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シェール革命 グレゴリー・ザッカーマン著 米国 天然ガス掘削の内幕
2022/6/25付日本経済新聞 朝刊
大手企業の油井やガス井から数キロメートル離れた場所で原油や天然ガスを探す独立事業者たち。賭博師でもあり、セールスマンでも地質学者でもある。過剰なほどの自信にあふれ、他人が見逃していた場所に当たりをつけると、銀行や投資家から資金を募る。成功の可能性が低かろうと関係ない。資金が集まれば土地を取得し、坑井(こうせい)を掘削し、原油や天然ガスがあふれるのを待つ。本書はこうした男たちFrackers(フラッカーズ)の人生や企業活動を描いたものだ。
子供の服を買うのを迷うような苦境にある男が、高圧の液体を使用して亀裂を入れる技術、水圧破砕法(フラッキング)によって3000メートルもの地下深くにあるシェール層に眠る天然ガスを取り出そうと奮闘する。元々この技術はスタンダード・オイル・オブ・インディアナ(現アモコ)が1947年にカンザス州で初めて採用した技術だった。だが、天然ガスが1000立方フィートあたり7セント前後でしか売れなかった時代、コストも時間もかかる採掘手法が注目されるはずがなかった。家庭や発電所に天然ガスを簡単に送れる巨大輸送システムが構築され需要が高まり技術に関心が集まるのは90年代に入ってからである。
成功への憧れ、金への執着、失敗を恐れない精神、友人や家族とのつながり、別れ、憎しみ、そしてあくなき探求心と愚直さ。坑井の奥の岩盤を砕き、開いた亀裂が塞がらないようにするための最良の液体は何か。砂、重水、油、プロパン、エタン、化粧品に使われるポリマーや塩酸まで水に混ぜて挑む。インド北西部で採れるグアーというマメ科の植物の種子をすりつぶしたものまで試されたことを知った時には驚きを禁じ得なかった。
2013年時点で米国内の天然ガス価格はアジアのおよそ3分の1、欧州の半分まで下がった。原油や天然ガスの増産により、政府・企業・市民は多大な恩恵を受けることになると、著者はシェール革命を高く評価する。また、米国が中東依存を減らし、対イラン制裁強化などで国際政治も安定すると述べる。果たしてそうだろうか。依存を減らしたことで逆に影響力が薄まっているのではないか。またそれによる中東での中国の台頭を見過ごしてはいまいか。掘削が生態系に及ぼす影響ももっと考察して欲しかった。そこまで言及がなされていたら最後まで楽しめたに違いない。
《評》一橋大学教授 福富 満久
原題=THE FRACKERS(山田美明訳、楽工社・2970円)
▼著者はノンフィクション作家。著書に『史上最大のボロ儲け』『最も賢い億万長者』など。
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