魚太郎さんのレビュー一覧
投稿者:魚太郎
資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか
2023/12/25 10:51
強欲な資本主義は人間の本性か
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「搾取」と収奪」。この言葉の意味と違いを理解するだけでも、この本を読む価値はあるだろう。資本主義は経済システムではなく、制度化された社会秩序であるという。その歴史は、重商資本主義、植民地型資本主義、国家管理型資本主義、そして金融資本主義へと変遷した。資本主義は、すべてを貪り食いつくす巨大な悪として成長し続けている。絶望している暇はないのだが…。21世紀の「社会主義」は登場できるのだろうか。
カルト権力 公安、軍事、宗教侵蝕の果てに
2023/03/29 09:10
権力の仮面を剥ぐ
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いまの日本の権力は、社会の病だ。私のような一般人が、新聞やテレビ報道から日ごろ漠然と思い感じていたことが、このように明確に文章化されると極めて鮮明になり、自らの理解と思考が刺激された。恥ずかしながら、例えば「重要土地規制法」も「経済安保推進法」もその実態についてはほとんど認識しておらず、教えられた。自分がぼんやりしすぎているのか、世捨て人になりすぎてしまったのか、目を覚ませと言われているようだ。
第三次世界大戦はもう始まっている
2023/01/23 12:06
何が一体どうなっているのか
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地球全体を俯瞰しての歴史的観点から、現在ウクライナで起きていることを客観的に理解すれば、このような内容になるのだろう。少なくとも、プーチンが悪者でウクライナが被害者だという短絡的な見方は戯画でしかないとわかる。背後にある者の思惑を知れば、これはたしかに「ウクライナ戦争」ではなく「第三次世界大戦」なのである。ならば日本はどう振舞い得るのか。頭の体操をしておくことは必要である。背後にあるものに煽られるようにして前線で血を流すウクライナが、日本と韓国に重なって見える。脅威の対象は「仮想敵国」であるとは限らない。
22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる
2022/12/16 12:24
斬新な発想から
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キーワードは「無意識民主主義」「無意識データ民主主義」。いま行われている選挙による民主主義は、確かに結果的矛盾を引きずり続けたままであり、全く正当なものとはなっていない。これに対しては諦めや絶望感を持っていたが、その先の行動、どうするべきかについては考えていなかった。言ってみれば年老いて、思考停止していた。著者の発想は若くて斬新である。目から鱗が落ちるように様々な問題に気付かされる。「選挙はアルゴリズムになり、政治家は猫になる」という副題は、決して冗談でも揶揄でもなく、なるほどそうなるなとこの本を読めば理解できる。政治、政治家、選挙民がすべて形骸化している現実を直視すれば、著者の理論は必然と思われる。
激動日本左翼史 学生運動と過激派1960−1972
2022/03/24 16:01
殺し合いに至るロマン主義?
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新左翼は、哲学・思想の面で優れたものを持っていたにもかかわらず、政治的には全く無意味な運動に終わったという。後世に残したものがない。内ゲバの陥穽に嵌り込み、互いに真剣に殺し合いまでして自滅した。そのエネルギーはいったい何に向かい、結局は何だったのだろうか。自分は1977年の大学入学だったが、当時は7~8年前の激しい学生運動の残渣すら見当たらず、自分も含めて周囲は無気力なノンポリ学生ばかりだった。そういえば、「安田講堂」や「あさま山荘」の映像をテレビで観て、「あんなふうになってはいけないね」と言われて育ったのだった。それにしても何故、哲学・思想的に優れた知性を持っていた彼らが、暴力革命が可能だと盲信して社会から逸脱して行くことになったのか。それは「ロマン主義だった」とのことだが、殺し合いを肯定するロマン主義というのはあるか。まだどうも、納得できない。
武器としての「資本論」
2022/02/07 09:52
人間の価値からの見直しと再出発の武器として
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資本制の延命のために新自由主義が唱えられたのは、20世紀末から21世紀初頭にかけてである。今立ち止まって振り返れば、これが実は巧妙な「上からの階級闘争」であり、気がついてみたら「下の」階級から利潤が上位へ簒奪されていた。下の階級はぼんやりしているうちに、階級闘争で敗北していたのである。それが現在の格差社会だ。所得税率の累進性がゆるゆるに緩和されたまま惰性に流れていたり、非正規雇用が拡大して労働分配率が下がっているのがよい例である。そしてなぜか、この状況が平穏なのだ。新自由主義の帰結に多くの人が馴らされてしまい、あたかも洗脳されたかのように声をあげない。魂が馴化されてしまったのだと著者は述べ、「人間の価値を信じ」て「意思よりももっと基礎的な感性に遡る必要がある」と言う。そこからもう一度始めるために、武器として「資本論」を使ってほしいという趣旨。本書はそのための入門書という位置づけだが、これから膨大な「資本論」に取り組んでみようとする人は多くはないかもしれない。しかしこの本が、暗黒の未来に向けた道標となることは間違いない。
2021/12/01 10:10
知の無知
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人は自分がいつかは必ず死ぬということを知りながら、それを忘れている(知らない)かのように日常を生きている。同様に、資本主義が必然的に死に至るということを知りながら、それを知らないかのようにふるまっている。地球環境が破壊されることが不可避と知りながら、能天気に快楽な生活を続けている。「知の無知」というそうだ。これが「知の知」となる時、真の新しいことの始まりとしての「今」となる。それが可能となるのは、「現在のわれわれが〈未来の他者〉の呼びかけに応じたとき、〈未来の他者〉と連帯したときである」と著者は言う。「現在のわれわれが〈未来の他者〉とともに闘うならば、そのたびに不可能だったことが少しずつ可能なこととして獲得されていくだろう。つまり「真に新しいこと」が実現されていく。その漸進的な歩みの先が、来るべきコミュニズム、新世紀のコミュニズムである。」と結ばれている。〈未来の他者〉に思いを馳せ、いまの自分を見つめること。その先にあるのは絶望ではなく、希望の灯であるのだ。
ベーシックインカムを活用して資本主義を脱構築すること、私的所有の領域からコモンズ(社会的共通資本)を取り戻す、サーバースペースをコモンズ(社会的共通資本)とすべきということなど、示唆に富む内容が多い。
ニュー・アソシエーショニスト宣言
2021/04/19 09:32
生き残る人類への道しるべ
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NAM(New Associationist Movement)は2000年に組織されたが、2002年に解散した。しかしその理念が途絶えているわけではない。本書はこれを検証し、あらためてその可能性を示すManifestである。資本と国家への対抗運動であるが、内在的闘争と超出的闘争を理解し知る人は、現実的にはほとんどいないだろう。人間の本来の性向に絡みついた資本主義は、容易に超克されるものではない。資本主義が制御しきれない地球温暖化や、フクシマ事故に象徴される人間が制御しきれない原子力によって、人類は破滅に向かうのは不可避の状況にある。そのようないま、NAMを唱えても一朝一夕に事態は改善しないだろうし、南無…という経文と変わらないと揶揄されるかもしれない。しかしNAMは確とした信念であり、遠い将来に実現されるべきところの道しるべ、道標なのである。人類社会が破綻し資本主義も消滅したときに、もし生き残っている人間たちがいるとしたら、彼らはNAMの理念で社会を再形成することができるだろう。
未来への大分岐 資本主義の終わりか、人間の終焉か?
2020/05/06 09:51
いま、大分岐の時代
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資本主義の繁栄とは、一部の富者(世界的観点からは多くの日本人を含む)の掠奪による幸福であった。人々の格差や地球環境の破壊という結末が、すでに現実化している。もはや資本主義の「回復」は解決策とはなりえない。これからの社会、ポスト資本主義の世界をどのように創造するのか。今がその「大分岐」の時代に既にあることを、我々はまだ自覚すらしていなかったと思う。すでに得ているものに固執せず、社会を土台から変えてつくり直す勇気が求められる。その行く先を示してくれるのが、哲学なのである。
2020/02/10 09:10
限界を認識したうえで
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リベラリズムには限界がある。従来からの社会的規範や功利主義など、事案によってはリベラリズムはその下位に位置するしかない。例えば所得の再分配を徹底せよとリベラリズムが訴えても、財源問題に口をつぐんでいたのでは説得力がない。そこに限界がある。リベラリズムと右翼が対立するという構図は、実は存在しないのだと教えてくれる。冷静で公平な思索が必要である。
2018/01/09 11:50
責任を取るのは誰か?
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素人にもわかりやすく書かれており、理解できる。この書の主張は正論であろうと思われる。だとすれば、安倍政権と黒田日銀の政策は、とんでもない誤った方向を向いているということになる。この責任は、いつ誰がとるのか。財政破綻や出口のない金融緩和で経済が危機に瀕する頃には、いま現在政策の中枢にいる人々は職を終えていることだろう。結局は、そのような政権を選挙のたびに大勝させた「国民」が、その尻拭いをするしかないのである。テクニカルな選挙手法にまんまと乗せられたという言い訳もあるだろうが、投票した結果責任は投票した側にある。そしてその「国民」たちはというと、自らの世代で責任を全うしようとはせずに、皆で暗黙の裡に問題を次世代へ先送りしている。目を覚まさなければならない。王様は裸だと叫ばねばならない。本書が多くの「国民」に読まれることを切に願う。
2017/04/03 11:50
実態を知るべし
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そういえば新聞の片隅で目にしたことのある「国家戦略特区」という言葉。その実態を知らないままでいたことを恥ずかしく思う。その「正体」をしっかり確認しなければならない。対米追従に端を発する国家戦略特区は、国家あるいは国民に対し、経済的利益をもたらすものではないこと。そればかりか、格差の拡大、人権の侵害、違憲性などの問題を持つものであること。政権の無責任体質、経済政策の明らかな誤りがあること。経済成長にこだわり続ける時代錯誤の政策の、行きつく先の悲劇がそこにある。この背景には、現政権担当者たちの自己保身願望があるのではないか。資本主義の限界を視野に入れ、人口が減少してゆく社会を見据え、調和を重んじた脱成長社会を展望することが、喫緊の課題なのである。
2017/01/23 12:22
少数派と自覚するが故の貴重な一冊
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アベノミクスをアホノミクスと呼ぶだけではいたたまれず、「どアホノミクス」と称することの正当性が、あまりにも正鵠を射ているがために、佐高があとがきで述べているように「私たちは少数派」である。この現実が、危機的である。反知性的かつ大衆誘導的な政治指導者は、国民が愚かであればあるほど国家を統治しやすい。その意味でこの本は、為政者には邪魔な存在である。だからこそ、貴重な本なのである。
2024/09/03 12:28
66歳になっての振り返り総括と次世代へのメッセージ
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オデッセイとはHomerの作と伝えられる大叙事詩。転じて「長期の放浪、長い冒険(の旅)、遍歴」という意味でつかわれる言葉だ。この本は山口二郎氏の、「民主主義」を目指した長い旅を回顧したものである。山口氏は1958年生まれで私と同い年。華やかに活動し始めた氏の30歳台が、1990年代前半であった。当時はリクルート事件や金丸事件など、政治腐敗が話題となり「政治改革」と称して選挙制度改革が行われていた。私の記憶では、少しは世の中も良い方向へ変わっていくのではないかという幻想を、抱かせてくれた時代でもあった。しかしこの本を2020年代の前半に、もの悲しい思いとともに読むことになる。社会民主主義的リベラルや、伝統的な左派、保守としての右派、それぞれの立場の賢明かつ聡明な識者たちが喧々諤々の議論をぶつけ合い、社会はどうあるべきかという夢を多くの人が抱いていたのではないだろうか。あれはいったい何だったのだろう。2024年の今、政治資金の裏金問題もあいまいなままに蓋をされ、いつまでたっても結局1990年と同じ状態のまま(あるいはそれ以下)ではないか。あの熱い議論は何だったのか、なぜそれが生かされなかったのか、なぜ全く同じ腐敗が繰り返され、そして何も変わらないように見えるのか。それでも地殻変動のような動きは確実にあるとの指摘に、絶望ばかりしてはいられない。
山口二郎のオデッセイは、目的地にたどり着いていない。66歳となって、まずは総括。このオデッセイは、次世代の人々へ向けてのメッセージとして、これからも生き続けるだろう。エピローグは必読。
宰相A
2024/02/27 09:37
作家の鋭い感覚
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ディストピア小説のようではあるが、これは現実だ。小説という手法ならではの、創作であるが。しかも作家の世界だけではなく、現状の日本そのものを描いている。アメリカ従属で事実上その属国と化し、国際的にもひたすらアメリカに従順にふるまい、まさに傀儡政権と言われて反論できないような政府を国民が選択している。宰相Aとは当時の現実の日本首相のイニシャルである。特筆すべきは、桐野夏生の『日没』よりも5年前にこの小説が書かれていたということである。