◇参考文献
『虚構推理』『ミステリの書き方』『少年探偵彼方 ぼくらの推理ノート』『アルセーヌ・ルパンの逮捕』『パタリロ!』◇誰が刑事を殺したの? それはわたしと鋼人七瀬
「ねぇねぇ」
「あ~?」
「マンガの『虚構推理』を読んだんだけどさ」
「ああ」
「1巻しか手に入らなかったから続きが気になっちゃって、結局、小説の方を図書館で借りて読んだよ」
「ほう、ミステリへの苦手意識を克服したか」
「苦手意識は相変わらずだけど、『虚構推理』は頑張って読んだ」
「そうか」
「何と言っても紗季さんが可哀想でさぁ!」
「そこか」
「魚も鶏も美味しく食べられないなんて!」
「牛はいいのか」
「牛なんて風味だけで、栄養価は豚にも劣るじゃん」
「ちょっと行って畜産業者に殴られてこい」
「一方、魚は良質のタンパク質で、肉に比べて体を冷やしにくい」
「冷え性の人間は大変だな」
「鶏はというと、蛇や蛙がその味にたとえられるほどプレーンなお味であり、イルカよりも美味いと伊豆で大好評だ」
「ちょっと行って養鶏業者と伊豆出身者に殴られてこい」
「鶏の唐揚げや鶏そぼろがなくなったら遠足のお弁当が如何に味気ないものになるか!」
「まぁこだわりのポイントは人それぞれだが」
「ところで『虚構推理』って何ダニット?」
「あ? 何だに?」
「いやだから、誰が殺したかを推理するミステリをフーダニットっていうんじゃなかったっけ?」
「ああ、それか」
「犯人が分かった上で、どうやって殺したかを推理するのがハウダニット、何故殺したかを推理するのがホワイダニット、だよね?」
「Who done it?、How done it?、Why done it?はその通りだ」
「うん」
「他にも、When done it?、Where done it?、What done it?、How many done it?、How much done it?がある」
「ねーよ! 少なくともハウメニーとハウマッチは絶対ねー!」
「5W3Hをなおざりにするとビジネスが立ち行かんぞ」
「ビジネス関係ねーっ!」
「それにしても、ミステリが苦手という割に、フーダニットだのハウダニットだのミステリの類型に詳しいのだな」
「以前、苦手意識克服のために、『ミステリの書き方』って本を買って勉強した」
「努力の方向がおかしくはないか? 『少年探偵彼方 ぼくらの推理ノート』みたいな軽い推理クイズものから読み慣れていけばいいだろうに」
「あれこそイライラの極致だよ! 如何にも小学生向けの内容だけに、解けなきゃ腹立つし解けても嬉しくないし! ミステリなんてさ、もっとこうバーッと分かりやすければいいんだ! 『謎は全て解けた! 犯人は俺だ!』みたいな!」
「語り手が犯人、というのはミステリの一ジャンルだな。ルパンにもそんな話があった」
「三世?」
「元祖」
「元祖天才バカボンの~♪ パパじゃなくて祖父だから~」
「小学生のときに、『小学何年生』か何か、子供向けの雑誌に載せられていたものを読んだ」
「ボケ丸無視かい」
「まーるむーしでーんしゃーがピーポッポー♪」
「分かった、ツッコミたくないボケは丸無視するに限るんだな」
「後年、青空文庫で読みなおしてみたが、記憶していたほど小粋な話ではなくて随分失望した。昔の俺が読んだものは、多少脚色してあったのかもしれない」
「思い出補正だったのかもしれないしね」
「参考までに、『ミステリの書き方』は誰の作だ? 類書は幾つかあるはずだが」
「さあ? なんか外国のおっちゃんが書いたやつ。『パーフェクト殺人』ってタイトルのミステリを書いた人」
「把握」
「でさ、『虚構推理』なんだけど、これ、何ダニットでもないよね?」
「いいや、フーダニットだ」
「何でだよ。『フー』は鋼人七瀬、『ハウ』は鉄骨で殴った、『ホワイ』は人々が無意識にそうすることを期待したから。中盤の情報収集でそれらが確定した上で話が展開してるんだから、何ダニットでもないじゃないか」
「フーダニット型のミステリでは、物語の最後に探偵役が真犯人を名指しするのが様式美だ」
「だから真犯人は鋼人七瀬だってば」
「探偵役の岩永は、最後に誰かを告発しなかったか?」
「……あれ?」
「真犯人は鋼人七瀬、勿論そうだ。だから岩永に告発された者は犯人ではない、勿論その通りだ。
それでも探偵役の岩永がしたことは、どうやって殺したか、何故殺したか、そして何より、誰が殺したかを虚構推理することだったのさ」
「なるほど、だからフーダニットなのかぁ」
「フーダニット……誰が殺した……」
「お、おう?」
「だーれが殺したクックロービン♪」
「何故今『クックロビン音頭』!?」
「それでは今日はこのへんで。さようなら~あ~ぁ~……」
「……そして誰もいなくなった」
180518
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