生活を、夫と妻のそれぞれの立場から描いた小説。
人生の半分を生きた夫婦の死別だからこその哀愁がある。
亡くなってもまだ存在を感じ、会いたいと願い、次第に受け入れていくような感覚をリアルに描いている。