それにしてもの「幻の湖」
2024/06/03 09:16
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
今、春日太一氏の467ページにわたる力作、シナリオライター・橋本忍氏の評伝、力作「鬼の筆」を読了した、私はこの評伝を読む前から「羅宗門」「七人の侍」「日本沈没」「砂の器」「八つ墓村」「八甲田山」といった邦画史に燦然と輝く脚本を書き続けていた人がどうして「幻の湖」のようなゲテモノ作品を書いたのだろうと不思議で叶わなかった(映画は観ていないが脚本を読んで愕然とした記憶がある、まさしく「北京原人」「シベリア超特急」とならぶ最低映画だと私は断定する)、犬の復讐のために走り続ける女、そんな映画を映画館で見るというのは時間の無駄も甚だしいのだ、「砂の器」の親子の旅を書けた人が、なぜにマラソン女なのだと、著者がいうとおりそれは加齢によるものだろう、剛腕で作品を作り上げてきた人は劣化する時にはこうなるのか
あなたはどの映画が好きですか
2024/04/19 07:08
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
橋本忍。
戦後の日本映画を牽引した脚本家。
彼の名を一躍高めたのは、おそらく1974年公開の「砂の器」(野村芳太郎監督)だろう。
もっとも映画に深く関心のある人なら、「張込み」(1958年)や「切腹」(1962年)、
さらにはTV草創期の名作ドラマ「私は貝になりたい」の脚本も知るところだろう。
いやいや、橋本のデビュー作はあの黒澤明監督の「羅生門」(1950年)とくれば、
橋本忍という脚本家がどれだけすごい人だったかわかるはずだ。
橋本は1918年生まれ。亡くなったのは2018年100歳の時。
戦時中に結核を病み、その療養中に独自でシナリオの勉強を始めた。
当時日本一の脚本家として知られた伊丹万作に師事し鍛えられていく。
そんな橋本の人生を、
生前行われたインタビューと関係者への聞き取り、
橋本が残した資料や関係文献を緻密に取材したのが
春日太一さんの『鬼の筆』だ。
取材開始から本の刊行までに12年かかったというから、
労作というしかない。
そして、労作だけあって、読み応え十分といえる。
橋本作品のファンだけでなく、日本映画に興味のある人にとっては
欠かせない一冊になるだろう。
橋本の代表作といえば「砂の器」であったり「八甲田山」であるのは間違いないが、
橋本のフィルモグラフィを見ると、この2つの作品は後期に分類される。
そのあと、彼は駄作を連発していく。
この本の副題で使われている「栄光と挫折」はそのことを差している。
だからといって、橋本が残した名作の光は日本映画史から消えることはない。
そういえば、筆者の春日太一さんの肩書は「映画史研究家」でもある。
戦後最大の脚本家
2024/04/13 23:04
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投稿者:hiroyuki - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後の日本映画界にこの人が果たした功績は計り知れない。「羅生門」に始まる黒澤明監督作品はもとより、ベストテン級の名作には必ず脚本橋本忍とクレジットされていた。学生時代シナリオの勉強を少ししたことがあるのだが、そのテキストには橋本忍脚本はうってつけ。シナリオの構成力でこの人の右に出る者はいないだろう。昭和30~40年代が全盛期だと思うが、それだけに自分も「幻の湖」には公開当時唖然としたひとりだ。そのいきさつはこの本を読んで分かったが、いまやカルトムービーとなってブルーレイ化されるのだから、泉下の橋本忍氏は喜んでいるだろうか。
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【「全身脚本家」の生涯】「七人の侍」「砂の器」「八甲田山」など、歴史的名作の脚本家・橋本忍。生前に長期間取材をし、未公開資料を読み解いた決定的評伝。
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橋本忍に対しての読む前の印象と読んだ後の印象が全然違った。
昭和の方が全盛期の映画人って、殆どが映画かぶれで、好きで業界に飛び込んだ人が多いイメージでした。
この人読後のイメージは、テクノクラートとか、経営者然とした感じの人。すごくリアリストな雰囲気を感じた。
知らない事を知る為に、本を読み続けているというスタンスも持ってる自分としては、とても興味深く読了出来た。
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春日太一さんの12年間に及び橋本忍というストーリーテーラーに春日太一が苦心して対峙していく様子が痛いほど感じられる大著。
後追いで橋本忍脚本映画を観てきた自分には浅い映画歴にどんどん線が引かれていく感覚で一日で500頁級の本書を読み切りました。
ただ読後感として、映画脚本・ビジネスマン両面の才能に恵まれた人物の栄光と挫折ではまとまらない、描かれていない余白があるのではないか、まだ橋本忍はわからないのではないかという感覚も残りました。
春日さんには迷惑な期待かもしれませんが『続・鬼の筆』というより『鬼の筆・ビヨンド』があるのではないかと読者としては期待せざるを得ないです。
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これまでに一番泣けた映画と言えば「砂の器」。その後、原作も読んだのですが、映画の方がよっぽど感動的。11月27日付け日経新聞のコラム「春秋」で、この映画の脚本を書いた橋本忍の評伝が出たとあり、早速読んでみました。
橋本忍の名は知らなかったのですが、稀代の脚本家ということがわかりました。「砂の器」だけではなく、「七人の侍」「生きる」「ゼロの焦点」「八甲田山」など、自分でも見た数々の名作の脚本を手がけていたそうです。
ほぼ全編にわたって「砂の器」が出てきます。原作で、「その旅がどのようなものだったか、彼ら二人しか知らない」という、たった26文字の部分を人形浄瑠璃の手法で大幅に脚色。ところが、どの映画会社に持って行っても、「おまえ、頭どうかしているんじゃないか。今時、乞食姿が白い着物を着てあちこち歩き回るって、それが売り物になるとおもっているのか」と断られ、遂に自分のプロダクションを設立して制作。千代吉を生存させるなど、原作とは違う設定もしていますが、「映画は絶対、原作に依りかかってはいけない」のだそうです。
「字を書く仕事」であり、毎日、原稿用紙30~40枚は書いていたというのですから、まさに鬼才。取材から12年をかけた力作で、黒澤明監督との確執、俳優選びやチーム編成が映画の出来にも影響するなど、映画制作の裏話も満載。思い入れが強いせいか、「あとがき」にあるように「混沌をそのまま」書いた風でもありますが、「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」と言いたくなる一冊です。
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最近、昭和30〜40年代の日本映画を追いかけている。橋本忍の作品もいくつか観たが、力作揃いだった。この本が話題になると、さらに回顧上映の機会が増えるだろう。楽しみである。
「八甲田山」「幻の湖」の舞台裏を興味深く読んだ。
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砂の器の映画と原作ともに堪能したが、原作の軽さがが感じられた。その作者がなぜ『幻の湖』を作ったのか。偉大な脚本家を追った本として満足。
見ていない映画や改めて見直したい映画もあり、これからも読み直したい。
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今問題になっている原作者と映像化の問題、
橋本忍が原作を読み込むことなく「砂の器」を書いたことを考えると、複雑な気持ちになる。
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橋本忍は「観なきゃいけない」と思いつつ、未だ鑑賞していない作品の多い脚本家のひとりだ。本書で触れられている大作のうち、1/3くらいしか観ていない。観る前に膨大な取材のもとに書かれた本書を読んでしまうことで、すべてネタバレにならないかと心配していたが、決してそんなことはなかった。作品をちょっと観ただけでは掴みきれない製作の裏側が見えてくる。むしろ、一連の作品にこれだけの準備があった事を知ってから映画を観た方が、より深遠なところまでいけるような気がする。
なぜ映画も観ずに本書を読んだかと言えば、「幻の湖」があったからである。なぜ晩年期にあのような作品が出来上がってしまったのか。はっきり言って本書の内容でも納得いかない。もっとキャリアの手前で失敗があっても良かったのではないか。
しかし、本書の最後の方で触れられていた、時代が橋本忍作品を必要としなくなった、というような指摘はまさに同意できた。80年代とそれ以前との、水と油のような関係の犠牲になったような気がする。春日太一さんには、オーラルヒストリーとしての作家論だけでなく、映画史全体としての橋本忍論にも期待したい。
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脚本家といえば、倉本聰や山田太一を知っている人は多いと思うが、橋本忍の名前は、映画マニア以外では、余り知られていないと思います。
橋本忍は、戦後サラリーマンをやりながら書いた脚本(芥川龍之介の「藪の中」)が、黒澤明監督の目にとまり、黒澤が手を加えて、映画「羅生門(1950年)」となり、いきなり「ヴェネツィア国際映画祭」でグランプリを受賞した。
以後、黒澤明・小国英雄の3人で共同執筆を行い「生きる」「七人の侍」等の脚本を書いていたが、徐々に黒澤から離れて独立する。
黒澤から離れた理由は、完璧を目指す黒澤は、通常の脚本の3倍以上の労力と時間がかかり、しかも映画のクレジットは、黒澤との連名になるので、全ての評価は黒澤になってしまうことへの不満があったそうだ。
その後、「真昼の暗黒」「ゼロの焦点」「切腹」「白い巨塔」「日本の一番長い日」「日本沈没」「私は貝になりたい」等の脚本を手掛け、論理的で確個とした構成力で、高い評価を受けるようになった。
当時、斜陽の映画界にあって思いうように映画化が出来ないので、自ら「橋本プロダクション」を設立し、「砂の器」「八甲田山」「八つ墓村」等を成功させたが、「幻の湖」で失敗した後は、体調不良などもあり、事実上引退した。
著者は、12年間に渡って、橋本忍の子供時代からの晩年までを追い求め、9回ものインタビューを行い、橋本が残した「創作の裏側」という備忘録を丹念に読み解き、ハードカバーで500ページに近い本書を著した。
橋本忍の脚本の例として「砂の器」(野村芳太郎監督)が興味をひいた。
松本清張が書いた原作の中の捜査会議で報告される犯人の生い立ちの説明で「父親と全国を放浪していた」という4行程度のさりげない記述に注目し、脚本では、この父子の放浪を、映画の終盤に据えて、一気に画面を盛り上げてゆくシナリオに作り替えている。
ハンセン病を患ってしまったために理不尽な差別を受け、お遍路姿で流浪することになった父子。行く先々で邪険にされ、それにめげない父子の触れ合いが、時に美しく、時に厳しい日本の四季折々の風景をバックに映し出されていく名場面を作り出していく。それを犯人の終盤の回想録として描いている。
私もこの映画の記憶として、厳冬の竜飛岬、春の信州やこの本の表紙(上掲)に載っている場面しか残っていないし、これが松本清張の原作本にも書いてあると思っていた。
この手法は、競輪でゴール直前に一気にピッチを上げて追い込んでゆく「まくり」という戦法と同じだそうだ。こういう橋本のセンスを、著者は父親譲りのギャンブラーとしての勘の冴えをあげている。事実橋本も父親同様に競輪が好きであった。
このように、橋本のオリジナル作品も面白いのであるが、原作がある作品でも、原形を殆ど留めない形に仕上げているのには驚いた。
因みに「砂の器」は原作をはるかに上回った映画作品として評価されている。
またエピソードとして、橋本が有名になった後に映画会社から「忠臣蔵」の話が何度か持ち込まれた時に「一人が四十七人を斬った話なら面白いけど、四十七人が一人のジジィ��斬って、どこが面白いんだ」という父親の話を持ち出して、全て断っている。
本書では、こういう話が丹念に書き込まれてあり、映画ファンなら、一読をお薦めします。
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「幻の湖」の謎を解くカギがすべて描写されている。成功の陰になったあらゆる可能性の裏面がすべて噴き出した壮絶なギャンブラーの溜息だったのだ。
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日本映画史に名を残す脚本家橋本忍。結核療養生活、伊丹万作への師事、黒澤明との「羅生門」でのデビューから日本映画黄金期を駆け抜けた華々しい作家生活。独立プロの立ち上げなど経営者としての顔、晩年の創作など実に楽しく読むことができた。
砂の器、八甲田、八つ墓村の後の凋落ぶりが切ない。
圧倒的な事実と本人への取材の前に、ちょつと構成が弱く、淡々と続きクライマックスの盛り上がりには欠ける。
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とめどなく俗物根性で駆け抜ける橋本忍の足跡は、映画を芸術ではなく興行の媒体としてどうすれば儲かるのか、その徹底した分析力をギャンブルの糧として活用していく。腕力で面白く脚色していく橋本の興行収入や名声を欲する姿はあまりに人間臭くてグイと惹き込まれていく。栄光と凋落。この振り幅も賭博師として自覚していたのではないか。輩出する脚本に共通する主題同様、苦悩に満ちた半生は彼の宿命でもあったと感じる。