全く色褪せない深い知性
2024/09/08 11:48
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投稿者:Akita - この投稿者のレビュー一覧を見る
1990年の講演集をまとめたものだが、現代社会の事がそのまま書かれているかのようで感動した。変わったのは、残念ながら日本経済の力が相対的に弱くなってしまった事ぐらいか。細谷さんの後書きにある「高坂が語っている内容の多くが、現代社会においても通用するという悲しい現実」という記載が本書の価値を上手く表現されていると思った。
知的巨人の30年以上前の講演録
2024/04/14 20:59
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投稿者:つばめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「本書は、国際政治学者で京都大学教授であった高坂正堯が1990年に行った全六回の連続講演の記録を活字化して刊行されたものである。「流麗な柔らかな文章で、二十世紀を概観する。そのようなスケールの大きな知的な作業は、高坂のような知的巨人でなければとうてい不可能であろう」という趣旨のことを本書の「はじめに」で細谷雄一慶応大学教授が記している。文章は平易であるが、凡人にとっては、そのすべてを理解することは難解であった。凡人が特に印象に残った内容を次に紹介する。◆国際政治で敵か味方か不明な場合、最善の方法は仲間にすること。十九世紀の英外務大臣カースルレーは、「イギリスにとって最大の脅威はロシアである。だから、仲間にして取り込んでおとなしくさせるのがいい」と発言。フランスが率先した欧州統合も同じ発想で、ドイツをグループ内でおとなしくさせようとする外交的知恵。◆歴史上の大事件で我々の生活に大きな影響を与えた事柄であっても、その原因はわからないことが多く、人間が知り得る歴史的教訓は意外と限られている。◆アメリカの禁酒法制定の過程をみると、人間は理想に酔うと何も見えなくなる。◆歴史上、物不足の主因は人々の買いだめで、絶対量の不足からということは滅多にない。第二世界大戦後、欧州救済のため物資を提供したマーシャル・プランが成功した理由も、ヨーロッパ人が隠匿していた物資が流出したため。◆政治は未来の力ではなく現在の力を反映する。国の前途と運命に配慮すれば、現状よりも将来性にかけるしかないが、政府にそのような大胆な選択はできない。◆政治家の良し悪しを判断する基準、「税金を取ります」と言う政治家はいい政治家、「税金を取りません」という政治家はまやかし。
一方で、講演から30年以上が経過した現時点からみると、次に示すように、いささか「?」と思う内容もある。◆「アメリカの繁栄も永遠には続かず、その絶頂期はどうも早く終わりすぎたようである」との記述がある。アメリカのIT産業の隆盛をみるまでもなく、果たしてそうであろうか?◆「ゴルバチョフが来日を一番後回しにしたのは、日本への最大の敬意である。ソ連にとって、こんなに御しにくい国はない。ソ連は日本の経済協力に期待しているが、日本のビジネスマンや銀行はしっかりしているから、その期待には応えないだろう。下手すると北方領土を返してくれるだけの話になる」との趣旨の記述がある。これも、その後の展開をみると残念と言うしかない。
知的巨人の思考回路にふれられるとともに、たとえ知的巨人であっても将来を予測することの難しさも実感させてくれる一冊であった。
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1990年の講演内容ですが、これからの我々の社会を考える上で重要なヒントが多く述べられていると思います。
いくつか今の気分で疑問に思う点がありましたのでメモしておきました。
1. 政治とお金と人格は分ける事を認めないと自由は成立しない。とありますが、やっぱりお金に汚いだけの無能な政治家は嫌だなと思います。今の社会ではより倫理観を求められるので、優秀なら何しても良いのか?とも思えないですし、理想を追い求めた共産主義の失敗を考えれば難しい点ですね。
2. 大学まで進む人口が三分の一も必要あるか疑問。とありますが、本書で共産主義が否定された当時でも資本主義が本当に良いのか悪いのか考えなければならないとしており、大学くらい出ないとちゃんと本を読んで考える人間にはなかなかなるのは難しいと思います。東京都の高校無料化や国の大学無料化も、少子化対策を理由にした政治家の人気取りでしかなく、考えられる人間の教育と言う点ではあまり意味がないように思えます。
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講演録で読みやすさ◎
国際問題に関心がある高校生とかにぜひオススメしたいです!矛盾だらけの世界で泳ぐための、柔軟な思考のカタを教わる感じでした。91年頃の時事ネタも入ってますが、その辺は適度に読み飛ばしでもOKかなと。。
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1990年1月から6月に新宿・紀伊國屋ホールで開かれた高坂正堯先生の講演をまとめた内容です。二十世紀を歴史として捉えるという観点で語られており、二つの世界大戦や世界恐慌、戦後の冷戦や共産主義など、いろいろと考える材料が多く、高坂先生の口調で語られており、読みやすく示唆に富んだ内容だと思いました。私がどこまで理解できたか怪しいところはありますが、今後の世界情勢を考えるにあたっても参考になる内容が豊富にあったと考えております。
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高坂史観の凄いところがその時代特有の雰囲気、規範を汲み上げた上で歴史のイベントを話すため、一見後世から見ると不思議に思う挙動でも因果がわかりやすいところだと思う。
特にアメリカ史の禁酒法からWW2後の米国社会のパラダイムを鮮やかに描写している。
しかし国際政治学者であっても軍事の専門家では無いためか、WW1での「戦争論」の理解が曲解しているところがあった(「戦争は別の手段をもってする政治」の解説部)
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講演録。
だからということもあってか、分かりやすい。
そういうふうに捉えておく考え方があるんだな、と改めて思う。
「正しさ」が、絶対のものとしてどこかにある、と思い過ぎると,ディストピアが立ち現れる、ということを感じた。
高坂さん。
解題、を見ると、56歳くらいでこの講演を行っている。今の自分とそう変わらない年齢だ。
この人がたまにテレビに出て、なんとなく京都大学に憧れたような記憶がある。
月日が経つのは早いものと思う。
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戦後日本を代表する国際政治学者。冷戦終結期の1990年に行われた幻の講演の書籍化。20世紀も既に歴史の領域。その走りとも言える視点は今読んでも斬新。
1996年62歳で亡くなったのが残念。
読むと賢くなった気になれる本。
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「ユダヤ人は偉大な民族ですが、国をつくると狂信的でありすぎるのかもしれません。」(p.206)
「ロシアに大国をやめろと強制することはできない。」(p.47)
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お盆のとき、父親から同じ本を間違えて二冊買っちゃったからと貰った本。
1990年の6回の講演を書籍化したもの。
嚙み砕いたような語り口は読み易いが、裏付けされた知識は凄い。
序盤の第一次世界大戦前のドイツのについて、大言壮語、自信過剰という言葉が出てくる。「ドイツが世界の中で名誉ある地位を占めたい」と世界に言ってしまう。公言せずに密かにやるのが賢い、とある。この指摘に東条英機の本を読んだばかりなので反応してしまう。日本は国を挙げて自信過剰で大言壮語してたんだよな。
共産主義が絶対だった時代も語られる。結局、共産主義は失敗したけど、資本主義が正しいものと証明されたされた訳ではないとする。まして、民主主義との組み合わせがうまくいくと証明されたわけでない。ホントそうだと思う。
高坂さんはバランス感覚が素晴らしい。ドイツ人の権威主義を説明しつつ、無政府主義的傾向も語る。国民性を決めつける危うさを指摘してしている。
34年前の本なので、日本経済が好調で、貿易摩擦、日本異質論が散々言われていた時代。アメリカとの構造協議なんてあった。忘れていたけど、今考えるとナンジャソリャのレベル。まして、それを日本はお節ゴモットモとしたんだから凄いな。
現在は経済の中心は中国に移り、それも既に陰りが見えてる。まさかと思ったロシアのウクライナ侵略、イスラエルのパレスチナ攻撃で世界は戦争状態になった。
日本は多少落ちぶれたけれど、マンガ、アニメが世界で評判になり、ラーメンやお回転寿司のB級グルメがブームで世界からの観光客が押し寄せている。日本人のきれい好きや規律を守ることや親切心が好感を持たれている。
高坂さんなら、今の状況をどう云われるだろう。
世界のリーダーたり得ないが、信用される国となりつつあると云われるだろうか。
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高坂正尭は高校・大学時代にテレビでよく見て、人懐っこい笑顔と京都弁だが、主張していることは徹底したリアリズムに基づきとても奥が深い。大学時代には本も何冊か読んだ。彼の1990年の講演が30年余りたって読めるようになると知り、とても嬉しくなり手にとった。
講演は冷戦崩壊直後。単に西側・自由主義陣営の勝利という目の前に事象に浮かれず、人間の、民族の、国柄や国・社会の本質をしっかり冷静に見つめてきたことがよくわかる。
テーマは戦争、恐慌、共産主義、繁栄、大衆、そして異なる文明との遭遇、の6つ。
日露戦争がその後の精神論優位、守備より攻撃が有利という「戦訓」を生み、第一次世界大戦の長期化を招いたという指摘は参考になる。ドイツの地政学的な役割と三十年戦争のトラウマというのもなるほど、と感じた。「いい人の政治家が戦争を起こすことがある」との指摘は現代にも通用するだろう。
共産主義に関する章では、最近の(冷戦崩壊直後の)共産主義批判は薄っぺらい、共産主義は「嫌いなもの反対党」と断ずる。1930年代の激しく対立した時代は共産主義者はしかとした青写真があり反資本主義的言説に責任を持ち、反対勢力は資本主義を守るための根源的な問いがあったと。これも2020年代の現代でも当てはまるだろう。
資本主義について「ラグビーボールの哲学」のようにマスタープランなしにどちらに転ぶかわからず、政治でも経済でも競争原理で各々がイニシアティブを発揮し、それが意外な利点を生むことがあるというのも納得だ。
日本の政治家は二流である理由は、経済合理主義を重んじ政治の力に制限を加えるようにしてきたから、いかに人間が不合理かがわかり交渉する安全保障に高い関心を持つ政治家がいなければ国際舞台で迫力ある交渉はできない、という主張も印象深い。
まだまだ印象的な箇所はあるが、それ以上にほかの高坂氏の本を読みたくなった。
この本を世に出そうとしてくれた細谷雄一氏にも感謝したい。
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講演内容を書籍化したからか、複雑に絡む内容が理解しやすかった.「戦争の世紀」で軍事教練が”戦場で逃げない人間を作り出す訓練‘’ だと説明されていたが、大事な指摘だと感じた.「共産主義とは何だったのか」が最高に楽しめた.団塊世代の小生らは、共産主義に何かしら興味を持って過ごしてきた過去がある.80年代以降、下火になってきた理由が詳細に述べられており、納得できる明快な解説だと感じた.「繁栄の25年」で農民が狡猾さと善良さを合わせて持っているという記述、朝鮮半島からの引揚者であった母が、家を借りる時に農民にかけられた言葉をしきりに言っていたことを思い出した.「引揚者のくせに!」.1947~1972年の空前の経済成長が詳細に語られていたが、その時期に少年時代を過ごした小生は、身近に感じたことが述べられており、懐かしかった.
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国際政治学者の泰斗である高坂正堯先生の連続講演録。
各章とも興味深く読むことができたが、この本を端的に要約できるほどの力が自分にはまだない。
もっと勉強しよう。
印象に残ったのは、共産主義が人間の欲望を無視した言語体系によるシステムだというくだり。
読み進めつつ出会った金言をその度ごとに抽出していけば色々と記録できるのだろうけど、面倒くさがりの自分にはやや不向きなので、単なる読後感のみを書いて筆を置くことにする。
何がどう結びつくのかは分からないが、今後もドットを打ち続けよう。