特集

研究現場のリアル

日本の研究環境は悪化していると指摘されています。現場を歩いた記者が問題の所在を報告します。

特集一覧

北海道大で別の教員も「追い出し」訴え 経費不支給、愛車も売った

男性助教が1人で研究する部屋。暖房はなく、私費でヒーターを置いた。段ボール箱には、かつて指導した学生が作製した実験試料が保管されている=札幌市北区で2024年3月、鳥井真平撮影
男性助教が1人で研究する部屋。暖房はなく、私費でヒーターを置いた。段ボール箱には、かつて指導した学生が作製した実験試料が保管されている=札幌市北区で2024年3月、鳥井真平撮影

 頭に浮かんだのは、いてつく冬のオホーツク海だった。

 北海道大理学研究院の40代の男性助教は2022年4月から、化学部門の建物の一室でたった1人、研究を続けている。

 部屋の広さは36平方メートル。実験するには十分だが、備えつけの暖房がない。外気が直接入りこむ通気口があり、冬は氷点下の冷気が押し寄せる。

 大学が教員一般に支給する経費が男性には支払われていない。電源延長コード、インターネット用の機材、実験試薬を運ぶ台車、実験ノート……。全て私費で買いそろえた。3台のオイルヒーターも自腹だ。

部屋「期限」に追い詰められ

 男性は無期雇用の教員だ。本来なら任期を気にせず研究を続けられる身分。ところが21年8月、部屋の使用を「24年3月31日まで」とする文書にサインするよう大学側から求められ、応じた。

 部屋を使えなければ研究は続けられない。期限が近づくにつれ、男性は「科学者としての人生が終わる」と思い詰めるようになった。精神的に落ち込み、24年度に受け取る国の科学研究費助成事業(科研費)の申請を見送った。

 23年夏、男性は身辺の整理を始めた。こんなことを考えていた。「冬のオホーツク海なら苦しまずに死ねる」

著者資格めぐり教授と対立

 北大化学部門では、教授が定年退職や異動などで不在になった後、研究室に残された准教授や助教らは「旧スタッフ」などと呼ばれて区別される。

 部門の教授会に当たる「講座委員会」が20年度に作成した内部基準に基づき、ほとんどの旧スタッフは学生も配属されず1人で研究する環境に置かれている。複数の旧スタッフが「教授会によって組織的に孤立させられている」などと訴える事態になっている。

 男性は旧スタッフではないが、「追い出されていると明確に感じる」と語る。その発端は、論文のオーサーシップ(著者資格)を巡り、教授の不興を買ったことにあると考えている。

 記事後半では、男性助教が孤立した状況に追い込まれていった経緯や、事務経費が大学から支払われていない実態を弁護士の見解と合わせて明らかにします。
 記事へのご意見、情報を情報提供フォーム「つながる毎日新聞」にお寄せください。

「不文律」

 男性は11年11月、北大化学部門に任期付きの助教として着任した。16年に再任され、任期は21年10月末まで延びた。

 「まさか私の名前まで外したいと言うのか!」。18年10月末、男性は所属する研究室の教授から大声で叱責されたという。

 男性によると、研究室には学術誌に論文を投稿する際の不文律があった。著者名に…

この記事は有料記事です。

残り1776文字(全文2830文字)

あわせて読みたい

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月
  翻译: