日本のルネッサンス人
著者 花田清輝 (著)
永徳「洛中洛外図」や光悦“鷹が峯”をめぐる様々な流説等を媒介にして、中世から近代への転形期を美事生き抜いた、日本のルネッサンス人に、転形期特有の“普遍性”を発見し、誰より...
日本のルネッサンス人
01/23まで通常946円
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商品説明
永徳「洛中洛外図」や光悦“鷹が峯”をめぐる様々な流説等を媒介にして、中世から近代への転形期を美事生き抜いた、日本のルネッサンス人に、転形期特有の“普遍性”を発見し、誰よりも激しく現在を、更に未来を生きる“原点”を追求する花田清輝の豊かな歴史感覚、国際感覚、秀抜なレトリック。若き日の「復興期の精神」を成熟させた批評精神の凱旋!
目次
- 眼下の眺め
- 本阿弥系図
- 琵琶湖の鮒
- カラスとサギ
- 小京都
- 悪女伝
- ナマズ考
- 古沼抄
- 利休好み
- まま子の問題
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嫌われ者の日本史
2015/10/20 23:42
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
無論日本にもかつてルネッサンス時代といったものがあったなどと主張しているわけではない。そうは言っても、ある日突然、開国によってヨーロッパの制度を導入して突然近代社会が生まれたわけではなく、中世世界から近世、近代と時代をたどった以上、その過程の中で人間中心の近代的制度を受け入れるだけの準備、むしろ積極的に取り込もうという意欲が、徐々に萌芽していたに違いない。それもただ一人の人間によってなされるわけもなく、多くの人々により、少しずつ育まれていたものだ。
花田の小説「鳥獣戯話」では、武田信玄の父武田信虎や周辺の人々にその痕跡を作者は示したが、さらに遡って室町時代全般にその痕跡を辿る。狩野永徳のきらびやかな洛中洛外図に描かれるさまざまな人々の暮らしはいいが、それらを画上で区切る雲、その金色の雲は、なぜに金色なのか。永徳あるいは狩野派の日本画と中国画を混合させてきた歴史と、その技法で永徳が為そうとしたことを推論してみる。
しばしば登場するのは、当時の代表的な知識人らしい一条兼良で、応仁の乱を避けてさっさと土佐あたりに逃げ出したのも、なかば幸運にしろ、京にこだわらずに地方の経済力を見定める眼力を認める。また応仁の乱を引き起こした要因の一つでもあり、悪女の代表格のようにされている日野富子も、権力の亡者というよりも、貨幣経済の強力さを発見したために体制に風穴を開けてしまったものだという。石川淳の小説「修羅」での応仁の乱が足軽集団を始めとした群衆による財産収奪の舞台と化したことにも呼応しているようだ。
花田の手法は、文書に残された思想や人物評は疑ってかかり、それらは施政者の都合や既得権保持を目的に歪められていることを前提に、ただ人々の行動の記録を見ることで、真意を計り、文献の欺瞞をも引き出してゆく。そうしてこそ、新しい思想と同時代の相克、そして革新性が露わになるのだ。
事実として南北朝の分裂以降、三種の神器の行方はどうなったのか。それで何を否定するでも肯定するでもないが、まず事実が気になる。江戸時代の農学者で、商品作物を導入して農村を活性化させたことで、毀誉褒貶をあたりながらも、徳性の観点と経済の観点での評価を対照してみる。あるいは民間伝承の物語の中に、無名の人々の経済観念の発達の兆しを見る。池波正太郎の小説で有名になった鬼平こと長谷川平蔵は、火盗改めであると同時に実は人足寄場を設置し、ここで日本最初の工場制手工業が行われたという。
歴史の流れと称する大局的な目からこぼれ落ちていく、一人一人の営為を掘り起こしていくことで、一般通念どころか、体制に順応するだけの現代人の価値観までをひっくり返していくのが、この面白さだ。たぶん人間の新しい思想というのは、権力から忌み嫌われるところに発見されるものなのだ。一方で、動物による軍記物「烏鷺記」を、一条兼良が囲碁熱の果てに書いたのだと論証しようとする悪戦苦闘が、また一流の茶目っ気であって実に愉快。