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集積回路の年輪
2024/02/14 17:45
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投稿者:求道半 - この投稿者のレビュー一覧を見る
コンピューターの歴史には、その使用者の増加と社会的な立場の変遷とが密接に関わっている。
平成初期には、各家庭に電卓やゲーム機器はあったが、パーソナルコンピューターのある家は限られていた。
中学生の大袋春菜は、自宅でも、学校でも、コンピューターに触れる生活を送っており、彼女の周囲にコンピューターの取り扱いに慣れた女子生徒が何人かいるのは、当時としては、珍しい。
パソコン通信で男子と言い争ったり、同好の士の少なさを嘆いたりして、放課後を過ごす女子中学生の平和な日常が、急激な環境の変化によって、立ち行かなくなり、その問題の解決に当たるべく、少女等が奮闘するのが、本作の骨子である。
そして、その為に使用されるのが、各種の電子精密機器である。
一介の中学生には務まりそうにないその役目を、成り行きで担わされる事となった大袋春菜は順応性が高く、仲間の手を借りつつ、彼女は事態の打開策を講じる。
作中で用いられる数々のモチーフは、作者の他作品に頻出するものであり、古くからの読者には目新しさは感じられないものであろうが、本作の白眉は、それらを駆使して構築された、見事な叙述の仕方にある。
それを可能にするのは舞台の絶妙な年代設定だ。
コンピューターの性能は飛躍的に進化する。
だが、プログラムのミスや機器の故障等により、何らかの不具合が生じたとしても、製造元や管理者、利用者の意向の如何で、それらは不問に付されたまま、改善されずに、放置される場合がある。
その結果、大袋春菜は、中学生の手に余る、人類史上の危機の回避に向けた対策に、是が非でも、取り組まねばならなくなるのであった。
もし、作者の既刊を読んで、性的な懐古趣味の横溢に目を背けたくなった人がいるのであれば、本作を読んで、作者の力量を測り直して貰いたい。
一部の読者にとっては馴染み深い、奇抜な少女の格好に目が触れても、話の本筋であるコンピューター関連の話題を追うのに支障を来たさない事に、読者は驚きを禁じ得ないであろう。
更に、その様な描写の分量が少なく、且つ、作中で淡々と表されている事にも、気が付く筈だ。
これは、個人史よりも、人類史に、言い換えれば、話の本筋に描写の重きが置かれているからである、と考えられる。
このコンピューターを巡る壮大な物語には、多少、専門用語が使われる場面があるものの、流し読みしても、大意は汲み取れるので、機械の仕組みに詳しくない方でも、肩肘張らずに、本作に目を通せる。
けれども、これは上質なサイエンスフィクションである。実写化したら、原作の愛くるしい絵柄からは想像し得ない、見応えのある作品になるであろう。
コンピューターはあらゆる分野で活用されているが、人類の幸福に寄与しているとは言い切れない。
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