屋上物語
著者 北森 鴻
さまざまな人たちが集まるそのデパートの屋上では、いつも不思議な事件が起こる。飛降り自殺、殺人、失踪……。だが、ここに、何があっても動じない傑物がいた。人呼んでさくら婆(バ...
屋上物語
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商品説明
さまざまな人たちが集まるそのデパートの屋上では、いつも不思議な事件が起こる。飛降り自殺、殺人、失踪……。だが、ここに、何があっても動じない傑物がいた。人呼んでさくら婆(ババ)ァ、讃岐うどん店の女主人である。今日もPHSの忘れ物が一つ。奇妙なことにそれが毎日、同時刻に呼出音だけ鳴るのだ。さくら婆ァの手が空いた時間帯に、まるで何かをつたえたいかのように……。早世したミステリー界の異才が残した珠玉の連作「屋上」推理、熱いリクエストに応えて待望の電子化!
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デパートの屋上を舞台にした連作ミステリ
2021/05/24 18:52
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あるごん - この投稿者のレビュー一覧を見る
デパートの屋上で繰り広げられるいろいろな殺人事件などを扱ったミステリ。表紙には長編推理小説とあるけれども,短編の連作推理小説集で,同じ登場人物は出てくるが,手軽な短編集としても読める。もちろん,話は繋がっているから前から順番に読む方が良いけれども。話によって事件の語り手がいろいろ変わり,また語り手が独特で面白い。
楽園に一番近いデパートの屋上で繰り広げられる、あるうどんスタンドの店員と二人の客に纏わる、苦く切ない、けれど温かい連作ミステリ
2003/06/20 02:09
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:spade-may - この投稿者のレビュー一覧を見る
「さくら婆ァ」「さくらさん」「さくらおばさん」呼び方は『人』それぞれだが、その全てに畏敬の念が込められていることは明らかだ。そう、彼女こそが、このデパートの屋上で最強と謳われた女傑に他ならない。
彼女が仕切るのは、とあるデパートの屋上にある、百円数枚で高級店並みのうどんが食べられるスタンド。この屋上にくる誰もが、彼女の鋼鉄の視線と濁声には逆らえない。裏の世界を知り尽くした興行師の杜多や当世の高校生、タクも例外ではない。
非日常という幻想にしか存在しない楽園は、決して天国ではなく苦い日常の続きそのもの。屋上で起こる、時には救いもなく、遣り切れないような事件を次々に解決する三人は、やがてそれぞれの過去といううねりの中へと帰納されていく。
確かに、祥伝社から新書版で出版されていた同名の小説の文庫化だけれど、「もう読んだから…」なんていちゃいけません。新たらしく、『タクのいる風景』も収録して、バージョンアップしております。新書版を読んだ方は是非ご一読を。まだ読んでないという方も、北森鴻という作家を知る絶好の機会です。どうぞめしあがれ。
さくら婆ぁのスタンドで――デパートの屋上で繰り広げられる少し哀しい物語。
2010/10/17 14:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
とあるデパートの屋上にあるうどんスタンドは、デパ地下に出店している正真正銘、本場の讃岐うどんが立ち食いの値段で食べられるという隠れた名店。そしてそのお店のもうひとつの名物が、スタンドをひとりで切り盛りする「さくら婆ぁ」。さくら婆ぁは「ババア」と呼ぶには若いが「お嬢さん」と呼ぶにはかなりの抵抗のある妙齢。口は悪いが情には厚く、一本筋の通っていないことが大嫌いなさくら婆ぁ。常連客の杜田(ヤクザ者)を顎で使い、屋上で起こる数々の難事件を解決していく。
デパートの屋上を舞台にした連作短編集。表紙には「長編推理小説」と銘打っているけれど、わたしに中では「連作短編集」という括りにする。
まず――これは北森作品に総じて言えることだけれど――キャラがいい。さくら婆ぁや杜田をはじめ、主要な登場人物がいい。キャラクターを魅力的に描き分けられていること――それは北森作品の特色と言える。
そして本書にはもうひとつ大きな特徴がある。それは、各短編が屋上に存在する「モノ」視点で展開するということ。語り部は人ではないのだ。例えば屋上に祀られたお稲荷さん。例えば「調整中」の観覧車。他にもベンチにピンボールマシンと…さくら婆ぁ一日の大半を過ごす屋上にあるモノたちが、自身が見た風景を語ってくれる。
これらのもの言うモノたちは24時間365日屋上にいるわけで、当然、さくら婆ぁが屋上にいない間に起こった事件も一部始終を目撃している。しかし彼らは人間語を発することができないので、重要な目撃証言をさくら婆ぁに伝えることはできない。彼らにできることといえば、さくら婆ぁを密かに応援することと、読者にその様子を伝えることだけ。これが少しもどかしい。
しかしこのもどかしさは、本作の「テーマ」でもある。全てがいつもすんなりいくわけではない――それが人生というもの。スタンドの主におさまっているさくら婆ぁにも過去がある。ヤクザ者に近い生業をする杜田にも過去があり、常連客の高校生にも悩みがある。人生にもどかしさは付き物――それを著者はこの作品で表そうとしたのではないだろうか。
ただし、ミステリとしては若干(どころではなく)強引な面が否めない。これも北森作品に総じて言えることなのだけれど、謎解きメインで読むのではなく、雰囲気を楽しむ作品であろう。
さて最後に巻末の「あとがき」について少しだけ。「あとがき」を担当したのは著者と親交のあった愛川晶。その冒頭が非常に面白いので引用したい。北森さんってそういう茶目っけのあるひとだったんだなぁ…と嬉しくなるエピソードだ。
(週に一度という高頻度で、酔っぱらいながら電話で話しをする北森さんと愛川さんの間柄を暴露したあとで…)
北森さんの話でおもしろいのは、何といっても体験談である。
(略)
長らく編集プロダクションで仕事をし、「風俗記事のライターから池波正太郎の担当編集者まで」(自称)、業界の裏側をすべて知り尽くした人物の話だから、おもしろくないはずがない。
ただし、夢中になって聞き入り、受話器を置いたあとで、「ほんまかいな」と首を傾げることも時々ある。
「編プロ時代にイラン・イラク戦争のレポートを書く仕事が入っちゃって、銃弾が飛び交う前線を這い回ってたんですよ。死ぬかと思いました」
本当かもしれないが、脚色の匂いがする。
「温泉へ行ったら、湯船にプカプカ死体が浮いていましてねえ。警察が来て、職業をきかれた時に『ミステリー作家』と答えたら、『できすぎだ。怪しい!』なんて言われちゃって。いやあ、まいりました」
これなどは、相当疑わしい。
「風俗記事を書くのなんて、いいっかげんでしたよ。店へ電話して、女の子に得意技とかきいて、適当にでっち上げるんです。実際に言ったことなんて、一度もなかったですねえ」
一度もなかった? これは絶対に、う……そんな失礼なことを、今をときめく売れっ子作家に言うわけにはいかない。でも、あの北森さんが、なあ……。