のぶさんのレビュー一覧
投稿者:のぶ
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望月の烏
2024/04/20 14:24
平安時代を振り返りたくなる
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『望月の烏』読了。
八咫烏シリーズ第2部も、もう満ち時。楽園で新しい扉が開かれてから、現実の世界線がちっとも進まなかったのは、作品の都合上仕方ない。『追憶~』で奈月彦の死の前後を描き、『~緑羽』で長束彦と路近の関係と二人の関係を作り上げた側近たちの姿をのぞかせた。そのたびに触れられる紫紺の髪を持った美女の存在。試験を受けて招陽宮に現れた女官がどのような魂胆で中枢に近づいたのか。雪斎公を助けとなりたい一心で、という彼女の本意は何か。彼女の存在を知り、形だけの金烏となった幼き凪彦がとる行動は。
2作目、3作目で含みを帯びていた雪斎を脅かすであろう女性。彼女視点になることはないが、明らかに彼女を取り巻いて進んでいく山内の新しい時代。桜花宮に四姫がそろい、雪斎の目論見のもとで進んでいく状況を例えての『望月』。明らかに藤原道長。舞台の参考にしたであろう平安時代の安寧をきれいに踏襲していて、期待通りの描写をしてくれたことにまず感謝。このハシゴを外さないでいてくれたのはありがたい。もし反対の描写があったとしたら、それはそれで面白いかもしれないが、史実に近しいことが小説の中で起きているからこその面白みというものがある。シリーズの度合い一部が始まった当初から期待していた流れでもあるので、振り返ってみれば長かったと思わざるを得ない。そして結びの雪斎のセリフよ!満ちているからこそ。完全に近いからこその未来への憂慮。これから先に起こることがどんなものになるか。悪いことことしか起きないに決まっているじゃない!思わず鼻で笑ってしまいそうになる展開からの、時系列開示。これでまだ『楽園~』よりも前の話なのだから頭を抱える。いったいいつになったら現実世界線に戻ってきてくれるのか。でも心のどこかで安心している私がいる。「きっと次こそ現実の先が語られる」そんな根拠のない確信があるからだ。
シリーズ刊行からすでに10年近く。第一部では1~4作目は普通に時系列通りに進み、5作目で突然過去の話が開示され、一気に現実と結び合った。そして第二部の1~4作目は前の時系列の語りが多い。第一部と対になっていると考えれば自ずと……。
次の発売はは早くて今年の秋。少しずれていることを考えると来年の冬以降だろう。私の脳内の山内が崩壊に進む前に、次の物語で山内の復興が語られるのを期待してもいいでしょうか?山内が復興するなんてことはないのかもしれないけれど。
レーエンデ国物語 2 月と太陽
2024/04/20 14:59
二度目の革命には覚悟がいる
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『レーエンデ国物語 2 月と太陽』読了。
「革命の話をしよう」この言葉で始まるだけでわああってなる。心が沸き立つというか、粟立つというか。幼稚園のお遊戯会が始まる瞬間の親のような気持ちになる。うまく事が進むかどうかという不安よりも、いったいどうなってしまうのだろうかと知りたくないけど知りたい、みたいな追い求めるような気持ち。腕をさすって落ち着かせようにも、心が落ち着いてくれない。でもこの目で確と見届けなくてはならないという責任感。1作目を読み終え、2作目を手に取った瞬間、決して手放してはいけない重石を受け取ったような、そんな気持ちになったのを覚えている。『月と太陽』で新たなるレーエンデに自由の旗を掲げた2人の主人公は、対の存在でありながら輝くような魅力と生き様を見せてくれた。でもその人生は悲しみに満ちていて、最期まで輝かしかったかと言われればとても難しい。レーエンデ人を従えるイジョルニ人の支配層に生まれながら、内紛により家を追われ、レーエンデ人に囲まれて育ったルチアーノ。彼を受け入れた村で姉のように彼を支え、彼を導く存在として輝いていたテッサ。1作目は国籍から違う身分差だったが、今作は形式上の奴隷階級と支配階級の身分差が根底にある。その構造は表に出ることはなくても、それぞれが互いを思いやった結果として、随所に描かれていた。だからテッサはルーチェとの結婚を強く望まなかったし、ルーチェはアルトベリ城を攻略するためにエンゲ山を訪れたのだ。
レーエンデの自由はあと一歩のところまで進んだ。本当にあと少しだったんだと思う。物語が進むたびにここに新たな国が、自由と尊厳が守られた国が拓かれると途中まで信じていた。しかし読者側の幻想は、テッサの信念とともに折られる。テッサがどれだけ血に染まっても、レーエンデ人のすべてが彼女と同じ思いを持っているわけではない。強い信念のもとに集うのが同じ信念だとは限らない。レーエンデ義勇軍は軍隊ではなく、個人が集まっただけの群体だったというだけのこと。温度の上がったレーエンデ地方が、一気に冷えていくのを見た。その事態を引き起こしたのが、ルーチェの兄で最初の法皇帝となったエドアルドだというのがまた救いがない。決定的な亀裂が生じるに決まっている展開は、読み手の心も引き裂くようだ。
そしてレーエンデの太陽は沈む。手にかかったはずの自由はレーニエ湖の水平線に掲げられ、時が経つのを待つだけになった。ここを読んでいるときの心の葛藤は読んだ人にしかわかりえないと思う。ぜひ読んでほしい。怒涛の勢いのようにレーエンデを走り抜けた後、最後のページまで正気を保っていられる人は何人いるのか。美麗な表紙をじっと見つめて、しばし時間を置いてみてほしい。そして覚悟が決まったときに本を開いてほしい。革命はそこから始まるんだ。
レーエンデ国物語 3 喝采か沈黙か
2024/04/20 15:39
心からの喝采を
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『レーエンデ国物語 3 喝采か沈黙か』読了。
「革命の話をしよう」……のわりに今回は革命要素が少なかった気がするのは気のせいだろうか。
レーエンデ地方を取り巻く新たな空気。アルベルトの後に即位した冷徹な法皇帝ルチアーノの治世は安定し、法皇庁のお膝元であるレーエンデも例外なく文化の花開く地となった。人々が求めるままに都会は熟れ、享楽と愉悦に満ちた時代がやってきた。そんな時勢の歓楽街に生まれた双子、アーロウとリーアン。戯曲の才に恵まれ、高名な演出家にも目を付けられるほどに神に愛された兄リーアン。早々に家族から離れて暮らし始めた彼に置いていかれ、数々の苦難を乗り越えながら甘い仮面をかぶって生きる凡人の弟アーロウ。2人の対比によって進む物語は、どこか計画的で、まるで一つの物語を読み聞かせられているようだった。いや、物語読んでるんだから当たり前なのだけど。
面白くなかったわけではないのです。表現が難しいのだけど、これまで以上に一人の人間の「人生」が頭に流れているようだった。それは間に挟まれた戯曲公演の描写のせいかもしれない。才能あふれるリーアンに憧憬と嫉妬を感じているアーロウに同情したからかもしれない。あえて一つの言葉でまとめるとしたら「読みごたえがあった」になるだろうか。
地方劇団の裏で行われる細々とした革命活動。それは本当にわずかな情報のみ受け継がれ、半ば忘れられた英雄の意志をよみがえらせるためのもの。一つのきっかけで2人は一大傑作を作るための旅に出て、法皇の目を盗んでくすぶる小さな革命の灯に瞠目する。その旅路を読んでいる間に呼び起こされるテッサ・ダールという女の子の一生。涙せずには読めません……。どんだけ泣かせに来るんですかねレーエンデの人たちは。それを知ったアーロウとリーアンの反応が非常に心に残っています。アーロウは初めて知る事実に驚き、英雄の旅路に胸を打たれ、必ず意志を継ごうと決心する。一方のリーアンは、リーアンだけが感じるレーエンデという土地の呪い、彼に授けられた神の愛という名の呪いに懊悩する。双子でありながら距離ができてしまった2人の対比が効果的。寄り添ってほしいのにままならない愛。捜索の世界でよくある形ながら、こんなに新鮮に感じるのはとても不思議。ある意味革命的かもしれない。
読書を通じた感想が個人個人で全く異なることはわかっているのだけど、今作を読んでの感想は個人的にとても新しいものに思えました。ここまでが神の仕込みでないのだとしたら、作者による読書体験の革命を疑ってしまう。かなりメタな感想ですけども。
読み終えてみれば、幕間の戯曲公演のシーンも伏線になっていたとわかる終幕。そしてこの終幕の描写こそが今回の革命だとわかる展開。ちゃんと革命の灯はあったのです。また一人、人生を賭した若者の生き様に喝采を。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘III」
2023/02/26 17:46
楽園はあった
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洗礼式のシーンが面白かったです。どう見てもグリコ。どう読んでもグリコ。多分その場にいたら同じようにお腹かかえて笑ってた。真面目に祈る大人たちのグリコに。
そして遂に見つけた楽園、図書室に入るため暴走するマイン。家族の反対を押し切ってつき進む彼女の姿は、間違いなくルッツにいい影響を与えてますね。商人ではなく巫女見習いいになると決めたマインはどうなるんでしょう?お祈りはちゃんとできるのか?
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘II」
2023/02/26 17:37
いざ、紙作り!
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幼馴染のルッツと共に紙作りに励むマイン。虚弱な体にムチ打って紙作りに必要なものを考えながら、前世の記憶を使っていいものを作ろうと頑張ってるのが可愛いですね。
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第一部「兵士の娘I」
2023/02/26 17:30
本好きのためのラノベ
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年示のまとめ買いセールで思い切って購入。久しぶりにラノベっぽい文体で、分かりやすくサクサク読める。テンポがいいので早くも次巻に突入してました。本好きの全ての人にオススメです!
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