投稿元:
レビューを見る
石原純という名まえを聞いてすぐ反応できるのは、物理をかじった人か、あるいはアインシュタインにとくに興味を持っている人くらいだろう。石原はアインシュタイン著「物理学はいかに創られたか」の訳者である。私も、その訳者ということでしか石原のことは知らなかった。どういう人物で、ほかにどういうモノを書いていたのか、今回本書を読むことで初めて知ることができた。おもしろい。やはり伝記は抜群におもしろい。石原の物理学における専門的な功績はもちろんあるだろう。しかし、それ以上に一般向け、あるいは子供向けに書かれた物理学や相対論や科学論や科学教育などの本の方が大きく後進に影響したようだ。朝永や湯川も刺激を受けたとのこと。石原が科学教育について書いたことがらを著者があとがきでまとめている。「科学教育では科学的に知られたことばかりを教える(知識の詰込)のではなく、科学的に知られていないことがいかに周囲に満ちているかを十分に説明する必要がある。子どもたちが自発的に疑問を抱くように、しかも適切な疑問を抱くように導かねばならない。子どもたちの質問に対してはなるべく子どもたち自身で解答を見つけ出せるように指導しなければならない。」このことは肝に銘じておきたい。石原は、また歌人でもあった。そして、歌人原阿佐緒との不倫スキャンダルで東北大学を退職している。そこで専門家としての道が途絶え、雑誌「科学」や理化学辞典の編集にたずさわるようになった。晩年は戦時下での社会的な発言も多くなる。最期は、交通事故、あるいは暗殺? 66年の人生であった。本書は岩波「科学」に連載されたものをまとめたもので、非常に読みやすく仕上がっている。著者に雑誌への原稿を依頼した編集者とは3ヶ月だけ同じ職場で働かせていただいたことがある。一度、飲みにも連れて行ってもらった。いまも良い仕事をされているようだ。図書館に購入していただきました。手元に置いておきたいけれど、高いし、かさばるし・・・