「あなたは誰」に答えられますか?〜61歳の元専業主婦が語る、SNS時代の「セルフブランディング」
専業主婦の期間を経て、52歳からキャリアを再開した薄井シンシアさん。自分の「軸」を持ってキャリアを築き上げる極意をリンクトイン編集部に語った。 Photo: Shusuke Murai

「あなたは誰」に答えられますか?〜61歳の元専業主婦が語る、SNS時代の「セルフブランディング」

「あなたは誰ですか?」――。もし初めて会う相手にそう聞かれたら、あなたは何と答えるだろうか。

「その問いの答えを得るには、常にセルフリフレクション(内省)をすることが大切です。」そう語るのは、薄井シンシアさんだ。

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「日々自分が置かれている『当たり前』から一歩離れて、あえて居心地の悪い所に出てみる。そのようにして自分と対話する機会がなければ、人ってなかなか『自分が誰か?』に答えることは出来ないんです。」(シンシアさん)

シンシアさんがそう語る背景には、自身が「元専業主婦」「シニア人材」「マイノリティ」といった状況を自身の「ブランド」と捉え、それを活かしながらキャリアを築いてきた経験がある。

専業主婦として17年間を家族と過ごした後、52歳で時給1300円の電話受付パートから仕事に本格復帰したシンシアさん。その後外資系ホテルの営業開発担当副支配人やラグジュアリーホテルのディレクターなどを経験した後、61歳の現在ではアメリカ商工会議所(ACCJ)・観光産業委員会の委員長として観光事業を推進。同時に、専業主婦のコミュニティ「First Step」を立ち上げ、女性のキャリア再開支援に積極的に取り組んでいる。

今年7月には、著書「ハーバード、イェール、プリンストン大学に合格した娘は、どう育てられたか」(KADOKAWA)を出版。17年間の子育ての経験から、自分の軸を持って物事を判断し、合理的に考えて生き抜く力=「自力」が身につく人の育て方について記している。

「セルフリフレクションって、突き詰めれば、自分が伝えたいメッセージは何か、自分のバリューは何か、を考えること。自分は何者なのか?人からはどう見られているのか?それを知った上で、自分の軸でやるかやらないかを決める。キャリアの舵取りって、そういう事だと思っています。」(シンシアさん)

最近ではリンクトイン・インフルエンサーとしてSNSを積極的に活用し、他のユーザーとも交流しながら自分の言葉でメッセージを発信し続けているシンシアさん。そんな彼女が考える「自分を軸にしたキャリア」の築き方とは何か?実際に聞いてみた。


自分のキャリアに「ハッシュタグ」を

――シンシアさんが普段セルフブランディングを考える時、何を意識してやっているのでしょうか?

私は、「自分のハッシュタグってなんだろう?」ということを常に考えています。ソーシャルメディアでは自分が投稿するメッセージにハッシュタグをつけて自分の伝えたいことを見つけてもらいやすくしますが、それを自分自身のキャリアについて行うイメージです。

例えば、私であれば5つのハッシュタグがあると思っています。1つ目が、元専業主婦の #女性 であるということ。2つ目は、今年61歳の #シニア であるということ。3つ目は、 #人生100年時代 で、仮にこの先80歳まで生きるのだとすると、私にはあと19年、つまり子どもを一人育てられるぐらいの時間が残っている。それに今アドバイザーとして取り組んでいる #観光 と、元々日本国籍ではなかったということで #外国人。この5つが私を今作っているハッシュタグです。

ハッシュタグがあるということは、すなわち「自分のメッセージや、自分の価値は何か」が一言で説明できる、ということ。そのためには、セルフリフレクションが欠かせません。そして、ハッシュタグは年齢や自分の置かれた立場とともに変わっていく。30代の時に大事だと思ったものが、60代になると全く大事じゃなかったりしますからね。「自分って誰だろう?」ということを自分自身に聞きながら、常に自分を編集し続けていかないといけない。

自分のハッシュタグ理解した上で、それに沿ったストーリーをメッセージとして発信し続ける。それが私が考える今の時代のセルフブランディングだと思っています。


「自分は誰?」に終わりはない

――確かに「あなたは誰?」と聞かれた時、すぐ明確に答えられる人は少ないように思います。自分の「ハッシュタグ」は、どうやって見つければ良いんでしょうか?

「自分が誰?」に答えられないということは、その人はまだクライシス(危機的状況)に直面していない、という事ではないかと思います

私の場合、「自分は誰?」を真剣に考えるようになったきっかけは、日本社会においてマイノリティであったことと、子育ての経験でした。

まず、私は日本では外国人だった(現在は日本国籍)ので、国際結婚をした時に「自分が社会に適応して、一生懸命日本人にならなければ」と考えました。その中で、「自分は何者なのだろう」を真剣に考えました。

その後、子どもが生まれて、「どう育てれば良いのか」を考えました。言語一つ取っても、私は日本語、英語、(中国の)福建語、タガログ語を話します。では、子どもにはどの言語を教えながら育てれば良いのか。「日本にいるし、パスポートも日本だから、日本語をメインにしなければ日本では生きていけない…」そのようなことを考える中で、改めて私自身が「何を選んで生きて行くのか」を考えることになりました。

「自分が正しいと思うことは何か」「自分にとって何が大事なのか。最低限何をどこまで許せるのか」…。今はこの答えを軸に持っているからこそ、私は素早く決断して動くことができるのだと思っています。

ただ、多くの人がそのようなクライシスを経験するわけではない。特に日本では終身雇用や年功序列といった仕組みの中で、一度会社に入るとなかなか自分を振り返る機会がなくなってしまう。

人間って、ずっと同じことを長いことやっていると、それをやることの「意味」について考えなくなってしまうんです。安定した環境の中で安心しきってしまっていると、自分が「当たり前」だと思うことに対して疑いの目を向けられなくなるんですよね。

もちろん、終身雇用があるからこそ社会が安定し、社員も安心して会社のために良い仕事ができるという側面もあります。しかし蓋を開けてみれば、終身雇用があるからと安心しきってしまっていて、年功序列で何も失敗をしなければ自動的にステップアップできる。その中で、結局リスクを取らず守りに入ってしまう。そんな人が多くいるのもまた事実です。

特に最近はグローバル化の波もあり、日本型雇用システムの見直しが急速に進んでいます。そうなると、「自分は何をすればいいんだろう?」と迷う人が多く出てきてしまう。今後は、「私は誰で、人からはどう見られているのか」を理解した上で、「私は何をやるべきか」を自分に聞いて決めなければならない。そうした「舵取り」が一層大切になっていくのです。


肩書きはあくまで「手段」

――「あなたは誰?」と聞かれた時、多くの人は自分が所属する会社名や肩書きを答えると思います。「私の仕事は◯◯社の部長です」なんて笑い話もありますが、今後は所属や肩書きは意味をなさない時代になるのでしょうか?

この先、肩書きが全く意味がなくなる訳ではないと思います。ただ、自分自身が肩書きに支配されるか、あるいは自分が達成したい目的のために肩書きを利用するか。この2つには大きな違いがあると思っています。

多くの人は、ある程度偉くなって地位や肩書きを得ると、その地位をとにかく守らなきゃ、という考えになってしまう。まず、自分がいかにして組織内の重要な地位に就くか。それを目指し10年、20年かけてようやく重要なポジションについたら、今度はとにかくこの地位を守りたい、となってしまう。守りに入ると、当然リスクを取れなくなり挑戦を辞めてしまいます。

これは女性活躍にも言えることで、例えば「女性の社会進出」と言った場合、「いかに企業のトップに女性が就くか」に焦点があたる。しかしいったん重要な地位に就くと、今度はこの地位をとにかく守らなければならない、となる。こうして、女性リーダーであってもキャリアが長い人たちの多くは守りに入ってしまいます。このような考えに陥ってしまうのは、結局「肩書き」そのものが目的になってしまっているからなのです。

一方、私が肩書きを得る理由は、自分の中で「(専業主婦などの)蚊帳の外にいる人たちに対し、仕事に復帰できる機会を作りたい」という目的があったからです。肩書きをあくまでセルフブランディングの「手段」として捉え、肩書きに自分が左右されるのではなく、その肩書きの上に自分自身のメッセージを発信する。この違いが大きいと思っています。

例えば私が東京2020オリンピック大会トップパートナーのホスピタリティ担当や、在日米国商工会議所・観光産業委員会の委員長として観光に力を入れるのも、「観光業界は今すごく伸びているビジネスだからこそ、新たな仕事が生まれ、女性にとっても新たな雇用のチャンスがある」と考えているからです。伸びている業界で人材も不足しているので、一度入れば昇進も早い。このように、全ては「自分にとって何が大事なのか」につながっているんです。

不思議なことに、「肩書きは手段」だと考えると、いつでも「ポイッ」と簡単に手放せちゃうものです。特に私の場合、つい(キャリアを再開した)9年前までは時給1300円で働くパートだったわけですから。頭の中には「今全部ほおり投げたとしても、0からまたスタートできる」という自信がある。だから肩書きに縛られず、目的のためにリスクを取ることもできるわけです。

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SNS時代の「セルフブランディング」とは

――シンシアさんは、リンクトインなどのSNSをセルフブランディングのツールとして積極的に有効活用されています。その際、何か特に意識していることなどはありますか?

自分の「ハッシュタグ」を理解した上で、それに沿ったストーリーを自分の言葉で発信し続けることが大事だと思っています。

SNSを見ていて残念なのは、多くの人が自分の「宣伝ツール」として使っていることです。先ほどの「肩書き」と似ているのですが、自分の営利や会社のことばかりを書いていて、その人自身の人柄やメッセージが見えない。これは、本当にもったいないと思います。

こうした投稿をする人達は、メッセージの「受け手」としての視点が欠けているんですよね。「お金を払って発信する」という、旧来の広告の発想から抜け出せないのだと思います。

もし、その人の会社について知りたいと思ったら、会社のウェブサイトに行けば良いだけの話。受け手目線で考えれば、もし全ての投稿が自社の広告ばかりだったら、そんな人とはつながりたいと思わないですよね。あるいはネットワーキングで知り合って、二言目には自社のプロダクトを「使ってくれ」と来たら、私だったらその時点で「さようなら」となります。

大事なのは「お金を払わなくても、人が動いてくれるかどうか。本当の価値を感じてもらえるかどうか」だと思っています。そのためには、「この人のために役に立つことって何なのか?」を常に考えること。これは私がホテルの営業担当だった時と同じで、自分の売っているものに自信があるから、そのストーリーを自分の言葉で語れる。それができて、初めて他の人に自分のメッセージが届くようになるんです。

自分自身の「ハッシュタグ」は何かを決めて、それに沿った内容の記事を投稿しつづける。「なんでそのテーマが大事なのか」や、そのテーマにまつわる有益な情報を共有しながら自分なりのストーリーを発信し続けると、徐々に「この人は◯◯の人なんだ」と定着していく。

私自身、一時期リンクトインでも日本の観光の情報ばかりを発信していたことで、「この人は観光の人なんだ」と認識されて、海外から日本の観光事情を知りたいとコンタクトされた事がありました。そこで私の名前に「観光」としてのイメージが定着したと考えて、今度は女性の復職についての情報を発信し始めるようになりました。

大事なのは「受け手が求めているように、メッセージを作る」ということで、それがSNSの醍醐味でもあります。定型文だと、人には響かない。その視点があることで、自然とネットワークが広がって、新たな機会に繋がっていくのです。


変化を生む鍵は「多様性」

――変化の激しい現代において、多くの人が「現状を変えなければ」と危機感を持っていると思います。それでも、なかなか変わることができない。シンシアさんは、変化の一歩を踏み出すカギは何だと思いますか?

確かに、「変わらなきゃいけないけど、変わり方がわからない」という声は良く聞きます。これを打破するには、当たり前の環境から飛び出してあえて居心地の悪いところに行くことが必要で、私は多様性がそのカギになると考えています。

組織の中に異質な存在が入ると、今まで「当たり前」だと思っていたものの意義をもう一度考え直すきっかけが生まれます。例えば私がホテルに勤めていた時、当時の上司は私の席を半年ごとにあえて変えていました。私は、業務の中での疑問を周りの人に「なんで?」と投げかけました。そうすると、昔から同じ会社で勤めていた社員たちも、自分たちが当たり前にやっていたことについて「何故だろう?」と考える機会が生まれたのです。

同じ会社で何十年も同じ事をやっている者同士だと、なんとなくお互いがわかりきったような感じになってしまう。そこに元専業主婦で外国出身という異質な存在の私が入ることで、それが周りにとっての違和感になる。その違和感が生じることで、初めて自分たちが「当たり前」だと思った事を考え直すきっかけになるんですよね。

同じような人が集まって交流を深めたとしても、そこにもはや新しいアイデアは生まれない。だから、多様性が大切なんです。

確かに何かを変える時って衝突も起こりますし、ものすごくエネルギーがかかります。でも、それを嫌って変わろうとしないのは諦めです。今の時代、変化の波は向こうから勝手にやってきます。自分を変えなければいけないんだけれど、変わり方が分からない。そんな時は、自分たちが長年やってきた「当たり前」の環境から飛び出して、自分にとって本当に大切なものが何かを考え抜く。その軸を基準に情報を発信し続けることが、今の時代のセルフブランディングなのだと思います。

シンシアさんが語った「SNS時代のセルフブランディング」。あなたが考える自分の「ハッシュタグ」は何ですか?↓↓コメント欄↓↓でお聞かせ下さい。

――聞き手、写真は 村井 秀輔

Aya Yamanouchi

People & Culture Senior Manager at LVMH Japan / Creative Learning designer & Entertaining Facilitator / Career consultant/ NLP trainer associate

3年前

セルフブランディング、興味深い記事。 薄井シンシア Cynthia Usui さんのように、自分らしさ、自分の生き方を表すハッシュタグを考え中。。。まだまだクリアじゃないなー。変化しそうです。 #プランドハプンスタンスなキャリア #トリリンガルファシリテーター #ラグジュアリー業界にエンタメを #日仏子なしカップル #保護犬を家族に

広川 周一

つながり歓迎★上場企業500社以上で組織変革を支援★㈱アバージェンス 副社長★企業ビジョン実現に向けた組織変革と事業成果創出!がライフワーク★LinkedInでは多くのジャンルの方々と交流したいです★Give&Takeの好循環を創りたい!★時々YouTube配信します(CRHで検索)

3年前

村井 秀輔さん、薄井シンシア Cynthia Usuiさん、とても興味深く拝読しました。自分のハッシュタグ。しかも利他で利己を包み込むような…。自分のブランディング、じっくり考えてみます。ありがとうございます。

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Wakana Fukuda

Passionate Entrepreneurship Advocate | CEO & Founder at IKIRU LLC | Empowering Tomorrow's Innovators 小中高生向けアントレプレナーシップ教育の提供/ 専業主婦歴14年/ 専業主婦期間の可視化

4年前

Shusuke Muraiさん、読み応えのある記事をありがとうございます。自分を#セルフブランディング は人生を豊にするために増やしたいと考えていたものの、キャリアにフォーカスしていた訳でもないので、整理する良い機会となりました。薄井シンシア Cynthia Usuiさんはいつも自分のブランド力を分かっておられるので、多くの事を学ばせて頂いております。それぞれ違ったハッシュタグが集まって、大きな波を作り上げたいと考えてお#生き抜く力 #グローバル #教育 #英語力 #母子留学

見宮 美早

サステナビリティ推進 特命審議役 Director General for Sustainability Management

4年前

# ハッシュタグからセルフブランディング、新鮮です。自分はーー子育て@途上国、国際協力、サッカーママ、ワークライフバランス、あたりが浮かびました。 肩書きにあまりこだわりはなくても、ビジネスライクに接っしてくる人は、その肩書きだけで見てくる。ならば、その肩書きはせっかくなので使いつつも、個性を、個を、自分ならではの判断と価値をだせるか、心がけていきたいな、っとお話伺って思いました。仕事だけではなく、例えば、サッカーママの肩書きだけど、サッカーを通した国際協力をコーチと議論しちゃったりとか、楽しく公私を越えると、より相手フトコロに入れるでしょうか。

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