海北友松がたどり着いた世界
2021/09/03 08:49
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投稿者:ぐぅちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
月下渓流図屏風、海北友松の最晩年の最高傑作。
この1枚のために京都国立博物館まで足を運んだが、この作品の前に立ったとき
一瞬で心を奪われて立ちすくんでしまった。
ふんわりと包み込まれるようでいて、胸に迫ってくるなんとも心地よい風景。
本書で描かれる友松の生涯に渡る波乱に満ちた生き様。
フィクションながらさもありなんと思わせるストーリー。
今再びあの風景の前に立ったら、違った想いが込み上げるのかもしれない。
戦乱の世を生き抜いた絵師の姿が、巧みな文章で綴られている。
作者が早逝されたことが、つくづく惜しまれる。
武士のように生きた絵師の生きざまがすがすがしい
2020/10/11 15:51
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投稿者:KazT - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦国時代の絵師、海北友松の生涯を描いてます。
戦国大名、浅井家の家臣、海北家に生まれたものの次男ゆえに寺に入り、武士となる思いを断たれた友松は狩野派に学び絵師となります。ある事件で知り合った明智光秀の家臣、斎藤内蔵助や同じ寺にいる安国寺恵瓊と出会い、本能寺の変に大きく関わります。絵師として雲竜図を描き、その晩年には宮本武蔵に絵を教え、その生涯を閉じます。
武士にあこがれながら武士にならず、しかし武士以上に武士のように生きた絵師の生きざまがすがすがしく、良作です。
なお、本作は斎藤内蔵助の娘、春日局が友松の息子に友松の人生を語る形で描かれています。
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投稿者:雨読 - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦国の世に絵師として活躍した海北友松が主人公の作品です。
友松の息子である小谷忠左衛門は絵師として京都で暮らしていたが、ある日京都所司代から江戸に下るように命じられる。
父のことを余り知らなかったが、春日局からその生立ちや生き様を教えらこととなる。
春日局の語りで小説が構成されている。
語りには斎藤内蔵助、明智光秀、帰蝶、狩野永徳、安国寺恵瓊、宮本武蔵等との出会いや、友松の武人としての魂、絵師としての信念をも描いています。
著者葉室麟氏との生き様とも重なっているように感じました。
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投稿者:ムギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
夏に建仁寺の龍を見て感動した。表紙の龍に惹かれて、海北友松がどのようにしてあの龍を描いたのか興味を持ったため購入した。
武士として生きたい気持ちを抱えながら、絵師として生きる道も捨てきれないでいる友松。葛藤の末に、内に秘めた武士としての誇りが、あの強い龍を描かせたのだと感じた。
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投稿者:藤 - この投稿者のレビュー一覧を見る
絵師、海北友松が主人公の小説。
友松のことはこの本にて初めて知りました。
度々登場する、安国寺恵瓊などは知っていましたが…。
この本を読んで、なんとなく友松のことが好きになりました。
本能寺の変の描き方もなかなか新しく、面白かったです。
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以前、図書館で借りたのですが、ようやく文庫になったので購入して再読です。
海北友松の雲龍図が好きで、建仁寺に何度か行っておりますが、この本はさらに海北友松が好きになるきっかけの本。
歴史的にも戦国時代。
わかる登場人物との関わりが面白い。
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この本が上梓されてから10ヶ月後に亡くなられた葉室さん。
端正な語り口が好きです。
本作では明智光秀が好人物として描かれています。
2020年の大河ドラマがコロナウイルス対策の為中断しているなかで複数の視点から明智光秀と主人公、海北友松を考えるのも良いかも知れません。
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絵に邁進したというわけでもなく、絵師と僧と武士の道、迷いを抱えているうちに戦のあれこれに巻き込まれる友松。超・遅咲きで、ずっと流されるままに生きてきたのかと思うと興味深い。
敵方との折衝役として暗躍する僧・恵瓊の存在も面白い。こういう役回りの人がいたのか・・・。友松とのやりとりもいい。それぞれに譲らず、でも離れがたいふたり。
「そなたは外交僧を務めるようになって、ひとが悪くなったようだな――」
「――時には悪鬼羅刹の道も行かねばならぬのです」
「となると、地獄は必定だな」
「覚悟のうえでございます」
天下とりの戦を間近に見つめながら友松は、そこに美醜を思い、片方に気持ちを寄せる。でも、何かを変えられるわけではなくて、結果に流されるしかない。そんな諦念のような雰囲気がずっと漂っている。だからこそ、晩年に仕上げる絵の数々から、それまで溜め込んできた思いがあふれるのかも。
「たとえ、飢え死にしようとも、その道を歩みます」
という覚悟を見せるようになるまでの人生譚。
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絵師海北友松が主人公の小説だから美術小説かとの予測は、いい意味であっけなく覆った。
兄により仏門に入れさせられた友松が、武門に還俗することを願いながら絵の道を選択する。
その過程で出会う狩野永徳や安国寺恵瓊それに斎藤内蔵助との交流により、時代に深くかかわって行く。
世間から嘲られようと、人として美しくならねばとの思いで生きる友松の生き様を辿る歴史長編。
本能寺の変の黒幕等については古来諸説あるが、本書では、道三が信長に与えたという「美濃譲り状」をひとつの拠り所としている。
その偽書であることを証した、道三の娘で信長の正妻である帰蝶が”黒幕”との説。彼女が、信長を狩ることを、美濃衆の斎藤内蔵助に明かしたと。
あの宮本武蔵が、友松の弟子であったとの記述もあるが事実らしい。こういうことを知ることも歴史小説を読むことの楽しみのひとつと言えよう。
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海北友松の若年時代をメインに描いた作品。彼の名前と代表作の「山水図屏風」は知っていたが、彼が大器晩成型の画家だったこと、表紙の「雲龍図」は知らなかった。
澤田瞳子さんの解説にもある通り、本作は武士に戻りたくてたまらない友松が人生の目標に悩み続けた結果、絵に全てをかける思いに至る過程を描いていく叙情的な作品。数々との戦国武将との邂逅もあるが、明智光秀での出会いと別れには読む手に熱がこもった。裏切者として歴史から姿を消した明智だが、友松曰く「雲龍」となり、民を救うために立ちあがったとして出来上がった「雲龍図」を見て空でどう感じているのだろうか。斎藤利三の首を奪取した後は、細かい描写をスキップして第三者視座からその後の友松の活躍を描くという構成も好きだ。この歴史的大事件を経て友松は早くも悟りに達したのではないかと私は思う。画家として目指した「美しさ」。武士の散り際の美しさと変わらず美しいもの。そこから生み出された狩野派にも負けぬ数々の作品。静かに、しかし熱く、想いがこみあがってくるようだった。
また、冒頭と最後にある春日局と忠左衛門の会話で「父にとって、昔のことは夢幻のごときものだった」と語られるが、読者からもすぐ前に読んだ話なのに遠い昔の出来事に感じられるようで、内容もさることながらそう思わせる構成も流石の一言に尽きる。
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安土桃山時代の物語
実在の人物で建仁寺の「雲龍図」を描いた海北友松の生涯の物語。
その「雲龍図」は知っていましたが、作者のひととなりは知りませんでした。
これまた、どこまでが史実なのか分かりませんが、特に後半部分はワクワク楽しめました。
ストーリとしては、
武士の家に生まれながら仏門に入ることになった友松。しかし、実家・海北家は滅亡し。武士に戻りたくとも戻れず、葛藤を抱きつつ絵師として生きていくことに。
そこで、狩野永徳、安国寺恵瓊、斎藤利三、明智光秀達と出会い、この時代に大きくかかわっていくことになります。
とくに、後半、本能寺の変の裏側について描かれており、その内容は面白かったです。さらに、秀吉によって斬首された利三の首を奪取して葬ったところは、その友情の深さがわかります。
建仁寺の「雲龍図」に光秀と利三の二人の魂を留め置いたとしています。
実物見てみたい!
お勧めです
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2022.3.30完了
武将でない人の視点はおもしろい。
きっとこんな人もいたろうなと考えさせられる。
葉室氏らしい読み易さもあって’良い’。
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「遅咲き」ということになり、その生涯の活動に関して「作家の創造の翼」が羽ばたく余地が大いに在るかもしれない絵師、海北友松(かいほうゆうしょう)の生涯の物語だ。
本作の作者による小説作品に所縁の場所に関する紀行、他のエッセイや対談を纏めて一冊とした本を愉しく読了した経過が在ったのだが、その中で『墨龍賦』のこと、作中に登場する主要視点人物のモデルになっている海北友松に関することが在った。興味を覚え、本作を入手して読んでみたのだった。
人生の後半に至って現在に伝わる作品を遺した絵師である海北友松について、地方紙の記者等の仕事を経て比較的遅めに作家として登場することになった作者は「御自身を重ねる」というような思い入れを持って綴っているのかもしれないというようなことが、読んでいて滲むような気もした。自身、何事かを発表して遺すという程度のことをしているのでも何でもないのだが、健康上の課題が全く無いのでもなく、時代モノの主要人物のモデルになっている史上の人物が他界したような年代、場合によってそれを超えている年代なので、何か作者が御自身を重ねる、人生の終盤に名作を創り上げた芸術家の様に引き込まれた。
武家の出であって、体躯に恵まれて槍を得意としていたという他方で、画も美味かったという人物として本作の海北友松は現れる。戦国時代の色々な経過の裏側で、様々な「関り」が重ねられ、同時に「芸術家として高みを目指す」という何かも在る。人生の終盤というような時期に至って、現在に伝わる評価が高い作品を遺すことになる芸術家の生涯が、戦国時代が行き着く場所とそこへの道程と重ねられながら綴られる本作は酷く引き込まれた。
本作の作者による小説作品に所縁の場所に関する紀行、他のエッセイや対談を纏めて一冊とした本に出くわす以前に本作の文庫本が登場していたことに気付いてはいた。こんなに面白いなら、直ぐに読んでおいても善かった…本作は、残念ながら他界してしまった作者が生前に上梓された作品としては、多分最後という作品であるらしい。それが文庫化である…
動く時代の中、「或いは時代の主役?」ということと、行掛りで些かの距離を置きながら、「己の芸術」を結果的に追求し続けることになった男…そういう感の海北友松の物語は、何か名状し悪い「強く惹かれる何か」が在る。そういうモノに出くわすことが、こういう小説に親しむ慶びというモノであろう。
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2024/3/6 読了
安国寺恵瓊と海北友松の関係がめちゃいい。
互いにやることは理解し合えないけど、信用している感じ。