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月の森に、カミよ眠れ

著者 作:上橋菜穂子

九州の祖母山に伝わる、蛇神と娘の婚姻伝説「多弥太伝説」をもとにした、日本古代を舞台にした壮大なファンタジー。1992年、上橋菜穂子が日本児童文学者協会新人賞を受賞した記念すべき作品。

月の森に、カミよ眠れ

税込 770 7pt

月の森に、カミよ眠れ

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評価内訳

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月の森に、カミよ眠れ

2008/05/21 15:22

古来、神は人に優しいばかりではなかった

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:菊理媛 - この投稿者のレビュー一覧を見る

人は自然と対話する能力を持っている。「持っていた」と言うべきか。それとも、「対話できる能力を持った人間もいる(いた)」と言うべきなのだろうか。
自然をないがしろにすれば必ずしっぺ返しを受けなければならない。それは情報が豊な現在では皆が知っている事実だ。嫌でも耳にする「地球温暖化」などの言葉は、まさに節度を超えた人間の営みがもたらした産物であり、地球が悲鳴をあげている姿に他ならない。それが「自分たちの仕業である」と知っているつもりでも、実のところ自分たちの何が悪いのかがわかっていないのが人の愚かなところなのだろう。「エコバックを使えばCO2の削減」「分別すればゴミも資源」などという行いも、実は焼け石に水の罪滅ぼしだ。むろん、「しないよりはマシ」というご意見も、「身の回りのできることから」という論法も理解はできるが、地球の悲鳴はその程度では収まらない。とどのつまりは人の営みを楽にするための行いが地球を痛めつけてきたのだ。その程度の行いがどれほどの延命措置になるものかは疑わしい。
そんなことは、実は誰でもわかっているのだ。わかっていても、今の便利な生活を「地球温暖化」という言葉の存在しなかった時代にまで逆行させる勇気など、ある人間がどれほどいるのだろうか。結局は「自分の許容範囲で」自粛することはあっても、決して「地球の許容範囲で」行いを規制するということはないのだ。
「生きるために稲を植えるということが、それほど罪な事か」と問うキシメにタヤタが答える。「崖からチョロチョロ噴出す湧き水を些細なことと見逃せば、人知の及ばぬ長い時ののちに崖は削られ、いつか崩れ去る」と。それが良いか悪いかは別として、紛れもない事実であることを否定できる者はあるだろうか。人は皆、実は知っているのだ。
臨終の際にホオズキノヒメが息子に言った言葉、「怒らないでおくれ。人はおろかなもの。いくども過ちをくりかえす」。絆を断ち切ってしまえば、いつか自然は姿を消し、自然の一部でしかありえない人の世も終わりを告げるという真理を、知ってか知らずにか人間は文明を巨大化させてきたのだろう。巨大になりすぎて、もはや歯止めも利かないのだ。
その昔、自然と人の営みを調和させるためにシャーマンの役目を果たすものがいた。多くの物語では超能力者のような力を持ち、未来を読み、病を治す存在のように描かれている。深くは知らないが、シャーマンとして神々と対話する役目を担った者が存在したのは日本に限らないようで、どこの国にも神の声を聞き、民衆を導く役割を果たすものがいたようだ。現在でもいるのだろう。そう言えば卑弥呼もシャーマンではなかったか。イメージとして日本では、神との仲立ちをするのは女性が多い。「神」が男だから、つなぎ役は女性が相応しかったという程度の理由だろうか。それとも、「育み守る」というのは女性の性だからだろうか。
目の前で飢えて死んでゆく隣人を助けたいと思うのも愛ならば、自然を、地球をあるがままに受け入れて共生する道を守ろうとするのも愛なのだろう。それは哀しいけれど相容れないものなのかもしれない。古代文明が遺跡を残して忽然と消えてゆく。文明と自然のバランスが崩れた時、そこに人の生きる場所はないということなのだろうか。カミ殺しを行ってまで作った稲は租税に取られ、その後も村の者が飢えに苦しまなくなったわけではないと物語りは続く。どうあがいても生活に苦しみはついてくるのだ。
「月の森に、カミよ眠れ」はファンタジーとして読んでほしいというのが作者の意思だと書いてあった。事実考証の問題なのだそうだが、そういう理由でなら「古事記」だって「日本書紀」だって、いわばファンタジーだ。絵空事と思わず、こともはこどもの、おとなはおとなの、それぞれの感性で読み味わって欲しい物語だと思う。

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月の森に、カミよ眠れ

2003/01/21 16:50

自然と文明

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:みゃあ - この投稿者のレビュー一覧を見る

カミを殺したムラに残ったものは何であろうか?
朝廷が権力を拡大するために新しい文化、稲作をムラに強要してきた。
しかし、そのためにムラは、カミを殺さなくてはならなくなる。
カミは村人にとってやさしいだけの存在ではない。時には厳しい。
ムラのカミは自然そのものだったのだろう。人間は、自然を破壊
することで文明を切り開いてきた。その犠牲の上に現在があるということを
忘れてはならないのだと言うことを改めて考えさせられた。

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リアルな古代史ファンタジー

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Adele - この投稿者のレビュー一覧を見る

遠い遠い昔。
日本の各地にムラやクニが点在していた時代から律令制により日本が統一される時代への転換期が訪れようとしていた。
朝廷に従うということはそれまでの土着のカミへの崇拝を捨てること。
そこで人々は何を失い、何を得たのか…

本書はあくまでもファンタジーとのことなのですが、「日本伝説集」の中の「あかぎれ多弥太」というストーリーをもとにしており、日本の正史には殆どでてこない「隼人」(今の鹿児島にあたる地域に住んでいた人たち)の暮らしを描いています。
なので現存資料が少ない故に創作部分が多く、ファンタジーと定義されているものの、時代考証はしっかりとしています。
教科書で習った、「律令制により各地のムラやクニが国家に組み入れられていった」ことが当時の人にとってはどんなことだったのか、生々しい質感で描かれます。
特に中心テーマとなっているのは舞台となるムラの土着の「カミ」が、外からやってきた力によってどう失われていったのかという点です。
そこには人間のさまざまな葛藤があり、本当にこんな人々が存在していたのではないかと思わせるリアルさがあります。

読後感としては私が小学6年生で初めて犬夜叉を読んだ時の、「かつては実在していたであろう人に思いを馳せ、その人々が今の世にはいないことにそこはかとない切なさを感じた」原体験に近いものがありました。
(※犬夜叉はいないけど、当時の私はハマり過ぎて実在したかのように錯覚していました)
神話や伝説のように、「カミ」と人とが交わる世界が本当に存在していたのかもしれない…。そう思えてなりません。
ラストの目まぐるしい展開は神々しくも哀しく、思わず涙してしまいました。

読書とは時代や空間を越えた旅だなぁ、と改めて感じました。

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