韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「非常戒厳」を宣布した3日深夜。記者が韓国国会に着くと、正門は閉鎖され、その前で大勢の警察官らが警戒に当たっていた。
「非常戒厳を撤回しろ!」。国会周辺には大勢の市民が集まり、抗議活動を展開。警察官に大声で詰め寄る人もいた。
国会の中に入れず困っていると、国会内にいた韓国メディアの記者から「裏の門から軍の空挺(くうてい)部隊が入っているらしい」との連絡がきた。国会の敷地に沿って裏の門まで歩いていたその時。突然、迷彩服に銃を持つ兵士たちが歩道に現れ、敷地と歩道を区切る柵を乗り越えようとし始めた。
「入るな!」周辺にいた市民たちが柵から兵士らを下ろそうとする。激しいもみ合いになり、女性の悲鳴もどこからか聞こえてきた。一部の兵士は敷地に入っていったが、断念し一時撤収する兵士もいた。
敷地の周りには複数の門があるが、どの門の前にも戒厳令に抗議する人で人だかりができていた。手をつないで「人間の鎖」を作る市民らもいた。上空には軍用ヘリとみられる機体が大きな音を立てて飛行していた。
国会の金敏基(キムミンギ)事務総長によると、戒厳令の宣布直後の3日午後10時50分、警官隊らが国会の門を閉鎖し、国会議員や職員らの出入りを阻止。さらに同日深夜から4日未明にかけて、軍用ヘリで24回にわたり計約230人の戒厳軍の兵士が国会敷地内に進入した。
更に4日未明には、追加で約50人の兵士が国会の周囲を取り囲む塀を乗り越えた。部隊は国会議事堂の2階事務室のガラスを割って乱入。禹元植(ウウォンシク)議長は部隊の撤収を強く要求。4日午前1時11分に撤収を始め、同2時3分に撤収を終えたという。
一方、正門の前のデモは時間がたつにつれ人が増え、午前1時半ごろには「尹錫悦を弾劾しろ!」とのコールが起きた。国会前に駆けつけた市民の一人、韓官佑さん(25)は「戒厳令が解除されたら、弾劾は回避できないだろう」。李海燕さん(63)は「まさか、こんなことをするとは思わなかった。悪手を踏んだと思う。尹政権は『まさか』の連続だ」と語った。
国会は4日未明の緊急の本会議で、戒厳令の解除を要求する決議案を可決。尹氏は国務会議(閣議)で戒厳令の解除を発表し、国会周辺に展開していた兵士らは撤収した。金敏基氏は兵士らの国会乱入について「違法な乱入だ。強い抗議の意を表する」と非難している。
戒厳令解除後の4日昼、記者は若手の警察関係者に連絡をしてみた。「信じられないことですよね。一体何が起きているのか」と疲れた様子。軍関係者は「残念です」と言葉少なだった。【ソウル日下部元美、福岡静哉】