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【マグロちゃんは食べられたい!完結1周年】マグロちゃん紹介文&SS (Web再録)

お久しぶりです。

今日は12月26日ですね。まんがタイムきららMAXで連載していたおもしろ漫画『マグロちゃんは食べられたい!』の2巻(最終巻)が発売されてからちょうど1年になります!

 

この機会に私が以前合同誌に寄稿した2つの文章を公開したいと思います。

 

1つ目は2023年夏コミで出た『Micare 2.5』(東大きらら同好会)の「おすすめきらら」に寄稿した『マグロちゃんは食べられたい!』紹介文です。単行本の範囲で言うと2巻の真ん中くらいまで進んでいた頃に書いたので、結末がどうなるか全然分からない状態で書いています。マグロちゃんのギャグセンスはきらら作品の中でも指折りだと思っています。

 

2つ目は2024年夏コミで出たマグロちゃん合同誌『まぐろタイムきはだMIX』(阪大きらら同好会)に寄稿した2次創作小説SSです。原作完結後に作品への熱い思いを綴る機会をくださった阪大きら同さんに感謝です。実際に三浦にマグロを食べに行った経験を基に、この作品について考えていたことをSSという形で表現しました。小説という形で創作をしたのは初めてでしたので拙いものではありますが、ご一読いただけると嬉しいです。

三崎口駅 看板の赤字に注目



 

マグロちゃん紹介文

 

問題:みさき・まぐろ・なぎさ・きーちゃん・さしみ・クロ。このうち漫画『マグロちゃんは食べられたい!』に登場する“人間”を全て答えなさい。

 

人間とそれ以外の存在(動物や架空の生命体など)が交流する話は古今東西に見られ、現代の漫画やアニメでも珍しくないでしょう。その中でも彼ら彼女らが同居する作品を「異種同棲譚」と私は勝手に呼んでいます。異種同棲譚のきらら作品では『精霊さまの難儀な日常』(琴慈)が大好きですね私は。文化や価値観、性質の違いを感じながらもお互いを理解し仲を深めていく、というのが王道なストーリーかと思います。調べたわけではありませんが……。

さて、冒頭で取り上げた『マグロちゃんは食べられたい!』(はも)は「釣ったマグロが美少女に!?」のキャッチコピーからわかるように、マグロの擬人化をテーマにした異種同棲譚です。しかし、前述したような王道展開などお構いなしに価値観がすれ違い続けています。これこそが本作品最大のおもしろさであると言っても過言ではありません。ここではなるべくネタバレを避けながら本作品の魅力を3つ紹介します。

 

1. キャラクターの個性

日常系コメディにおいて、キャラクターの個性が重要であることは言うまでもありません。単純化するとボケとツッコミに分かれる作品も多いですが、本作品の主要6キャラは皆何かしらズレています。軽くキャラの紹介をしましょう。

 

みさき:(魚の)マグロが大好きな女子高生。マグロを丸ごと1匹食べることを夢見て釣りを日課にしている。ヘアピンや小物がマグログッズ。昼休みに釣りをしたり学校に七輪を持ってきたりと常識外れなマグロ狂い。

まぐろ:みさきに一本釣りされたマグロが人間の姿になった。「マグロの掟」に従い、釣り上げたみさきに食べられようとする。みさきと二人暮らしをしながらその機会を狙っている。みさき・なぎさのクラスメートになり、人間の世界で奇妙な行動を取ってしまうことも多い。

なぎさ:みさきの幼馴染。料理が上手く多才で周囲に好かれる中性的なボクっ子。常識人そうに見えるが平然ととんでもない発言をすることも。

きーちゃん:人間不信な子ども。考え方が物騒なところがある。まぐろと仲が良く、みさきに食べられることに反対している。共に暮らすうちになぎさに心を許すようになってきた。

さしみ:みさきたちのクラスの風紀委員。生真面目で少し思い込みが激しい。道草を食べる趣味など、みさきとは別の方向で変人な一面を持つ。

クロ:生活力が皆無でさしみのヒモと化したおっとり系なお姉さん。大トロ(意味深)が大きい。

 

2. 魚ネタのギャグへの落とし込み

マグロの擬人化がテーマなので当然魚の話題もたくさん出てきます。特に、マグロの身体的特徴や習性を人間の姿での特徴や言動に反映するのが非常に秀逸です。例えばヒレをモチーフにした髪型をしていたり、止まると死ぬと思い部屋の中を歩き回ったりしています。他にもトロや故郷の味といった様々なネタが回転寿司のように押し寄せてきて、舌鼓を打ちながら毎月読んでいます。ギャグを楽しみながら雑学も身に付いてまさに「一石二魚」です。「私というマグロがありながら」など痴情のもつれ(?)のようなまぐろ発言の数々がお気に入りです。

 

3. 埋まらない価値観の溝

本題の価値観についてです。みさきとまぐろは一緒に生活するなかで一見仲良くはなっていきます。しかし、タイトルの通りまぐろがみさきに食べられたがるという構図は(2023年8月号時点では)変わっていません。みさきは種族の壁を越えて完全に理解し合うのは不可能だと思いつつも、掟を捨てさせて共に暮らしていくことを望みます。一方まぐろは人間の生活を楽しみながらも、掟に従いどうすれば食べる気になってもらえるかを思慮するようになります。その背景にはマグロの死生観が潜んでいます。弱肉強食の世界で生きるマグロは、捕食されれば一緒になって命を繋いでいけるが、そうでなければ独りぼっちになってしまうと考えています。この根本的な価値観の相違から平行線を辿る2人(1人と1匹)の思惑がもたらす切なさやもどかしさが、彼女らの微笑ましい日常の中に絶えず張り詰められ、本作品独特の雰囲気を醸し出しています。

 

以上、作品の良さを3つに分けて説明しました。もちろんこの他にも絵がかわいいとかキャラの関係性が良いとか伝えたいことはたくさんありますが、それはまた機会があればお話しします。

 

ところで、本作品ではマグロ=魚のマグロ、まぐろ=みさきに釣り上げられ人間になったまぐろちゃんを指しています。この使い分けに慣れてしまい、私はしばらく生活で「まぐろ」表記を見ると人間のまぐろとして認識してしまう病気に罹りました。この病気を治すため、我々は京急のみさきまぐろきっぷを手に、三浦半島の先端へと向かいました。あっちにマグロ、こっちにもマグロ、町中マグロだらけなその町で脳がバグり、マグロを食べることで一命を取り留めることができました。『マグロちゃんは食べられたい!』がアニメ化してみさきまぐろきっぷとコラボすることを熱烈に希求しています。

 

ここまで読んでいただいた方はお気付きかもしれませんが、この記事には冒頭の問題の答えが載っていません。そのためにわざとぼかしました。気になる方はニコニコ静画内のきららベース(公式)で「無料マグロ」の試し読みができるのでそちらへどうぞ。もっとも、常時公開されている3話までにさしみとクロは登場しないので、是非とも単行本をお買い求めください。

 

manga.nicovideo.jp

 

 

まぐろを求めてみさきへと

 

「やっと終点に着きましたね、みさきさん」

「ええ、ここがマグロの町の入口よ」

今日は二人で三浦半島の南端・三浦市にやってきたわ。目的はもちろんマグロ。関東屈指のマグロの町で、城ヶ島があるのもここ。

駅に着いた瞬間からあちこちからマグロのアピールが飛び込んでくる。これは期待できるわ。改札を出て駅を振り返ると駅名の異変に気付いた。

「これ、『三崎口』駅じゃなくて『三崎マグロ』駅になってるじゃない!」

「本当ですね!私たちにぴったりです」

「なかなかいいセンスしてるわね......」

「うーん、でもいまひとつ物足りないですね。ここは私たち食べられる側の視点を取り入れてこうするべきです!」

そう言ってまぐろは「口」の字の左上にある「マグ」を「口」の中に入れる仕草を見せてくれた。

「みさきさんの口で私を食べていただく意味を込めて……」

「そんな照れながら言われてもアンタは食べないわよ」

 

そんなやり取りをしながら三崎港行きのバスに乗り込んだ。

「皆さんも来られたらよかったんですが……」

「なぎさたち、さしみたちも家の用事があるって言うから仕方ないわね。私が突然来たいって言い出したのが悪いんだし」

発端は昨日の朝。みさきまぐろきっぷの存在は前から知っていたけど、まぐろを釣ってからのゴタゴタでずっと計画が氷付けになっていたのよね。それで今日がいい天気の予報だったから思い立って出かけたってわけ。

「このきっぷは往復の電車代とバス乗り放題にマグロ食事券とおもひで券が付いてるんだけど、バスに乗りまくれば食事券以外だけで元が取れるのよね。つまり実質無料でマグロが食べられるわ!」

「それを言うなら私だって無料マグロですよ!」

「アンタは釣りの餌代も食費もかかってるし全然タダじゃないわよ」

 

バスの終点は港が目の前に迫っていて落ち着く感じね。普段釣りをしている港と雰囲気が似ているわ。

「港に漁船が並んでいる風景はやっぱりいいわね」

「はい。実海のような安心感です」

「回遊魚のアンタから見ればこの辺の海はほぼ実海でしょ」

「ところでここからどこに行くんですか?」

「11時半……ちょっと早いけど早速お昼ご飯にするわよ!」

 

バス停から徒歩1分くらいの目当てのお店にやってきた。いかにも老舗という佇まいで、女子高生二人(一人と一匹)で入るのはちょっと勇気がいるわね。なんでもマグロのかぶと焼を初めて陸で提供したお店らしいしすごく美味しいに違いないわ!まあ、かぶと焼を注文するお金はないんだけどね。

中に入ると和室の海側の席に通された。どうやら昼食も提供している旅館のようね、格調高いのも頷けるわ。早速食事券を渡して注文した。まぐろきっぷ用の定食は決まっているみたい。待っている間はなんだか落ち着かなくて部屋を見回したり港の方を見たりしていた。室内には他に大人二人組がいるだけだから余計に広く感じるわ。

「お待たせしました」

二人分の御膳が運ばれてきた。きっぷのホームページに写真は載っていたけど、実物を見ると一層豪華に見えるわ。

「マグロの刺身はもちろん、尾の身の天ぷらに酒盗、小鉢......たくさんあってどれから手を付けるか迷っちゃうわ」

「みさきさん、この酒盗って何ですか?」

「マグロやカツオを発酵させた塩辛のことよ。美味しくてお酒が進むからそんな名前が付いたらしいわ」

「向こうの方も『新鮮な魚には日本酒が一番!』って言ってましたもんね。私を食べていただくときもできればお酒と一緒にお願いします!」

「二十歳になるまでお酒は飲めないからあと数年かかるわよ」

「そんな!」

いつものようにまぐろにあーんで食べさせられるもんだから恥ずかしいけど、それを忘れるくらい美味しかったわ!

 

お腹を満たしたことだし今度は遊ぶわよ。おもひで券をアクティビティに使うか飲食に使うか選べるようになってるけど、せっかくだからアクティビティに使いたいわね。

「おもひで券の使い道、このにじいろさかな号って船はどうかしら?水中で魚を見られるんだけど、アンタからしたらつまらない?」

「いえ、私一度船に乗ってみたかったんです!」

「それじゃあ決まりね」

おもひで券をチケットに交換して黄色い船に乗り込んだ。子ども向けっぽい、スーパーの鮮魚コーナーで流れていそうな感じの歌がかかっている。子ども連れや十代二十代のグループをちらほら乗せて出航した。潮風が気持ちいいわね。海鳥にエサをあげる人もいてたくさん着いてくるから見ているだけでも楽しいわ。

「せっかくだし写真撮るわよ」

「エサあげるだけで捕まえないんですか?」

「あれはエサをあげること自体を楽しんでるの。取って食うわけじゃないわ」

「マヨネーズで和えると美味しかったのに」

「それは忘れて!」

未知の文化を目の当たりにしたかのような目で周りが見てきた。恥ずかしい。船が目的地に着いて下の階に降りるよう案内されたから助かったわ。半分潜水艦のようになっていて水中の魚を窓越しに観察できるようになっているみたい。上から係員が撒いたエサに魚が集まってきた。魚の種類も解説してくれて楽しい。まぐろはあの魚は美味しいとかあの魚はすばしっこいとか教えてくれた。

「マグロもこんな景色を見てたの?」

「浅いところはこんな感じでしたね。ここまで賑やかなことは少ないですが」

「なるほどね」

「ただ一番の違いはガラスで仕切られていることですね。目の前にたくさんいるのに食べれられないなんて!」

「まあ、人間の娯楽ってそういうものだから......」

その後上の階に戻ってエサやり体験して港に戻ったら昼過ぎになっていた。

 

「これから街を散歩しようと思うんだけど、気になるところある?」

「私を料理してもらえるところ......はなぎささんにお任せしたいのでマグロ料理をいろいろ見たいです」

「......まぁ、お土産でも見て回ろうか」

うらりマルシェで自分たち用となぎさたち用のお土産を買って街中へ繰り出した。あっちにマグロ、こっちにもマグロ、やっぱり街中マグロだらけね。マグロの解体ショーをするお店もあったのね、次来たら見たいわ。

 

中心部は結構狭くてすぐ回れたし城ヶ島に行くことになった。さっき船でくぐった城ヶ島大橋をバスで渡ってあっという間に到着。島の南側が遊歩道になっていて人気らしいわね。ウミウ展望台、馬の背洞門、見晴らし広場。なるほど、こういうのがジオスポットってやつかしら。海を眺めているうちに西側の城ヶ島灯台に到着した。マグロ漁船もこの灯台の光を目印にするんだろうか?ってこの灯台のイラスト、猫がマグロを咥えてるじゃない!こんなところまでマグロが侵食してるとは......油断したわ。

 

岩場に降りるともう4時過ぎで、夕陽が傾いていた。

「きれいね」

「今日は陸地からも海上からも海を見られて楽しかったです」

「それならよかったわ。誘った甲斐があって」

「マグロもすごく美味しくてセルフ品種改良が進みました!」

「あーそう」

いつものまぐろの言葉を聞いていて疑問に思うことがある。まぐろたちは人間と違って自分たち魚の個体をほとんど区別していないんじゃないかって。名前だってまぐろ、きーちゃん、クロさんで種類由来だし。まぐろがマグロの掟に固執して自分自身の価値観を持たないのも、自他の区別が人間より曖昧だからだとしたら?名前を付けてあげたら意識が変わるきっかけにならないかしら?

「ねえまぐろ、アンタ自身の名前は欲しくない?まぐろだと他のマグロが出てきたらややこしいでしょ?」

「私は気にしませんが、強いて言えばみさきさんですね。みさきさんに食べていただくんですから」

「じゃあせめて私の名前の一部は?「みさ」とか「さき」とか「みき」とか」

「いえ、みさきさんと一緒になるまではまぐろ以外の何者でもないですから」

「やっぱりそうなるのね」

気まずくなってさっきより低く赤くなった夕陽に目を移した。さざ波の音と海鳥の鳴き声だけが響いていた。

 

バスで三崎口駅に戻ってそこから電車で帰宅。今日のことやらいつもの他愛もないことやらを喋った。まぐろと二人での初めての旅だったけど、明日からはまたいつもの生活に戻るのね。少しは分かり合える日がくるのかしら。



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