タッカー & ブラックベリー 〜イノベーターと夢と曲者と

ストーリー:プレストン・タッカー(ジェフ・ブリッジス)は第二次対戦中、軍用車を開発していたエンジニアだ。彼には夢があった。ビッグスリーが販売しているような安全性にも問題がある古臭い車じゃない、未来の車を作って売るのだ。パートナーを得てプロジェクトは強引とも言える勢いで進んでいく。でもライバル企業や紐付きの政治家たちが......

1988年公開、監督フランシス・フォード・コッポラ。実在の名車とその開発者の物語を華やかに描いたハッピーな映画だ。タッカー48モデル(トーピード)は1948年に製造・販売。とはいっても51台しか作られなかった。シートベルトやハンドル追従式のライト、安全性に配慮したフロントガラスの採用など、とにかく先進的な車だったらしい。ビッグスリーのモデルにも長くて低いファストバック型はあったけれど、見た目もいかにも新鮮だ。

映画の中のタッカー氏は明るくて楽天的でカリスマがあって、いかにもベンチャーの創業者風だ。そして切れやすい。唐突に切れて備品を壊したりしている。じっさいはかなり空手形風に資金を集めたりもしていたらしいし、それで政治家の罠にはまって詐欺罪の被疑者にもなってしまうけれど、家族全員に愛されてサポートされて、真っ直ぐに夢を追う愛すべき人として描かれている。

お話は後半法廷劇になる。タッカーは被告人として巨大自動車産業と立ち向かわなければいけないのだ。ただその辺りも法廷や陪審員である「良識あるアメリカ人」への信頼が見えるポジティブな描き方だ。『シカゴ7裁判』みたいにクラシックで威厳ある場所として法廷を描く。

映像も描き方もあえてのクラシックなもの。曲面が美しいタッカーの実車を何十台も撮影用に集結させて、その写り込みを優雅に撮る。劇伴は1980年代にはイギリスでニューウェーブの一派に入っていたジョー・ジャクソンがビッグバンドジャズ調のきらきらしたサウンドを聞かせる。不穏な曲なんてなく、これも自然と楽天的な気分になるだろう。

後半で何十台ものタッカーがシカゴの市内をパレードみたいに走るシーンがある。よく撮ったなあとも思うし、何十年も保管していた車を貸し出したオーナーたちにも素敵な思い出になっただろう。車のパレードと楽天的な音楽、タチの『プレイタイム』みたいだ。描きようによっては苦い挫折の物語にもなる本作を前向きで夢がある、主人公が愛される映画に仕上げたのは昔からタッカーにシンパシーがあったコッポラの思いだったんだろう。亡き息子に捧げられている。

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(c)Paramount pictures via imdb


🔹ブラックベリー

ストーリー:カナダ、トロントに近い街、ウォータールー。マイクとダグは幼馴染で2人ともハイテク系エンジニアだ。新しいデバイスのアイディアはあるけれど商売はまるで下手。そこに根っからのビジネスマン、ジムがチャンスを求めて乗り込んでくる。ジムに強引に引っ張られてビジネスは大成功し、スマートフォンの元祖、ブラックベリーは爆発的に売れる。けれど2007年、衝撃的な新製品が発表される......

衝撃的な新製品。もちろんiPhoneのことですね。物語のモデル、実在のマイクはこの発表を自宅でエアロバイクを漕ぎながら見ていて衝撃を受け、レベルが違うと感じたらしい。でもブラックベリーの売り上げは2011年に最大になっているし、2009ー2010年頃にスマートフォン世界シェアも40%超になっていたのだ。すぐに逆転があったわけじゃないんだね。まあそれでも今は誰でも知ってるとおり。会社はしっかり生き残っているけれど、ブラックベリーのスマフォは消えてしまった。

・・・という短い間のアップダウンを描いた2023年のカナダ映画だ。監督も、俳優も1人を除いて知らなかった作品だけど面白い。ものすごくシンプルな栄枯盛衰の物語で、「なんでもない奴ら」が成功者になっていき、だけど現実に押しつぶされ...的な話を快調なリズムで語っていく。

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(c) Elevation Pictures. via amazon

主役の3人のキャラクターの描き分けも実に分かりやすく、気弱な技術者マイクは本当におどおどしてはっきりものが言えないし、ダグはナードそのものの格好で好きな映画の話ばかり、ジムはすべてが上からの物言いでしかも切れやすくかつ強引だ。実物のジムは「95%創作だ」と言っているそうだけど、決して映画のキャラが嫌いじゃないようだ。

他の2人もそれなりにカリカチュアライズされてるんだろう。『ショーン・オブ・ザ・デッド』のサイモン・ペッグニック・フロストみたいなのだ。ちなみにマイクの実物は映画みたいな弱々しいタイプでもない、ギリシャ系トルコ移民の人だ。映画だと最後は『フェラーリ』のアダム・ドライバーみたいな雰囲気になっていく。素朴なナード魂を最後まで失わなず、ビジネスマン化するマイクと距離ができるダグには、しめにほっとするエピソードが用意される。

ぱっとしない若者が成功したビジネスマンに変わっていく感じ、テック系でいえば『ソーシャルネットワーク』か。あと『ウルフオブウォール・ストリート』も雰囲気は似てる。もっとぴったりくるのがありそうなんだけどなぁ。思い出せない。

話自体はだいぶ単純化しているんじゃないかという気もする。ブラックベリーの凋落は、まずはiPhoneというゲームチェンジャーが現れてしまったこと、それでも従来型(物理キーボード付きモバイル)に固執したこと、それとジムが強引すぎたこと、という感じに受け取れる。

マイクたちの会社では毎週金曜にみんなで映画を見るイベントがあった。『レイダース』とか『ゼイリブ』とかだ。ダグのセリフのネタになるのは『スターウォーズ』や『DUNE』(リンチの奴だろう)。好きなんだろうなあ、こういうのが。あと鬼軍曹的上司の役でマイケル・アイアンサイドが出てくる。『スキャナーズ』で頭を吹っ飛ばす超能力者役で大活躍した彼だ。

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