コロナ後遺症が、疲労研究にブレイクスルーを与えた
2024/08/13 10:20
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投稿者:y0a - この投稿者のレビュー一覧を見る
とても面白い本だった。コロナ後遺症が、疲労研究にブレイクスルーを与えたというのは知らなかった。著者によると、欧米では、疲れても働くのは効率の悪い愚かな行為とみなされていて、たいした研究がされておらず、むしろ日本で進んでいるのだそうだ。重要なのは、「疲労」と「疲労感」を分けて考えること。この区別は日常の健康維持にも役立つ。
ちなみに、研究から見た疲労の科学的本態はすでに明らかで、「統合的ストレス応答」 (ISR)が生じた結果起こってくる生体内の変化、ということらしい。ISRはタンパク質合成をやめさせ、ストレスに対応するための別のタンパク質を作らせる。「このISRというシステムは、われわれヒトと同じ真核生物の祖先である酵母にもそなわって」いるのだそうだ。とても古くて重要なシステムと考えてよさそうだ。
で、先の「疲労」と「疲労感」の違いを、ISRを通して説明し直すと、
「疲労感…ISRによって産生された炎症性サイトカインが脳に伝わって生じる感覚」
「疲労…ISRを引き起こす「eIF2α」のリン酸化による細胞の停止や細胞死」
とシンプルに定義される。この違いがあるため、疲労感を見かけ上だが、取ることも可能となる。
実際、我々の体にも、(まるで栄養ドリンクみたいに)一時的に疲労感を抑える機能が備わっていて、それは「HPA軸」と呼ばれる。ご存じかも知れないが、視床下部→下垂体→副腎という経路をたどって副腎皮質ホルモンが作られ、それが「炎症性サイトカイン産生を抑制することで、疲労感を弱める」。けれどもその結果、過労死につながることもあるのは、よく知られているところだ。
また、病的疲労の代表疾患である「慢性疲労症候群」と「うつ病」のことも、けっこう詳しく解説される。特に「慢性疲労症候群」(CFS)は、ウイルスによる感染後疲労と考えられ、脳内で炎症が生じているから「筋痛性脳脊髄炎」 (ME)を合わせて、英語圏では「ME/CFS」と略されるそうだ。その病態は「新型コロナ後遺症」と似ている部分も多いとのこと。研究の進展が望まれる。(ちなみに、脳内でウイルス増殖があれば脳炎で、増殖がなければ脳症と区別する。だが、「「脳内炎症」という言葉には、脳炎も脳症も含まれます」とのことで、少しややこしい。)コロナ後遺症は、ウイルスの脳内増殖はない「にもかかわらず脳内炎症が生じるという現象」なのだそうだ。
そして、ズバリ「うつ病の原因となる遺伝子」SITH-1「を発見した」と述べている。ポイントだけ提示すると、嗅球細胞が破壊される→脳内のアセチルコリン産生の低下→コリン作動性抗炎症経路の作用の低下→「労作後倦怠感」(PEM)という病態が考えられている。
さて、以上の様々な病的疲労に関わるウイルスとして、人類の多くが親から自然ともらってしまうヘルペス・ウイルスの一種、HHV-6が本書では何度も登場する。単純に考えると、そんなやっかいなウイルスは人類の体から取り除いてしまえば、うつ病も疲労もなくなり(?)万々歳と考える向きもあるかも知れない。だが、自然も歴史もそう単純なものではない。そもそもこのHHV-6は決して珍しいものではなく、常在ウイルスの一緒に数えられる。そんなモノなんであるのかという問いに対して、まだ科学的な回答はないが、筆者は「ここからは、サイエンス・フィクション」と註を置きながら、大胆な仮説を展開している。それは、体格も能力も優っていたネアンデルタール人を、なぜ我々ホモ・サピエンスが滅せたのか、という問いにかかっている。その興味深い仮説については本書にあたってほしい。
中身が濃く、面白みのフックがあちこちに在る一冊。
読みやすくてためになる
2024/02/28 15:22
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投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
うつ病と新型コロナウイルス後遺症が大いに関係があるとは、非常に大きな発見で驚いた。 新型コロナウイルス後遺症は、非常につらいと思うので、それを緩和できる薬ができれば、うつ病にも応用できると思うし、期待できる。 ニコチンがうつ病や、新型コロナウィルス後遺症に効果がある、ニコチンは事実体に悪いと思うが、それだけで切り捨ててはいけないというのは、興味深かった。
読みやすい。わかりやすい。
2024/07/22 11:19
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投稿者:ら君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
わかりやすい説明と先の章へ読み進めたくなるヒントが示されていて、わくわくしながら読み進めることができた。
疲労が生じるメカニズムがここまで明らかになっているのか?
2024/04/27 13:36
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投稿者:野間丸男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
疲労と疲労感、生理的疲労と病的疲労が
きちんと区別されていることに、納得!
疲労のメカニズムが、脳内炎症であることにも驚き!
疲労を科学するには
生理的疲労とはなにか
慢性疲労症候群 病的疲労の代表格
うつ病 究極の病的疲労
新型コロナ後遺症
人類にとって疲労とはなにか
学生時代に運動生理学で、運動後に
血液中の乳酸とかダグラスバックの呼気を測定していたことを、
懐かしく思い出した。
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ウイルスが知ってるっつうから、疲労はウイルスが引き起こすのかと思ってたら、疲労によりウイルスが活発に活動するようになるので、それを調べれば疲労の程度が測れるということかと思ってたら、究極の疲労、うつ病の原因がウイルスであるという大転換。
そもそも、疲労と疲労感は違う。
疲労感を抑えることで疲労が進行し、下手すりゃ過労死する。
生理的疲労と、病的疲労も違う。
疲労に関わる炎症性サイトカインという物質が疲労感の原因であるが、これがまた、口唇ヘルペスのウイルスを活性化して、そいつがうつ病の因子となる。
うつ病発症して、仕事辞めるより自死を選んだりすることも、脳の炎症を抑える機能がまず低下した後で、疲労により脳が炎症を起こすのでもう、正常な判断が出来ない。
武漢肺炎による倦怠感、後遺症も、実は仕組みがそっくりなんだそうだ。
言葉濁しているが、悪名高いコロナワクチンもこれを引き起こす原因になると、言っちゃってますよね?
実に興味深い内容だった。当たりのブルーバックス。
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疲労や疲労感、慢性疲労症候群、新型コロナ後遺症などについて、原理から細かく説明されていて難しくもおもしろかった。
原理の部分は流し読みで、要点だけ読んでも十分おもしろい内容だと思う。
☆3.8
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コロナと疲労とうつとと繋がるような繋がらないようなもの達が一つの視座、ウイルスから繋がっていることが興味深かった。
最後のお話はまあおまけということで。あれが最初にあったらちょっと読むのやめたかも。
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生理的疲労と慢性疲労との違いがよくわかりました。コロナウイルスのスパイクタンパク質がコロナ後遺症の原因になる可能性が記載されていますが、これはコロナのワクチンもコロナ後遺症の原因になっている可能性があることを示唆していると思います。
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疲労と、ヘルペスウイルスの再活性化と、コロナ後遺症と、うつ病と。
これらの病態やメカニズムが繋がった!という話。疾患概念の歴史的背景や、著者の発見に至るまでの道筋も含めて、とても面白く読んだ。
ここに書かれていることの真価や妥当性は、周辺知識を勉強したり歴史の評価を待ったりする必要があるとは思うので、うつ病やコロナ後遺症の原因が分かった!とまで言っていいかは割り引いて捉える必要があるとは思う。とはいえ、この発見にまつわるストーリーには興奮させられた。コラム的な脱線話を適度に織り交ぜつつも、全体的に非常にコンパクトにまとめられており、サクッと読めてしまうのも良かった。
図解も含みながらとてもわかりやすく書かれているので、基礎知識ゼロでも十分楽しめると思う。分子生物学的な知識(遺伝子の転写とか翻訳とか)があると、よりスムーズに理解できそう。
疲労に関する科学・医学があまり進んでいないというのは、意外な感じもしつつ、なんとなく納得もした。疲労と疲労感は別物だという話もあったが、私たちが日常で疲労と呼んでいるものにも、実際はいろんな種類があるのだと思う。疲労の科学が進んで、より色々なことが統合的に理解されると良いと思う。
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# 疲れとは、何なのか。完全に理解できる一冊
## 面白かったところ
- 「疲れるとヘルペスが出る」→「疲労感を計測できる」という発想の転換がシビれた
- 疲労と疲労感が違うという、当たり前そうで実は全く異なるものを改めて知れた点
## 微妙だったところ
- 著者がお医者様という事もあって、新書なのに専門性が高く、精読できなかった点
## 感想
自分の中で、疲労を感覚的にフィードバックされたものが疲労感という解釈をした。運動会の次の日は、筋肉が炎症を起こすことで筋肉痛というフィードバックが存在する。こんな感じである。
この概念を抽象化すると、「疲労」と「疲労感」という解釈に繋がる。そしてこの疲労感は様々なものによって濁される。
所謂、強度のストレスやカフェイン、リ◯ビタンDなどの飲料剤。そしてワーカホリック的なフロー状態である。その疲労を回復するためには、直接的な回復方法である睡眠はもちろんのこと、回復力を向上させるための軽い運動があると良いそうだ。
確かに、30分程度散歩したところで次の日に疲労が残る人はそうそういないだろう。散歩による疲労の蓄積が向上された疲労回復力によって補われたと考えるととても良い。
自分がもし、医学に興味を持つことがあったら、また読みたい一冊。
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久々に手にしたブルーバックスが、こんなに当たりだったとは。ラッキーだった。
うつ病には、ヘルペスウイルス(HHV-6)由来のタンパク質(SITH-1)が関与しており、『疲労』がトリガーとなり発病する点は、精神疾患の発症機序を考える上で、あまりにも衝撃的な内容だった。
うつ病に対する、対症療法的な治療(SSRIなど)から、根治的治療(ドネペジル(コリンエステラーゼ阻害)などのアセチルコリン増加)が期待される研究結果となっており、今後の展開が気になる。
コロナ後遺症に、長期的なうつ病や倦怠感が発現するストーリーもSITH-1発見過程とリンクしており、非常に理解しやすかった。
また、ウイルス(HHV-6)の存在も欠かせない。
コロナ禍から見えてきたうつ病への発見から、今後の発展を期待したい。
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疲労と疲労感の違い、疲労にも生理的疲労と病的疲労がある。
ストレス応答で疲労感は抑制されるというのは意外だが、読んでてなるほどと思えた。
病的疲労の一つ、うつ病は脳内炎症で、SITH-1遺伝子が原因。
新型コロナ後遺症は慢性疲労症候群に似ているため、その治療薬は抗うつ薬となる可能性がある。
ウィスル増殖や脳外から加わる炎症性サイトカインは炎症を増加させるアクセルではなくブレーキの故障。
疲労は脳の炎症でなくすことはできず、うつをなくすことも得策ではない。
で?となったが、万能薬はないので日々体調を確認しながら共存していくしかないのね。
33冊目読了。
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過労死が起きる日本で疲労とは何か、うつ病とは何か、そして新型コロナの後遺症などについて、ウイルス学者が最新の知識をまとめてくれている。
疲労と疲労感は別もので、疲労は唾液中のHHV-6というウイルスを測定すればわかる。生理的疲労は、末梢組織の炎症性サイトカインが脳に入ることで疲労感につながる。病的疲労にはME/CFS(慢性疲労症候群)があり、脳内で炎症が発生する。究極の病的疲労としてうつ病があり、原因は脳内炎症説明が最有力。SITH-1というHHV-6が潜伏感染しているときに発現する潜伏感染遺伝子がうつ病の原因になる。新型コロナの後遺症も脳の援助と思われ、慢性疲労症候群によく似ている。
最後にホモサピエンスとネアンデルタール人の生存競争についての空想で、ホモサピエンスはSITH-1による不安から攻撃性が生まれたから容赦なく皆殺しにしたとか、聖書の知恵の実なのではとしてみたり。
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タイトルに惹かれ、購入。
20代で科学には馴染みのない私でも、読みやすくてすごく面白かったです。
「疲労」と「疲労感」の違いなど、何から何まで初めて知ることばかり。実生活に役立つ情報も豊富で、ワクワクしながら読めました。
第6章のSITH-1の考察が特に面白かったです。
私自身過去に禁煙がきっかけでうつ病を経験したことがありますが、うつ病以前よりも人として成長できたと思えるので、本書の『疲労やうつ病とは、発症のメカニズムや、そもそもなぜそのようなものがあるのかを理解して、うまくつきあっていくのが正解なのではないかと思っています。』という著者の意見に共感しました。
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難しくて面白くないと感じたが、「疲労とは何か」を解明しようとする試みには腑に落ちた。疲労のメカニズムに光を当て、日々の生活での戦いに勇気を与える内容だった。