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ブレスシャドーが好き。 難しい言葉が沢山出てくるけれど、何を伝えたいのか最後にパズルのピースがぴったりハマって温かい気持ちになれるキム・チョヨプさんの小説が好きです。
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七編からなるSF短編集。相変わらず独特の緩やかな文体だけど、よりシンプルにわかりやすくなって、心地よさが増した気がする。全体的にはすれ違いや、ずれ、無理解、断絶、などなどにより、理解し合えなくなった関係性の中で物語は展開していく。その落とし込みは基本ほろ苦いが、どこか温かみを感じるのは、この作家さんの特徴だろう。次回作も楽しみ。
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姿は仲間とそっくりでも、鋳型に性格的弱点があって任務遂行に苦戦するクローン。
ダンスを習いにきたマリは、視知覚刺激の認知の仕方が異なるため、美しさを目で見ることができない。
呼吸から意味を読み取るブレスシャドーの人々は、空間に粒子を残しておくことで時間差を置いた会話が可能。ただひとり、音声言語話者のダンヒを除いて。
さまざまなマイノリティの人を想起させる設定が並ぶ。
キム・チョヨプさん、なんて賢く、想像力豊かで、思慮深いSF作家なのだろう。
ひとりひとりの違いを尊重して、共生するための補助線をそっと引いてくれる、そんな物語集。動揺してしまうほどグッときた。
未来に開かれたSFの可能性が眩しい。
どれも大好きな中、いちばんは「マリのダンス」
視知覚刺激を具体的な形象ではなく抽象的に組み立てるモーグの存在が鮮烈だった。
目が見える・見えないの二択のみと思ってた自分は世界が狭すぎる。また主人公のわたしは世代によっては人口の5%をも占めるモーグに今まで出会ったことがなく、その不自然さに気付かないところも居た堪れなかった。
モーグのマリと、そうじゃないわたし。互いが自分の感覚についていくら説明してもまるで分かり合えない。
それでも関わっていたいのは、好奇心という、不純かもしれない動機から。
混乱してもがいている二人が見せる切実さに、未来が少しずつ変わっていく予感がした。
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現在の地球とは似ているようで違う、あるいはまったく異なる惑星を舞台にしつつ、社会に馴染んで生きる人と、そこから「出て行った」人との心の交流を、繊細にやさしい視線で紡ぎあげた短編集でした。
他人はいつだって、不意に接近しては離れていく自由気ままな流星のよう。けれど、そのひとときの煌めきに心を捉えられて、かき乱されてやまない。もういない人に、逢えなくなる人に、燻る思いを抱え、傍にいなくともともに生きていく決意を固める。そういった切なさと人の強さが詰まっていて、とても良かったです。
この短編集では「古の協約」がとりわけ好きです。惑星そのものの神秘性ある設定の面白さと、そのやさしさと残酷さに翻弄される人間たちのドラマが深い余韻を持って描かれていて、すごく心に残りました。
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「光の速さで〜」よりSF色強い気が。
↑これはでも40年くらい前の日本の女性作家SFみがあって好き。
マイノリティからの視点、でもどこか希望を探している雰囲気がとても好き。
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韓国のSF作家、キム・チョヨプの短編集。邦訳では2作目の短編集。長編もあるはず。図書館を利用。
どの作品も非常に良かった。
SFの味付けではあるが、人、もしくは異星人の
マイノリティを扱った短編を集めた作品集。マイノリティの内容は、どこか遠くの話ではなく、自分の身近に置き換えて考えることができる題材ばかりであるため、読みやすかった。
おすすめは『最後のライオニ』、『マリのダンス』、『ブレスシャドー』。作品全てに言えることだが、終わり方が切なく、読後感が良い。
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早川書房の編集者が邦訳タイトルをつけたと序文で書かれてたけど、「この世界からは出ていくけれど」というタイトルに惹かれて何となく手に取った。
読み終えたいま、七篇を射抜いた素晴らしいタイトルだとあらためて思う。
どれも好きだったけど、『ブレスシャドー』が特に好きだった。
あとがきも短いけどとても好き。
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わざと違う世界観との理解に焦点を当てた話。結局よく分からないなものもあったけど、全体的に分かるように説明しようとしていた技量は凄いと思う。
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「古の協約」がとてもよかった。神経毒に侵され短命を運命づけられる(そして死の直前は錯乱と恐怖に脅かされる)星の住人。それを救う信仰の存在。そこに現れた地球からの探査チームが信仰を捨てれば長く生きることも可能だと説いても理解を得られない。
彼らにとっての信仰は神の有無の所以ではなくて、運命としての拠り所。分け与えられた生の中で約束を信仰として生きていくこと。その約束を知る司祭たちだけが無知を渇望して生きる星。
全体を通してテーマになっているのは宿命的な相互不理解と優しくそれを受け止める希望。SFを通しての多様性。感覚、言語、認知を共有できないこと、あるいは共有する必要はないのだということ。大切な人と本当の意味で重なり合えないことは悲しく、だけどそれでも愛おしいのだと思う。
『この世界からは出ていくけれど』というタイトルがまた素敵だった。共同体としての世界から出て、個としての世界へ。わかってはもらえない代わりに穏やかな安寧を。
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「感覚」について考えさせられる内容だった。自分が認知してる世界と、他人が認知している世界が違うかもしれない、ということに気付かされた。SFではあるものの実際の生物学的知識を用いている描写があり、説得力とリアリティがあって面白かった。
また、マイノリティとマジョリティの隔絶や、それぞれを理解しようとする葛藤が描かれていたのが印象的だった。それぞれの章で共感できるセリフや言い回しがあり、自分が何か人間関係で悩んだ際に読み直したいと思った。
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『わたしたちが光の速さで進めないなら』も大変面白かったのですが、その期待に応えて更に越えてくる面白さで凄い短編集でした
しかし面白い、そう、面白いのですが
その一方で描かれている出来事や人物の悲哀、苦悩にひどくシンパシーを感じてしまい、読むのがとても辛い作品でもあります
どうしてこんなに、自分ごとのように引き寄せて読んでしまうのだろう? 女性の作家さんで、書かれている人物は女性が多く、読者の自分も女だから?
(という発想はあまりにも安易に思える)
あくまでも内容はSFであり、けっこうハードSFに近い風味の作品もあります
しかしそこに生きる人々の心のありよう、他者への執着心や嫌悪感、愛情も何もかも、いまここに生きている我々とはっきり繋がっているし変わるものはないと感じます
そしてこの短編に惹かれてひどく落ち込んでしまうのは、書かれている出来事が喪失や別れ、ままならなさ、無力感、哀しみの物語が多いから、それらの物語の人物の立場に置かれたら自分もきっとこうなるだろうという、納得しきってしまう感覚
短編集なので各話の感想も記入したいのですが、感想を言語化するのが凄く辛く感じます あんなに面白いのに、大好きなのに
推し話をあえてひとつ上げるなら『ローラ』がとても好きです 辛い
口絵の花を持った機械の右手を見返すと胸をえぐられるようです
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Kindleセールで積んでおいたのを読んだ。邦訳された過去二作の小説は当然のことながら、障害をテクノロジーの視点で考察した『サイボーグになる』も相当オモシロく、日本で読める韓国Sci-fi筆頭格という印象を著者に対して持っている。本作も間違いないクオリティで失われていく感覚を埋め合わせることの意味を考えさせられた。
7つの小説で構成される短編集であり、横の繋がりは特になく各作品は独立している。どの短編も他のSci-fiであまり見ない設定が多い上に主人公が女性ということもあって新鮮だった。本作では前述の『サイボーグになる』の影響もあるのか、障害を持っている人が登場し、周りとどうやって折り合いをつけていくのかを描いている。著者あとがきにもあったが「分かり合えないこと」は全体を通底するテーマと言える。ただネガティヴに「分断」を語るというよりも、そもそも分かり合えないのが人間の性であり、それを前提として我々は何ができるのだろうか?と読んでいるあいだ、問われている気がした。群像劇ではなく、メインの登場人物は障害の有無といったように立場が大きく異なる二人に絞り、彼らが関係性を探っていくがゆえにクローズドな親密さが小説に漂う。それはSci-fiらしからぬ柔らかい印象だった。
個人的に好きだったのは「認知空間」という話。さまざまな知識が一つの空間に集約されていく、それはつまりインターネットのアナロジーなんだろうが、集約されずに取りこぼされてしまうパーソナルな記憶の意味や、皆が同じものに巻かれるのではなく各自が思考する価値を改めて考えさせられる。そんなことを巨大な認知空間が物理的に存在し空に浮遊しているという突飛な状況から描いていくのだからたまらない。また「ローラ」は幻肢の感覚を打ち消すために三本目の腕を物理的に追加する話であるが、それだけ聞くと痛々しさがあるものの最後には愛とは何か?という議論に帰結していく。著者の小説はSci-fiにも関わらずレトロスペクティヴなバイブスも感じるのは、あくまで設定がSci-fi仕様なだけで描いていることは人間、機械の儚さだからなのかもしれない。次は長編を期待したい。
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最初読みづらく感じたけれど
じょじょに引き込まれていったのは
硬質な表面の奥にながれている温かな体温のようなもののためか
必要なのは知識でなく無知だという部分が
印象に残った
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宇垣アナが出版区でオススメしており気になって読んだ本。
SFとしても面白い設定でどんどん読み進められた。
また、この本全体のテーマである「わたしたちはみんな別々の世界を生きている。でもふとした瞬間に別の世界と触れ合うこともある。そんな瞬間尊いよね〜」という感覚が詩的に描かれていてとても好きだった!
そもそも我々はみんな同じ世界に生きているわけじゃない、別世界の感覚で生きているので理解できなくて当たり前。それぞれで生きて、たまに触れ合って、でちょうどいいんじゃない?と言っているように受け取った。
最近読む本は多様性を受け入れていこう、理解していこう、の方向性が多い気がしていて、無理にお互いを完全に理解し合わなくてもいいのでは?それは結局どちらかが無理することになるのでは?という新しい視点の考えを得ることができた。
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宇垣アナのおすすめで読んだ。
まず、日本語版タイトルの「この世界からは出ていくけれど」もセンスがあって良いと思うが、実際に作品を読んだ後だと韓国語版タイトルの「さっき去ってきた世界」の方が、やはりしっくり来るなと感じた。
自分が属している世界に馴染めないマイノリティの人々について描かれた短編集。SF小説は読み慣れておらず、最初は戸惑ったが、各物語の共通のテーマがはっきりとしていること、自分の世界に当てはめて共感できる部分が多いこと、起承転結が明快なことから、とても読みやすく直ぐに読了できた。
人は全て異なる感覚の中で生きている。ただ、大多数の人々が感じる世界と、あまりに異なる感覚の中で生きていくのは苦しく、この世界から出ていく選択をする主人公やそれを見守る人。その間に確かに存在する愛について描かれている。
「ローラ」という物語の中で、彼女の理解できない部分も含めて自分は彼女を愛している。だけど、彼女のどうしても理解できない部分によって、いつか彼女のことを愛せなくなってしまうことが怖い。という感覚には特に共感した。
淡々とした文章の中で、繊細な感情や愛について、多くの人が共感できる形で丁寧に描いており、素晴らしい作家さんだと思った。他の作品も読みたい。