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月の森に、カミよ眠れ

著者 作:上橋菜穂子

九州の祖母山に伝わる、蛇神と娘の婚姻伝説「多弥太伝説」をもとにした、日本古代を舞台にした壮大なファンタジー。1992年、上橋菜穂子が日本児童文学者協会新人賞を受賞した記念すべき作品。

月の森に、カミよ眠れ

税込 770 7pt

月の森に、カミよ眠れ

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月の森に、カミよ眠れ

2002/01/18 00:26

プチ・もののけ姫

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:かけだし読書レビュアー - この投稿者のレビュー一覧を見る

 古代日本。舞台は「月の森の神」を崇めていたとある貧しい村。そこに「神殺し」を依頼された主人公ナガタチがやって来る場面から物語ははじまります。といっても主人公が古代の日本で活躍するような類の物語ではなくて、大部分は村の若い巫女から語られる「村の伝承(人と神の物語)」がメイン。丁度ひとつの時代の節目で、それまで自然と共に暮らしていた民族が、新しい文明を取り入れる為に「神殺し」を企てるまでの経緯が詳細に綴られています。

 新しい時代の訪れ、薄らぐ神への意識、三人の巫女の葛藤などを描きながらふと何かを考えさせられるような物語。ただ同作者の守り人シリーズと比べると物語としての面白さはもう一歩。個人的には回想録形式だけでなく、今を生きる人々の生活や風習、情景描写などを織り交ぜながらもっと描き込んでほしかったかな。プチ・もののけ姫みたいな感じです。

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月の森に、カミよ眠れ

2004/06/23 13:57

自然は理路整然と存在し、人間の情を受入れてくれない。両者は共存できるのか。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ミケ子 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 娘は夫がおそろしい大蛇だとわかった後も愛し続け、子を産んで育てたという
九州の祖母山に伝わる『あかぎれ多弥多(たやた)伝説』に強く心ひかれて
上橋さんはこの物語を書いたそうだが、この話を読みながら、蛇ガミと娘の婚姻伝説を
昔どこかで聞いたことがあるなぁと、懐かしく感じた。
私は九州の出身なので、小学生の頃「九州の民話」とかいう本を読んだのか、
祖母が布団の中で私に語って聞かせてくれた話のひとつなのか、
はたまたテレビのアニメ番組で見たのか定かではないけれど。

 カミが守る自然とは、人間が生きるためにあるものなのか、それともカミにとって
人間は自然の中のほんの小さな一部分でしかないのか。カミとは何なのか。
朝廷への「租」のために、苦しい生活を強いられるムラの人々は、
自分達の生活のためにカミの土地を開拓していくことを望む。
そのカミの土地にしか稲が育つ場所がないからだ。
死ぬか生きるかの苦しい生活をしているムラの人々は、自然のバランスが
崩れるからという理由でカミの土地で稲作をすることを許さないカミを
信じなくなっていく。
目の前で死んでいく我々を見捨てるのがカミなのかと。
それは、カミではなくオニであると。

 人間の生死の尺度で計れるほど、自然の生死のサイクルは短くない。
いくら人間に想像力があるとはいえ、その二つを添わせるのは案外難しい。
人間に、情と欲とがあるかぎり。

この物語には、宝石の原石のような力強さがあると思う。

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月の森に、カミよ眠れ

2001/01/18 12:25

文化の分岐をファンタジーで鮮やかに表現

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:あき - この投稿者のレビュー一覧を見る

 まだ朝廷と各地の勢力が争っていた頃の古代日本。
 月の森に住まう「月の神」なる大蛇(おろち)をあがめ、恐れながら暮らしていた民族。その民族を導く者として、少女が大きな役目を負いますが、その少女は神を愛してしまい、民族もろとも、運命の波に翻弄される話です。

 古代ファンタジーとでも呼べばいいのでしょうか。この手の話は初めて読みました。
 縄文文化から弥生文化へと変っていくときに、必要とされるそれに見合う犠牲。でも、その犠牲は大きく、少女が背負うには重すぎるものでした。
 読み進みながら、頭に浮かぶのは、かの「もののけ姫」(言わずもがな、スタジオジブリ作品)。鉄を摂る為に森を荒らす人間と戦う「もののけ姫」。
 対してこの作品では、生きる為に必要な稲作をするのに、踏み込んではならないといわれている森に踏み込む人間を押し留めるべきか、行かせるべきか、悩む少女がいます。
 人命を選ぶか、掟を選ぶか…つまりは、神に背くかどうかという究極の選択。
 文明が進化してきた背景には、常にこうした選択があり、どちらをとっても、何かしらの犠牲を払わねばならなかったであろうということを呈示しています。
 私たちは、進化した世の中で生活していますが、その裏には、必ず、犠牲を強いられているものがいるということを感じなければならない。そう思いました。

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