怖い俳句
著者 倉阪鬼一郎 (著)
世界最短の詩文学・俳句は同時に世界最恐の文芸形式でもあります。日常を侵犯・異化するなにか、未知なるものとの遭遇、人間性そのもの……作品の中心にある怖さはそれぞれですが、ど...
怖い俳句
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商品説明
世界最短の詩文学・俳句は同時に世界最恐の文芸形式でもあります。日常を侵犯・異化するなにか、未知なるものとの遭遇、人間性そのもの……作品の中心にある怖さはそれぞれですが、どれも短いがゆえに言葉が心の深く暗い部分にまで響きます。一句二句、暗唱して秘められた世界に浸ってみてください。不思議なことに、そこはかとない恐怖がやがてある種の感動へと変わるはずです。数々のホラー小説を手がけ、また俳人でもある著者が、芭蕉から現代までたどった傑作アンソロジー。
著者紹介
倉阪鬼一郎 (著)
- 略歴
- 1960年三重県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科日本文学専攻博士課程前期中退。作家・俳人・翻訳家。現代俳句協会会員。著書に「地底の鰐、天上の蛇」「白い館の惨劇」など。
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チラリズム
2012/12/01 18:42
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Tucker - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界最短の詩である俳句。
その俳句の世界で、「俳聖」松尾芭蕉は
「言ひおほせて何かある」(すべてを言いつくしてしまって、何の妙味があるだろうか)
と言っている。
要するに「チラリズム」
ただ、俳句で「怪奇」や「恐怖」を表現した場合、短いだけに、かえって想像が掻き立てられてしまう。
本書では、そんな怖い俳句を紹介している。
その怖さの種類にも
「幽霊画を見たり、怪談話を聞いているような怖さ」
「作者自身、もしくは作者がおかれている状況が怖い」
「作者が体験したことが怖い」
といったものがある。
「幽霊画を見たり、怪談話を聞いているような怖さ」は比較的、分かりやすい。
なにより、所詮「絵」や「話」なので、実際に危害を加えてくるようなものではないという、ある種の「安心感」もある。
そのような句の中で印象に残った句としては次のようなものがある。
稲づまやかほ(顔)のところが薄(すすき)の穂 松尾芭蕉
骸骨たちが能を舞う絵に感じ入っての句。骸骨の幽霊たちが踊り狂うさまを偶然、見てしまったかのよう。
狐火や髑髏に雨のたまる夜に
公達(きんだち)に狐化けたり宵の春
巫女(かんなぎ)に狐恋する夜寒かな
すべて与謝蕪村の句。怖い句ではあるが、同時に絵になる感じがする。
流燈(りゅうとう)や一つにはかにさかのぼる 飯田蛇笏
怪奇現象?
蛍死す風にひとすぢ死のにほひ 山口誓子
嗅覚にうったえる、というのはこの句だけ。「死のにほひ」がどんなものか分かりませんが、嗅げば、それと分かるものなのだろう
百物語果てて点せば不思議な空席 内藤吐天
さきほどまで百物語をしていたメンバーの一人こそ実は死者そのものだったのか・・・。
「山小屋の四人」の怪談を連想させる。
水を、水を 水の中より手がそよぎ 坂戸淳夫
水の中からのびてくる手は「助け」を求めているのか、「仲間」を増やそうとしているのか・・・。
海避けて裏道とほる死者の夏 大屋達治
海水浴客でごったがえす海沿いの表通りから一歩、裏通りに入ると表の喧騒がウソのような静けさ。
死者が歩くにはもってこいの環境なのだろう。
隙間より雛の右目の見えてをり 小豆澤裕子
ホラー映画で隙間から外の様子を覗いたら、邪悪な者もその隙間から中の様子を覗いていた、というシーンを連想させる。
「作者自身、もしくは作者がおかれている状況が怖い」という句(自由律詩が多い)は紹介されている数は少ないものの、かなりゾッとするものがある。
皿皿皿皿皿血皿皿皿皿 関悦史
よく見ると「皿」の羅列の中に、形のよく似た「血」が混ざっている。
いまだに意味不明だが、「皿」という日常品の中に突然「血」が出てくる怖さがある。
ホントニ死ヌトキハデンワヲカケマセン 津田清子
文句なしで怖い・・・。
本書の中で一番、怖かったのが「作者が体験したことが怖い」という句。
戦争が廊下の奥に立つてゐた 渡邊白泉
廊下の奥に立っていた「戦争」は人型で、ずんぐりむっくりの体型、全身真っ黒、顔は大きな口だけの異形の者(推測)
「冷酷無比」ではあるものの、「邪気」はない気がする。
この作者の他の句も怖い。
繃帯を巻かれ巨大な兵となる
赤く蒼く黄色く黒く戦死せり
眼をひらき地に腹這ひて戦死せり
どれも「この世ならぬ者」が関わっておらず、戦場で実際にありそうな光景なので、よけいに恐ろしい。
結局、一番怖いのは「この世ならぬ者」ではなく、「生きている人間」なのだろう。
文字通りこわ~い俳句
2019/07/02 22:04
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
倉阪鬼一郎という人の『怖い俳句』という本は、
文字通りこわ~い俳句を集めた本です。
「幽霊が写って通るステンレス」(池田澄子)とか
「百物語果てて点せば不思議な空席」(内藤吐天)とか。
俳句でホラーとは意外でしたが、想像力が凝縮された句がいくつもあるのですね。
ついていけないような感覚の作品もけっこうありました。
こわさは人それぞれということでしょうか。
そういえばホラーではないけど、有名な一茶の「やせがえる負けるな一茶ここにあり」も、弱い者への賛歌ではなく、どろどろした情念の句なんですよね。
怖い俳句ってこんなにあるんですね!
2017/01/29 18:32
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木置場住人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
テレビで俳句作りがちょっとしたブームになっています。
"怖い"俳句なんてと期待せず、少しづつ読み進めました。作者である倉阪鬼一郎さんに興味があったからです。
一読してイメージをふくらませてから、解説を読むのですが、たしかに"怖い"です。
どれが一番怖いとは言えません。まずはページを開いて、どこからでもいいから黙読し、次に音読して下さい。
「俳句の怖さは、その決定的な身近さに由来します。」まえがきより。
2023/04/19 21:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:やまだち - この投稿者のレビュー一覧を見る
怖い俳句を集めたアンソロジーです。
ネタバレがあります。
第1章 芭蕉から子規まで
第2章 虚子からホトトギス系、人間探求派まで
第3章 戦前新興俳句系
第4章 実存観念系とその周辺(伝統俳句、文人俳句を含む)
第5章 戦後前衛俳句系
第6章 女流俳句
第7章 自由律と現代川柳
第8章 昭和生まれの俳人(戦前)
第9章 昭和生まれの俳人(戦後)
まえがきに「鑑賞する主体によって、感じる怖さはおのずと違ってきます。」とありますように、句の数だけ怖さの種類もあります。
句のテーマは深い闇や怪奇、稲妻、生き物やその死骸とホラーのオンパレードです。病や死、戦争をあつかった句は底知れぬ怖さがありました。無駄のない十七音だからこそ想像の余地がうまれ、不気味さが増すのでしょう。
印象に残った句が、
鶏殺すこと待て海を見せてから 大原テルカズ
解説の「残酷な抒情」という言葉とともに、深々と胸に刺さりました。
また、有名や俳人たちも「怖い俳句」を詠んでいたことにびっくり!「教科書に載っていない子規」の句はゾクゾクしました。そして句の解説によってその背景を知ると、作者の思いとリンクしてしまい怖さ倍増です。
*虫(ムシ・蟲)が苦手、あるいは集合体恐怖症の方はご注意を!
大人になってようやく俳句が分かり、興味を持った
2024/06/25 19:51
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:otr - この投稿者のレビュー一覧を見る
国語の教科書に俳句が載ってても、俳句とはなんでありこれの何が面白いのかさえ理解できていませんでした。本書を読んでようやく入口に触れました。
本書は「怖い俳句」というテーマのもと、まず「俳句は世界最短の詩」と言います。その性質が「怖さ」と合うのだと説く。歴史をたどりながら様々な俳句を紹介していきます。松尾芭蕉などは誰もが知っている俳人ですが、有名な文豪にも俳句があって驚きました。
ここから各俳人の個別の句集に手を伸ばしました。手に取ってよかった一冊です。