教えてくれる人
笹岡 隆甫
1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、日本-スイス 国交樹立150周年記念式典をはじめ、海外での公式行事でも、いけばなパフォーマンスを披露。2016年には、G7伊勢志摩サミットの会場装花を担当した。主著に『いけばな―知性で愛でる日本の美―』(新潮新書)。
【噂の新店】方寸長島
元プロボクサーが料理の道へ
JR嵯峨野線円町駅から徒歩約3分。閑静な住宅街の中に、ぽつんと一軒の日本料理店がある。ここは、2024年10月にオープンした「方寸長島」。7席のカウンターがメインの隠れ家的な店ながら、内装は店主のこだわりがつまっている。
店主は長島豊文さん。ユニークな経歴の持ち主だ。元々は東京でプロボクサーとして活躍し、31歳で引退。後援会の会長が飲食関係に携わっていたこと、身体の管理を行うために減量食などを自分で作っていたことから、引退後は飲食の道へ。先輩の紹介で「祇園 又吉」に入り、12年修業を重ねた。大将の又吉一友さんには、一から料理のすべてを学び、2つの大きな道しるべを得たと話す。「ひとつは、料理に魂を注ぎ込むということ。この思いは店名の“方寸(=心)”に込められています。もうひとつは、お客様には“気”を遣い、心をもってもてなすこと、です」
実家を改装して自分の店にする際、長島さんは友人の建築家ととことん話し合いつくり上げていった。コンセプトは「お客様がすべて、という考えが基です。とにかくゆっくり過ごしていただきたいのです」と。その考えはカウンターに表れているそう。まず、カウンターでお客様と対面し、“気”を遣う。そのカウンターは白木ではなく、あえて茶色のアフリカンチークを選択。「白木だとかしこまってしまうので。ワインなどこぼしてしまって汚れても、それが味になっていけばいいと思っています」
笹岡さん
「祇園 又吉」でお世話になっていた長島さんから、新店をオープンされるとのご案内があり、早々に予約して訪問。地元の方に気軽に来ていただきたいと、ご実家を改装されたそう。和のコースを良心的な価格で提供されています。
いただけるお料理はこちら!
メニューは夜のコース1本。14,000円のみ。京都の日本料理店としては通いやすいプライスがうれしい限りだ。今回はそのコースの中から、笹岡さんのおすすめをご紹介する。
まずは八寸。「料理のすべては八寸に出る」と大将から教えられたという長島さん。季節感を出すために、枯れ松葉と雪、 椿に見立てたキンカンいくらを配し12月を表現している。花が好きな長島さんは、その時期の花を食材に見立てて盛り込んでいるという。
笹岡さん
冷たいものを出したくないとのこだわりで、八寸も作りたてを提供されています。
椀物。宝づくしが描かれた椀は、大将からの餞別だそう。だしには鹿児島県産の鰹と蔵囲い3年熟成の真昆布を使用。昆布が多めのバランスとのこと。
造りにはブリよりも脂分の少ないツバスを選択。藁焼きにしたのち、皮目は炭焼きに。「辛子醤油で、よりもたれずにいただけると思いますよ」
笹岡さん
しっかりとした仕事をされていて「祇園 又吉」出身だと感心させられました。
新米の頃に出される煮えばなは「日本人なので米を大事にしたい」とカウンター奥のおくどさんで炊き上げる。白飯はだしをはってのりや鰹などの薬味を添え、だし茶漬けでいただくことも。今の時期は炊きこみご飯が出されることが多い。
笹岡さん
炊き込みご飯もご用意いただきましたが、白ご飯の煮えばなが秀逸でした。炭水化物好きにはたまらない。まずはそのまま、ご飯のうまみを味わいたいです。