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「9.11」後の20年 米同時多発テロ20年

米同時多発テロから20年。特集記事や写真・動画で振り返ります。

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「9・11後の20年」 あの日から

9・11 目の前で同僚が死んだ 奇跡の救出を語り続ける元警官

当時の経験を振り返るウィリアム・ヒメノさん=米東部ニュージャージー州で2021年8月2日、隅俊之撮影
当時の経験を振り返るウィリアム・ヒメノさん=米東部ニュージャージー州で2021年8月2日、隅俊之撮影

 テロリストに乗っ取られた旅客機が米国の中枢部に次々と突入し、2977人が犠牲になった米同時多発テロから、まもなく20年を迎える。テロやその後の対テロ戦争を体験した人たちは「あの日」から何を思い生きてきたのか。

        ◇

 どれだけ時間がたっただろう。がれきの中から担架で救出され、暗闇を抜けると、煙が立ちのぼる空に半月が見えた。けれど、見渡せど肝心のものがそこにない。人々を救出しようと自分が入った、あの二つのタワーが。そばで付き添う消防士に尋ねた。「全部どこにいったんだ?」「崩れ落ちたんだ」。この時、初めて涙がこぼれ落ちた。「俺は誰も救えなかったのか」

 2001年9月11日朝、テロリストに乗っ取られた旅客機2機がニューヨークの象徴だった世界貿易センター(WTC)ビルに突っ込み、高さ410メートル超の二つのタワーが崩落した。当時33歳で地元・港湾警察の巡査だったウィリアム・ヒメノさんは同僚と救助活動に向かい、生き埋めになった。

 WTCでの犠牲者は2753人。「9.11追悼博物館」によると、WTCで生き埋めになり救出された生存者は、18人しかいない。ヒメノさんは16番目。救出されたのは11日夜で、約13時間後だった。

 事件の3年後に退職し、いま、東部ニュージャージー州で妻と長女、あの時は妻のおなかの中にいた次女と暮らす。8月上旬に自宅を訪ねると、崩落したビルの鉄骨で作った十字架が書斎に飾ってあった。事件の重みを実感してもらうために講演会で触ってもらうという。左足は、下敷きになって壊死(えし)した部分を取り除いた手術痕が残っていた。

落ちてくる人々 「そこは戦場だった」

 あの日、そこは「戦場」だった。ツインタワーの真下にたどり着くと、無数のオフィス用紙が紙吹雪のように舞っていた。旅客機が最初に突っ込んだ北棟の壁に黒焦げの穴が開き、窓枠にしがみついていた人が次々と落ちていく。二つのタワーの間にある中央ホールに入ると、コンクリートの塊が地面に落ちる音とは別に、聞き慣れない音がした。ズシン。ズシン。落ちてきた人間が、地面にたたきつけられる音だった。

 「言葉で言い表せない音だった。誰かが小石を池に落として、水面に広がる波紋を思った。誰にも母や父、姉や弟がいて、死んでしまえばそれぞれの人生に影響を与える。(まだ閉じ込められている)人々を無事に帰宅させなければと思った」

 南棟が崩落したのは、上司のジョン・マクラフリン巡査部長らと5人で北棟の上階に救助に向かおうとした時だった。南棟に既に2機目が突っ込んでいたのは知らなかった。午前9時59分。衝撃音とともにガラスの向こうに大きな火の玉が見えた。天井や壁などあらゆるものが崩れ始める。マクラフリン巡査部長がとっさに叫んだ。「走れ。エレベーターの方だ」。構造が強いエレベーターの方へ夢中で飛び込んだ。

胸元で作った「愛している」のしるし

 「813、813」。がれきや鉄が降り注ぐ中、救援を求める警察コードを無線に叫んだ。だが、ほぼ全身を分厚いコンクリート板に覆われ、身動きできない。やがて真っ暗で静かになった。同僚のドミニク・ペズーロ巡査が隣で倒れていた。姿は見えないが、がれきの下敷きになったジョン・マクラフリン巡査部長の声が聞こえた。「(名前を)叫べ」。答えたのはウィリアム・ヒメノさんとペズーロ巡査だけだった。

 がれきから抜け出したペズーロ巡査は、上に開いていた小さな穴を見て、「助けを呼べるかも」と言った。マクラフリン巡査部長は「まずヒメノを救出し、それから私を救出しろ」と指示した。だが、ヒメノさんにのしかかるコンクリート板は動かない。「ダメだ。出してやれない」。午前10時28分。ペズーロ巡査が座り込んだ直後、今度は北棟が崩れ落ちた。

 胸元で両手を交差させ、手話の「愛している」のマークを作った。遺体で見つかった時、妻と長女、やがて生まれる次女に伝えるためだった。「最後まで家族を思っていた」と。

 ペズーロ巡査はコンクリートの塊に押し潰された。大量の血が口元から流れていた。「ウィリー、俺はもう死ぬ」「頑張るんだ」。彼はマクラフリン巡査部長に冗談ぽく言った。「3.8(休憩)をもらっていいですか」。2人の存在を外に伝えたかったのだろう。右手で抜いた拳銃を1発撃った。そしてこう言って、息絶えた。「俺が救おうとしたこと、忘れないでくれ」

 誰かに見つけてもらわない限り、死を待つしかない。33年の人生に感謝した。胸の中で妻に感謝の気持ちを伝え目を閉じた。すると、白い衣をまとった人が近づいてくるのが見えた。キリストだと思った。喉が渇いていたからだろう。その人は水のボトルを持っていた。そこで目が覚めた。生きることへの渇望が膨らんでいた。

暗闇の先に見えた懐中電灯の光

 「諦めて死んだら終わり。自分がいま死んだら、家族の元に戻る努力をしなかったことになる。一緒にいるマクラフリン巡査部長のことを諦めることになる。全てを尽くさずに死ぬわけにはいかない」

 なかなか動かぬ手を使い、…

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