外国人にとって「安い」けど「冷たい」日本って
作家で反貧困活動家の雨宮処凛さんと法学者の谷口真由美さんは、ともに1975年生まれのいわゆる「ロスジェネ」。自らの世代などをテーマにした往復書簡は、今回、雨宮さんのお手紙です。難民・移民の本を書いたばかりの雨宮さんが、外国人ヘイトの現状などをつづります。【鈴木英生】
同世代が「卒母(そつはは)」する衝撃
谷口真由美さま
前略 長かった夏もようやく終わりを迎えつつありますね。
最近、ある新聞で「卒母」についての記事を読んだのですが、母親を卒業しようとしている人が私と同世代だったので仰天した雨宮処凛です。
そうか、同世代って、すでに子育てを終える人もいるんだ、と。独り身・子なしの私にとっては巨大隕石(いんせき)落下くらいの衝撃で、同時に「この不透明な時代の子育て、本当にお疲れさまです!」と心から思いました。思えば谷口さんもそろそろ「卒母」の時期でしょうか。
さて、前回の原稿の「旧態依然としたものをたたいてくれそうな政治リーダーを求めるロスジェネ」という東京都知事選での石丸伸二氏人気についてのお話、深く納得しながら読みました。
この原稿が出るのは自民党総裁選の結果がわかる頃。次期総裁としてさまざまな名前が取り沙汰されていますが、私は自民党という政党は「失われた10年」を「20年」「30年」へと引き延ばし、この国の衰退を招いた戦犯だと思っています。
ロスジェネは自民党の被害者!?
ロスジェネは、その被害をもっとも食らった世代ですよね。バブル経済崩壊後、企業の生き残りのために非正規雇用が拡大され、その結果、低賃金・不安定ゆえ結婚できない層が増えて少子化は加速。貧困ラインぎりぎりの生活では消費もできずに経済は地盤沈下。昨今、「若者の車離れ」「酒離れ」などいろいろと言われていますが、それらはすべてロスジェネから始まったことです。
自民党がすごいのは、この状況を、90年代から一度も軌道修正しようとしなかったように見えるところ。結果、第3次ベビーブームの担い手として期待されたロスジェネは、未婚・子なしの人を多く抱えて50代に突入しつつあります。
誰か1人くらい、長期的なビジョンを持った政治家はいなかったのでしょうか。つくづく、自民党という政党自体が「人災」にしか思えないのですが、その果てに、日本は先進国で唯一、30年間ほぼ賃金が上がらなかった国となりました。
アジアの友人たちが「安い!」と大喜び
そんな状況の中、岸田文雄政権が終わりを迎えます。私は岸田政権の3年間は「日本が貧しいことがバレバレになった3年間」だと思っています。中国に抜かれていた国内総生産(GDP)がドイツにも抜かれて世界4位となり、平均賃金が韓国にも抜かれていたことが広く知れ渡った3年間。
現在、新型コロナウイルス禍の「収束」によって国境が開いたことで多くの外国人観光客が来日していますが、なんといっても人気なのは日本の「安さ」です。
昨年、コロナ禍で会えていなかったアジアの友人たちが7年ぶりに来日したのですが、この7年で、彼ら彼女らと日本人の立場は逆転したことを痛感しました。7年前は「日本の方が豊か」という前提を…
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