脱臼されたセカイ系?
2008/06/24 22:00
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
さいきん、劇作家さんが小説を書くというのが、はやっているというか、目立っている。いや、順序からいえば、文芸誌の編集者が、劇作家さんに小説を書かせる(書いてもらう)ことが、すごく多くなっている。書かせた(書いてもらった)劇作家さんが、「よい小説」を書くので、その人がまた書くことになるばかりでなく、まわりの劇作家さんにも、小説の依頼がいくようになる。本職の小説家さんは、どうしちゃったんだろう(どうなっちゃうんだろう)、というようなことも少し気になるが、確かに、本谷有希子さんや岡田利規さんや、そしてこの前田司郎さんの小説は、どこかこれまでになかったような新しさを、小説の世界に持ち込んでいる(ようにみえる)。
『恋愛の解体と帰宅の滅亡』は、身も蓋もない言い方をしてしまえば、実にくだらない小説である。それはそうなのだけれど、やはり新しいような気がするし、その上、面白いような気がする。つまり、まとめてしまうとたいへんつまらないもののようなのだけれど、実際に読んでみると実に素晴らしい小説なのだ。例えば次のような一節は、小説に描かれた主人公の「自我」としても、その表現としても、さらには言葉への懐疑としても、その一流ぶりを示してあまりある。
《 先ほどから劣等感という言葉を使っているが、それは本当にここ何百年、劣等感という言葉で表現されていた感覚と同じものであるのか分からない。多分この感情はそれであろうという推測に過ぎない。だから、もう少しその感覚を細かに観察してみる。》
してみれは、主人公は、繊細、というより細かいことを気にする人で、劇作家の前田さんはそのことをいちいち書く小説家だということになる。しかも、上記のような、日常の事々を細かく書いていく中で、この小説世界では、地球を揺るがす規模の出来事が背景として描かれ続け、しかも主人公は恋愛とは何かをつきつめるためにSMクラブにいってみるということが、この小説の全貌なのだ。してみえれば、みみっちいほどの日常に、突如戦争が関わってくる、あのセカイ系といった小説・マンガにも似てくるようではある。しかし、ここでは別れの悲劇も涙する感動も、登場する気配すらない。そうしたシリアスになりそうな展開は、こまごまとしたディティールによってことごとく脱臼されていく。その結果、たいへん恐ろしくもおかしみのある世界が、ゆるい印象とともにこの劇作家さんの書いた小説の外貌を覆うというわけなのだ。
非日常のなかの日常
2017/05/10 16:18
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
宇宙人に占領された東京都内が描かれているが皆どこか淡々ととしている。奇妙な脱力感が前田司郎らしかった。
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投稿者:ちーかま - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんか既視感あるなと思ったら、主人公がブツクサ独り言を考えているところがモテキというドラマの主人公に似ているなと感じた。SMクラブとか宇宙人騒ぎとか特殊な味付けをそれに加えた感じ
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「僕はオシャレな不細工が男の中で一番哀れだと思っている」という一文を書籍で読めるとは思わなかった。思考も文体も全てがずばりハマった。
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「どうやって出てくるかと全人類が注目したが、普通にハシゴみたいのでおりてきた。
がっかりだ。全体的に宇宙人にはがっかりした」
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五反田団の前田さんのー2冊目!
『恋愛の解体と北区の滅亡』
舞台は宇宙人占領下の東京。
宇宙人殺害事件により、北区が砲撃をうけ、滅亡。
そんな東京、五反田で暮らす男は頭のなかでもんもんと恋愛を、解体。
男の思想たれながし具合が、あーこんなこと考えてる人っているんだーって新鮮だった。
男がSMクラブに行って、そこでの女王様とのくだりは最高に面白かった。
『ウンコに変わる次世代排泄物ファナモ』
タイトル以上のインパクトは無く、タイトルに完全に食われてますね。残念。
おなかのゆるい彼氏が、排泄物をファナモ(いつでもどこでも固形ででてくる)に変えたよ!という感じの話です。
わたしもファナモに変えたいな〜、とは心底思いました。
表紙の女の人が持ってる石みたいなのが、ファナモです。だれか発明してくれ〜
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「恋愛の解体と北区の滅亡」「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」の2編。特に「恋愛~」は面白い。たった数時間の出来事と主人公の思考を密度濃く書いている。ラストに向けた求心力というか真中へぐいぐい引き込んでいく書き方は著者の「グレート生活アドベンチャー」にも共通しているが、本作のほうがより統合的な結び方をしている。
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ちょっと変わった男の頭んなか覗いてるようでおもしろかった。
個人的に好きなのは、
宇宙人が池袋に降り立ったときUFOから降りてくる描写と、
電車内で見かけたおしゃれなブサイク(男)に対する主人公の感想。
種をまいてないところに一生懸命水をかけているようなもの、
というのにはすごく同意笑。
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だだ漏れ思考回路。
わかる、わかるよ。と思いながら読み進めるも、あまりに冗長でくだらなくて、途中で半笑いになる。
驚きはないけど、この感じ、じわじわくる。
個人的にはファナモぐらい短い話、好きだな。
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これまた三島由紀夫賞最終候補作だそう。
舞城とか金原ひとみとかそっち系でエロいけどグロくない文章の巧さ面白さに拍手!
宇宙人が出てくるんだけどやばいー。
電車のなかで声だして笑いそうになった。
大体うしろについてる短編のタイトルが
「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」
って私友達なくなりそー。
以下のくだりがすき。
僕はオシャレな不細工が男の中で一番哀れだと持っている。
種が埋まってない畑にばかりこつこつと水をやり、肥料を撒き、来る日も来る日もその畑のことを考えている。でも、芽は出ないんだよ。そこには種がないんだよ。あっちへお行き。そして崖の所で雷に打たれ、壮絶な最期を遂げて、神様が同情して星におなりなさい。
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「群像」掲載時と単行本で読みました。思い出しながらレビューなので正確ではない。
中篇「恋愛の解体と北区の滅亡」と短編「ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ」収録
「恋愛~」
宇宙人が東京に降り立った世の中、宇宙人殺害事件により外交問題に発展。宇宙人が声明発表を控えた日、だった気がする。そんな日に男は恋愛について考え、その解体のためSM嬢とのプレイを試みる。そんな話。
男のモノローグが自堕落に展開されていく。作風に好き嫌いはかなり分かれるかもしれない。個人的には町田康や舞城王太郎と同じカテゴリにおいてるのだが、両者に比べ視野は狭くスピード感はゆるい。文章自体も両者のような言語に挑戦する気概は感じられない。そういう意味では馴染み易いが、彼らを嫌いな小説読みはこういうゆるく自堕落な自分語りも嫌いそう。故に彼ら以上に読み手を選びそうなのである。
初読の感想は「なんか嫌いじゃない」くらいのものであったが、翌月の群像での合評(奥泉光・小谷真理あともう1人は失念)が興味深く、その視点を踏まえれば「世界と自己」について考える上でのサンプルとして面白い。
(合評の乱暴な要約:小谷がSF側のアプローチとして宇宙人についての描写が不足している点を指摘しており、それは確かにSF小説としては大きな瑕である。宇宙人のディテールも彼らの乗っているUFOも書割的だし、彼らが訪れたことによる社会の反応への考察も希薄だ。しかし、奥泉がこの書割的であること、SF的造形への無関心について文学的観点から説明してみせる。宇宙人の報復攻撃という世界的な危機→大状況に対して、一個人の恋愛に対しての考察という小状況という対比故である)
この危機的状況は客観的な作中世界において紛れもない事件であるが、主人公の主観的世界においては殆ど興味の埒外である。
宇宙人という異物は、SFであれば打倒ないし共存という手段に違いはあれど物語上の「敵」であるが、この作品では宇宙人そのものにも異物の襲来という状況にも主人公は接触を図らない。
セカイ系なんかでは社会を飛ばして主人公の意思が直接世界(大状況)の救済と接続されるが、この作品は世界とも接続しないのだ。常に目の前の小状況の集積によってのみ形作られている。
「無関心」の対象として大状況の存在が提示されている意味について考えると、メディア批判のメタファーとして捉えられるだろうし、文学に対して門外漢の僕には、時たま傲慢に映る文学という価値概念(個人的思想と世界との直接的な接続とか、そういった「力」の妄信)の否定のための小説として読めるような気がする。
「ウンコ~」
ウンコを臭いのないファナモという固体に変換する技術がある社会で、以前デートでウンコ危機に追い込まれた彼氏がファナモに変えたよ、という話。
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ここに出てくる宇宙人のフェイクですらない存在感。一周して逆にヒリヒリするとか、そういうことでもない。
ただそこにいることで、確実にその背景を支配してしまう存在でありながら、自覚もないし、主体性もない。登場シーンの段取りの悪さは、むしろ信頼に足るほど。
僕は、作品と現実を対応させて読むという旧来の読書スタイルやリアリティに、読み手として、もうすでに無理を感じているところが大きい。
スカした言い方をすれば、それはつまり、「ポストモダン以降の文学の前提」であり、この作品では、「宇宙人の記者会見」がその役割を担っていたと思う。
そしてとにかく主人公の思考が些末。ここに共感を覚えずにはおれない。
併録の、『ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ』では、女性目線で語られる自意識の現代バージョンに、細部でたくさん笑わせてもらった。
八つ当たり的に、「転べ!」と念じるところなんて、もうなんかその気持ちが分かりすぎてカタルシスを得た。
大災害のあったその日に株価の話をしている人間がたくさんいるような世界で、唯一の救いとなるリアリティとは、こういうものだ。
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突然、
空から宇宙人がやってきて、
しかも、
それは圧倒的な恐怖ではなくて
動きもトロいし
なんだかはっきりしない宇宙人たち。
だからこそ曖昧で怖いのかもしれないけど。
宇宙人の支配下に置かれた日本。
そして東京。
事件が起こるのは北区。
宇宙人を殺した地球人。
宇宙人からの報復攻撃はあるのか。
そんな緊迫していそうな、
なんだか如何にもならなそうな状況で、
主人公は
恋愛を解体してみようとする。
愛とか恋とかって何?
憎悪とか衝動とかって何?
うへー、なんか面倒くせぇ。
連鎖ゲームのように
あちらへ、こちらへ、思考は動いていきます。
何がどうとか詳細に描かれている訳ではないけど、
彼の思考がつるーっと
私の頭に入り込んできます。
正直グダグダグダグダ考えていて
生産性があるかって言うと、
一歩手前のような。苦笑
だけど、面白い。
あー、ふざけてんなあって思って読んでいると
急にぐっと目の前に飛び込んでくる言葉もあったり。
なるほど、そんな言葉や発想あったのねえってなります。
真剣に真剣になればなるほど、
突き詰めるほど
思考はシンプルに滑稽。
なので笑えます。
「人は愛を求めて海に出て
セックスという霧に巻かれて
そこで幻を見る。
愛の幻を。」
「それは単に、口元が少しつりあがり、
目じりが少し下がったかな、くらいの変化でしかない。
幸せは、そんな程度のことなのかもしれない。」
ちなみに一緒に収録されている
『ウンコに代わる次世代排泄物ファナモ』
これは、あんまり書くことないけど
完璧に近づこうとすると邪魔をするものがあり、
限界があり、
キラキラした恋人っていう
二人の世界の
壮大なコントです。
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宇宙人に侵略されている近未来の話なのかと思いきやあくまでも日常を描いている。前田司郎さんは日常を切り取るのが本当にうまいなぁと思う。そして日常の中にある非日常を描くのもリアリティがある。好きな作品。ファナモのほうもファナモという概念をすんなり受け入れることができるし、かと言って押し付けがましくないし、日常で、素敵だった。
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ちょうどこれを読んでいる時に、友人の自主映画の撮影の手伝いをしていて、宇宙人が五反田にやってくるという噂が流れるという物語だったので偶然かっ!と、嬉しくなった。
主人公の思考が最初の目的からだんだん逸脱していく前田氏のワザは健在だった。
宇宙人って、心理学でいう何かの例えなのかなぁと最後まで考えていたけど、分からなかった。考え過ぎちゃったよ。
五反田団行くときって、いつも大崎から行っていたから、この前初めて帰り道五反田のほうを歩いたら、駅までの道のりに小説にあるような(?)お店や客引きが実際あって、引いた。
「ファナモ」のほうは、彼氏がウンコっていうのを「ファナモ」って呼び方変えただけなのかと思っていた。
他の方のレビューを見たら、成分自体を変化させたみたいだった。
これが「男前力(りょく)」なのか、すごいな・・・。
そういえば、ウンコの臭いをバラの香りに変えるサプリメントとかあったけど、それが「ファナモ」の前進みたいなものなのかな。
そのうち「ファナモ」が実現しそうだな。と、思う。