岩波文庫愛好家さんのレビュー一覧
投稿者:岩波文庫愛好家

苦しみのない人生はないが、幸せはすぐ隣にある
2021/10/30 16:13
人が「生きる」意味とは。
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本書の「はじめに」で、著者による詩が出てきます。回文ではありませんが、その詩を通読した後、今度は終行から逆読みして下さい、との指示があります。『世界が変わります。』と書かれていましたが、確かに驚きでした。
在宅医療という立場にいる著者が本書で最も訴えている内容は「傾聴」です。「聞く」ではなく、「聴く」です。「私が」相手の話に耳を傾けるのではなく、「相手が」話す内容に耳を傾ける訳です。相手は何かをして欲しいのではなく、寄り添って欲しいということ、この点をしっかりと捉える事がポイントだというものでした。
余命宣告を受けた人、生きている価値が無いと嘆く人、生きがいが無いという人、生きているいる感覚が無いという人。これらの人にも「生きる」意味がある、生きている間にやらなければならない事がある・・。それは、苦しんでいる人たちの伴走者になるという事。人としてこの世に生まれた以上、それ自体が意味を為していると、改めて痛感しました。

現代倫理学入門
2021/10/28 08:01
倫理学は決して偏屈な内容ではないという事
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
倫理学というと、道徳的、或るいは哲学的などと敬遠しがちなイメージが多少あるかもしれませんが、本書は見事にそれを払拭してくれる恰好の良書だと思います。
『人を助けるために嘘をつくことは許されるか』、『他人に迷惑をかけなければ何をしてもよいか』など、身近に考えられる15の投げ掛けがありますが、個々の章で投げ掛けに一答するのではなく、最後の15章で本書における結論が述べられてあり、構成もなかなかのものでした。

死を乗り越える名言ガイド 言葉は人生を変えうる力をもっている
2021/09/25 12:12
ここから何を強く意識するか。
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本書は、聖人・哲人・賢人・偉人・英雄・語り継がれてきた言葉、の章から構成されています。右ページに句言、左ページに本書の著者のコメントが記載されています。どれも死生観についての句言が記されていて、唸るものが多くあり噛み締める事が出来ました。
本書の良かった点は、紹介されている諸氏のうち、著書が有る氏についてはその著作品名が紹介されている点です。それらの著書を読んでみたいという念に駆られます。
こういった句言集というのは、読むタイミングによって自身の琴線に触れるその触れ方が違いますし、刺さる度合いも変わります。読了した今の私には和辻哲郎・アインシュタイン・中村天風・稲盛和夫、この4諸氏の句言が浸透しました。
句言集は句言集でしかありません。そこから自身が何を肝に銘じ、何を心掛け、何を意識するかの決意と行動があってこそ、句言を活かす事になる気がします。

HSCを守りたい
2021/09/20 17:29
胸の支えがなくなりました。
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次女はまさしくこれだ、とほぼ確信しました。心療内科からは敢えて命名するなら自閉症スペクトラムと言われていましたが、普段の様子や不登校前の要素からするとHSCの方の方が強いと思いました(勿論、自閉症スペクトラムの要素も当然あると思いますが)。また、長女も若干この気質があると思います。
本書が良かった点は以下の点です。
・HSCとはどのようなものか。
・親の具体的な対処方法。
・小学生を対象に本書が書かれている。(これが一番良かった)
・スクールの種類と内容紹介。
・相談窓口やコミュニティの紹介。
総じてこちらが知りたい、求めたい事柄について、痒い所に手が行き届いた本で、大変助かりましたし、ある種、安心感も得られました。

美人に見られたければ顔の「下半分」を鍛えなさい! 歯科医が教える整形級美顔術
2021/07/25 14:44
女性に限らず。
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顔の下半分というと、メイン箇所としては口元と顎のラインだと思います。口で言えば所謂「受け口」は今一つでしょうし、顎のラインは顎の中心下部がシャープにある程度尖っている方が良いでしょう。特にこの顎のラインは、判り易い例で言うなら、アニメで描かれる女の子の顎のラインです。
これらは男性にも当て嵌まります。美男美女は共通なポイントだと言えます。
本書は顔の下半分に焦点を置いた一書です。口にしても顎にしてもキーとなるのは「歯」と「筋肉」です。
沢山の顔の輪郭パターンが紹介されているので、パターンに近いものを選んで参考にしつつ顔の下半分をトレーニングし、美顔を目指して欲しいという思いを込めて妻に渡してみました。

パンドラの匣 改版
2021/07/04 19:13
正に書題に適った2作品
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読了後、先ず以て感じた第一の事柄として、これ程迄に適切な書題は無い、という事でした。夫々の作品の内容を一言で凝縮すると、『正義と微笑』『パンドラの匣』でピッタリ言い得ています。巷間に現代小説は数多あるこの時代、この2作品より入念に練られたタイトルは稀有なのでは、と思われる程に太宰の才能の凄さが伝わってきます。
『正義と微笑』はマタイ伝6章のイエスの言葉「微笑もて正義を為せ!」を指していると解説にあり、『パンドラの匣』は本文の「あけてはならぬ匣をあけたばかりに、病苦、悲哀、嫉妬、貪欲、(中略)の虫が這い出し、(中略)人間は永遠に不幸に悶えなければならなくなったが、しかし、その匣の隅に、けし粒ほどの小さい光る石が残っていて、その石に幽かに「希望」という字が書かれていた」に各々凝縮されている訳です。
『正義と微笑』については、本書に巻かれていた帯に惹かれたのが正直な吐露ですが、その帯にあった内容(代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ)の答えは高尚な表現ながら言い得て妙だと思います。
『パンドラの匣』については、『蔓は答えるだろう。「私はなんにも知りません。しかし、伸びて行く方向に陽が当たるようです。」』で締め括られており、思わず「冒頭の伏線が、その一文へ回収されるのか・・」と唸ってしまいました。『人間失格』を読んだ時も、作中の或る文章運びに唸らされましたが、今回も似たような経験を得ました。太宰の作品は『走れメロス』『お伽草紙』以外あまり好みではないのですが、叙述の仕方に感服させられました。

人生談義 下
2021/06/03 20:52
上巻に引き続き良い内容です。
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上巻に引き続き解り易く、平易で、納得して読み進める事が出来ます。
記憶したい内容が上巻よりも多くありました。
『リンゴには香りも味もなければならない。外形だけでは十分ではないのだ。したがって、人間であることを示すためには、鼻と目があるだけでは十分でなく、むしろ人間らしい考えがあってこそ十分なのだ。』
『なんぴとも他人の意志を支配することはできない。そして、善悪は意志の中だけにある。』
『明日に注意することがよいのであれば、今日注意すればどれほどよいだろうか。』
『若くして生を終えることになれば、神々を非難する。ところが、いよいよ死が近づいてくると、まだ生きることを望み、医者を迎えにやって、労を惜しまずに看護してくれるようにお願いするのだ。』
『足でも希望でも、可能な歩幅を知るべきである。』
『身体を癒すことよりも必要なことは、心を癒すことである。』
どれも言い得て妙味があります。

漢検1級分野別精選演習
2021/01/17 17:14
やっぱり、この本から始めます。
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準1級を取得してから、ある程度の月日が過ぎ、様々に逡巡しましたが、漸く購入に踏み切り、手掛けてみました。
準1とは比べるまでもない位にエグい漢字たちですが、繰り返しやっていき、モノにしていきます。勿論、これ一書というのはあり得ないので、他書も併用しますが、1級は問題集のバリエーションが極端に少ないんですよね・・。

前方後円墳の時代
2021/01/15 19:44
比類なき学問的な詳述書
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よくこれだけ詳述出来たものだ、と感心しきりです。偉そうぶったつもりではなく、これほど前方後円墳の興亡を詳述した本に出会えておらず、その事に深い欣喜の気持ちを呈したいです。
本書は弥生期の水稲耕作に始まり、集団首長の発生へと繋がり、住居の話などを経て墳墓についてへと至っていきます。やがて墳墓に関する記述が詳細に展開されていき、家父長制の氏族と大和大王政権との関わりを背景とした墳墓の規模や前方後円墳自体の衰滅へと至ります。
本書を一貫している要素として、膨大な資料です。これを基底として本書が成り立っています。ここが著者の計り知れない凄さだと思います。少ない過去の既存情報から如何に資料を探し出し、また更には発掘などを通じて懸命に解明しようとする真摯さ、これが読み手に伝播してきます。
なぜ墳墓があの様に興隆し、そして没落せざるを得なくなったのか? これが本書の壮大なテーマです。

死の壁
2020/08/26 22:29
死について考えさせられます。
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死についてかなり掘り下げて考えさせられました。それも様々な角度から論じられていて、どの内容も『ふーむ』と黙考するものばかりでした。死に対する考え方が広く且つ深くなりました。読後も余韻が残りました。

ビジネス実務法務検定試験一問一答エクスプレス2級 ビジ法 2020年度版
2020/08/17 19:31
範囲が網羅され、数多く問題をこなせます。
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公式問題集も手掛けましたが、とあるサイトで本書を知ったので、先ずはワンターンやってみました。数多くの問題をこなす事が出来て良かったです。問題は左のページにあり、解答と解説が右ページにあります。『こたえかくすシート』という厚手の紙シートが付属されているので重宝します。使い勝手の良い問題集です。

人生の短さについて 他2篇
2020/07/21 21:35
人生書として有用な一書です。
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本書はタイトルにある1篇と更に2篇が収められてあります。この3篇のうち、2篇目の『母ヘルウィアへのなぐさめ』は岩波文庫には収められていない作品です。岩波文庫の『生の短さについて』は積ん読状態なので近いうちに読了していきたいと思います。
さてタイトルにある1篇目の『人生の短さについて』はかなり有用な内容でした。閑暇の概念について本書で判り易く述べられてあったので、理解が深まりました。また3篇目の『心の安定について』の方がインパクトが大きく感じました。『だれかに起こることは、きみにも起こりうる』というフレーズにはグサリときました。

ニコマコス倫理学 上
2020/05/23 08:39
成程と納得出来る読み物
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
善、幸福、勇敢、中庸の大切さ、思量、節制、放埒、寛厚、矜持、正義、不正、宜しさ、知慮、智慧などについて、かなり解り易く述べられた一書です。個々の内容については相応に納得出来るものでしたので、読んでいて気持ち良かったです。特に中庸については、一々頷きたくなりました。
また訳註を読むと至る所にプラトンの『国家』が出て来ます。『国家』は以前から読んでみたいと思っていましたが、本書によって確たるものとなりました。

額田女王 改版
2020/03/29 10:19
二人の男に揺らぐ一人の女の数奇な人生
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
約600ページに及ぶ歴史巨編ですが、読み始めるとついつい引き込まれてしまいます。著者の筆致のなせる技だと思います。
大化の改新後から白村江の戦いを経て壬申の乱までの時代の中で中大兄皇子(後の天智天皇)と大海人皇子(後の天武天皇)との中で関わる額田女王が描かれています。参謀役としての中臣鎌足も非常に良い味を出しています。作中の至る所で歌詠みがあり、本書の花添えになっていて叙情感が横溢しています。
各キャラクターの推し量られる心理描写、更には自然描写の美しさとが縫合された歴史小説として読後余韻を大きく感じられるお薦めの一書です。

ガラスの地球を救え 二十一世紀の君たちへ
2020/03/21 09:04
こんな一書があったとは!
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
手塚治虫さんの作品は漫画で読むよりもテレビで見る事の方が圧倒的に多数を占めていました。また、幼少期に見ていた事が多かったので、本書に記述されていたようなテーマや洞察には当然ながら至りませんでした。
漫画を通じて何を訴えたいのかというメッセージ性が高く、今の時代の漫画と比較する突出していると感じます。
文体も話しかけてくる様なスタイルなのに、様々な四字熟語や英語のカタカナ表記があったりする点からすると、中学生後年から高校生位が読み手の対象かなという気がします。
本の厚みが薄く、文字も文庫本としてはかなり大きいのに、一日では読み切れませんでした。冒頭から最後迄かなり濃縮された内容でした。全く以て無駄がない一書でした。自然・科学・人間・生き方等、多岐に亘る内容について言及されていて、読み応えがあったのと同時に、色々と考え巡らせられました。貴重な本だと思います。