吉祥寺と渋谷を結ぶ、井の頭線が好きだ。
ボクは吉祥寺から乗ることが多く、始発駅だから、急行でもたいてい座れる。
通勤時間に利用することもまず無いから、車内はのんびりした空気が流れている。
東京の他の私鉄は、今やほとんどが地下鉄と相互乗り入れしているが、井の頭線は、淡々と渋谷と吉祥寺間を往復しているだけだ。そのせいかわからないが、どこかローカルなムードが漂っている。
途中駅も、下北沢と明大前は、それぞれ小田急線・京王線と交差しているので、繁華街のある大きな街だが、その他の駅は降りても、駅前がこぢんまりしている。その感じもやはり少し田舎っぽくて、好きだ。ボク自身が田舎っぽいということだろう。
例えば、好きな駅のひとつに、浜田山がある。急行の通過するローカル駅だ。
でもボクは時々、都内からの帰りに、途中下車する。午後仕事が早めに終わった時、わざわざ行くこともある。
浜田山の駅前は、道が広いのに車通りが少なく、個人商店が並んでいて、のんびりしている。
前はその駅前通りに「浜の湯」という銭湯があった。2013年に廃業されたのが、本当に残念でならない。何度も行った銭湯だ。
午後4時、開いたばかりの浜の湯に入って、ぶらぶら歩いて駅前の本屋「さんさんサンブックス浜田山」で立ち読み。雑誌を1冊買って、飲み屋に行ってそれを開き、明るいうちからビール、という流れが最高だ。
そんな時行くのは「かのう」という居酒屋。ここがシブい。
雰囲気、値段、ツマミ、みんな好きだった。〆鯖なんかがちゃんとおいしい。
古いけれど、歴史があるとか文士が通ったとか、そういう店では無い。近所の酒好きに愛される、小さな大衆居酒屋の典型。週末など、早い時間からおじさんたちが赤い顔をして楽しそうに飲んでいる。ところが最近、この店も閉店してしまった。
「浜田山の巨星、落つ」の悲しいニュースだった。
大好きなラーメン屋のひとつ「たんたん亭」も、駅のすぐそばにある。
ラーメン好きにも人気の店だけど、ローカル駅のせいか、昼以外なら並ばないで食べられるのが嬉しい。
ここのラーメンは、お腹を空かせて入ると、店の中の匂いに空腹感と食欲がグーンと上がる。そしてその前のめりになった気持ちに、キッチリ答えてくれるハッタリのない真面目な1杯なのだ。ああ、今食べたい。
たんたん亭でも、食べ終わったら、やっぱり向かいのさんさんサンブックスで立ち読み。この店は本のセレクトが独特で、いつも知らない単行本をつい買ってしまう。買った本を井の頭線の各駅停車で読みながら帰るのも、たまらなく楽しい。
駅の両サイドに踏切があり、この踏切もいいローカル風景を見せてくれている。
とくに吉祥寺側の踏切は、車の通れない狭い踏切で、夕方なんかなぜか切ない気持ちになる。
どこもここも高架線にして、車や人が待たないで通れるようにすればいいというものでも無い。
踏切を待つ心のゆとりがある生活がいい。
浜田山は、車が通れない踏切のおかげで、駅前がのんびりしているのだ。
他にも、おいしい蕎麦屋が何軒かと、おいしいカレー屋、昔ながらの喫茶店もある。それらが固まってでなく、ポツリポツリとある感じも、都心とは違う空気を作っている。
土鍋餃子専門店…って何なの?鉄鍋ならわかるけど
いきなり浜田山のことを長々書いてしまったが、今回はそんな井の頭線の、途中駅から途中駅に歩いて、その途中で何か食べようという話になったのだ。
現在、井の頭沿線に住んでいる編集者女のオススメで、西永福の土鍋餃子専門店が候補に上がった。
土鍋餃子専門店。土鍋餃子。なんだろうそれは。鉄鍋餃子はわかるが、土鍋でどうする、餃子。しかもその専門店。しかもめっぽう安いらしい。そこにしよう。
永福町から歩き出し、西永福でそれを食べて、浜田山まで歩こうというコースに決まった。
待ち合わせの永福町改札に行くと、すでに編集者男女はきていた。
早めに着いた編集者男は、駅周辺をぶらついてきたようで、
「いやー、初めて降りましたが、いいですねぇ!空が広くて。なんか感動しちゃった」
永福町、空、広いっけ?そんな印象、ボクは全然無いが。
駅のそばには有名なラーメン店「大勝軒」がある。1年中、いつも店の前に客が並んでいる。
同じく有名な池袋の「大勝軒」と、名前は同じだが全然違うラーメンらしい。話には聞くが、どちらもボクは行ったことがない。
永福町の大勝軒は、すごくおいしいそうだが、普通のラーメンでも麺がふた玉分くらい入っているそうで、少食のボクはそれだけで、もう一生行けないだろうとあきらめている。自分の食人生も終盤な感じが、ちょっとサビしいがしかたない。
駅からすぐ井ノ頭通りがあり、井の頭線と平行に走っている。編集者女が、井ノ頭通りを下れば、店はそこから少し入ったところなので、そこを行きましょうと提案した。
ボクは細い道をクネクネ歩きたいな、とぼんやり思っていたのだけど、いつも車でしか通らないこの辺の井ノ頭通りを歩いてみるのもいいか、と考えを変え、彼女に従った。
そしたら、意外にも。よさそうな飲食店が並んでいるので、少し驚いた。
ピザとナポリ料理の店。
なんだかお洒落なカフェ。
ちゃんとしてそうな個性的な居酒屋。
京王バスの営業所があって、周りに高い建物が無いために、ターミナルの上に青空が広がっていた。編集者男のいう意味がわかった。そういうことか。高層マンションなどがほとんど無い。
2階の「喫茶 地球儀」。名前がいい。よく見たら窓に「ナポリタン350円」と書いてある。それは安すぎる。どんなものだか食べてみたくなる。
ある焼肉屋のショーケースには、サンプルが一皿も無くて、A4のコピー用紙に1枚2品ずつぐらいずつ、料理と値段をプリントアウトしたメニューが、一面に貼ってある。真っ白でスカスカで、やる気があるのか無いのかわからない。
カレーとデリカの店「BOTA ALTA」もなんだか気になる。カレーには弱い。
その隣の居酒屋らしき店も、なにやら只者ではなさそうな気配。両店準備中だが。
入ってみたいような店が、こんなにあるのか。
なんだよなんだよ、永福町、いつの間にか、こういうことになっていたの?
2階の古そうな鰻屋「佐原屋」も魅力的だ。かなり年代物の暖簾の向こうが、引き戸でなく、いきなりコンクリートの階段という唐突なアプローチもそそる。
ネパール伝統家庭料理の店もおいしそうだが、入口のスープとナン?的なものの大きな絵が、雨のためか絵の具がものすごくタレ流れていて、現代芸術っぽい。わざとだろうか。いや、「なっちゃった物件」だろう。凄みがある。
井ノ頭通りからちょっと入ったところには「永福体育館」という、区立の体育館もあった。ちょっとモダンな建築だ。
そうやって感心していたら、もう西永福の駅入口に到着。近い。
4時半に待ち合わせして歩いてきて、まだ5時までずいぶんある。
西永福の駅前にもごく小さいながら商店街があり、おいしいかもしれない手打ち蕎麦「ほん多」(店名が信頼できる感じ)、たぶんおいしいパン屋「こもれび」があった。
「理性寺」というなんだか怖いような名前の寺もあった。寺のある街には歴史もあるということだ。こんなに地味でも、新興住宅地ではないのだ。
店まで戻って、もう一度看板を見る。
「土鍋・餃子」と書いてある。
ナカグロ「・」が入っているじゃないか。土鍋と餃子は別?
その下に「安くて、美味しい専門店」と書いてある。日本語として少し変じゃないか?
入口横にメニュー写真がたくさん載った大きなパネルがある。
そこにはタイトルのように「土鍋餃子」と書いてあった。ナカグロ「・」無し。が専門店とは書いてない。
最上段に、数種類の餃子の写真があった。
その下にピータンとか青椒肉絲とか海老チリとか、よく見る中華一品料理があり、下段の方に「酸辣土鍋面(黒酢サンラータン麺)」というのがある。「土鍋」という言葉はこの一品にしか使われていない。その取っ手の一つある白い器は、たしかに薄手の土鍋に見える。
そして、同じ器に入った料理は「豚バラ肉の旨煮」など6品ある。これらも書いては無いが、土鍋料理ということなのか?
しかし、餃子と土鍋の間には、深くて暗い川がある、じゃなくて、たくさんの料理が挟まっている。餃子は皿にのせてある。
店の脇の道沿いにもメニュー写真パネルがあり、こちらには「土鍋餃子」に続けてすごく小さな字で「専門店」と付いている。
結局、店名は正式にはどうなんだろう?と思ってインターネットで検索したら、しっかり「土鍋料理専門店」と書いてあった。だがそれに続く屋号は、無い。「土鍋料理専門店」という店名なのだった。普通それはサブタイトルでしょ。「土鍋専門店ニシエイ」とか。
わけがわからない。
5時になったので、入店。
広めの店内に当然我々3人だけ。奥のテーブルに陣をとる。
メニューを見る。結論的にいうと、餃子と土鍋料理が「売り」の中華料理店だった。
「結局、いろいろちょっとずつ間違ってるんですよね」
と、この店が好きでよく来ている編集者女は笑った。
たしかに間違っている。土鍋餃子という料理は無い。餃子の専門店でも、土鍋の専門店でもない。
しかし、驚くべきは値段だった。驚くべき安さ。
メニューの一番最初に出ている「やみつき餃子」は、なんと5個190円。
「おつかれセット」というのがあり、生ビールに、前菜と、選べる一品と、やみつき餃子で、1,000円!3品と生ビールで1,000円はスゴイ。
まずはこれを1人分注文。選べる1品は豚肉もやし炒めにした。
あと360円の生ビール2杯と、単品でたたき胡瓜190円、じゃが芋シャキシャキ和え190円、チーズトマト餃子480円を注文。
ここまでで3人で3杯6品で2,580円。1人860円。値段設定これでいいのか?
おつかれセットの生ビールは単品と同じジョッキだった。乾杯。
ぐーっと飲んで、ジョッキを置いたら、どんどんお客さんが入ってきた。
若者男性客3人グループ。女子高生ぐらいの子と母親。若いカップル。中年男性ひとり客。小さな子供もいる4人家族。あとからユダヤ人ぽい男と金髪でタトゥを入れた男の外国人二人客も来た。
人気店なんだ、ここ。正直言って、店の見た目は、全然そんな風に見えない。
編集者女によると、某街歩き番組で、この辺の店がたくさん紹介されたが、ここはなぜかスルーだったそうだ。画面映えしない店構えではある。
やみつき餃子が出てきた。おいしい。190円、やっぱり安い。少し小ぶりだが、ボクは、餃子は小ぶりが好きなので、むしろうれしい。
おつかれセットの前菜は、蒸し鶏の甘酢あんかけで、前菜というにはしっかりした量だ。豚もやし炒めは普通に1皿。全部、普通においしかった。この値段で普通においしければ、誰も文句は言えない。
ジャガイモのシャキシャキ和え、大好き。これは随分大人になってから知った料理だ。こういうジャガイモの使い方があったかと、中華料理にあらためて感心した。
チーズトマト餃子は、赤っぽくてやみつき餃子と皮も包み方も違う。おいしかった。
叩き胡瓜。生のきゅうりを、ビール瓶などでぶっ叩いて荒くバラバラにし、塩とニンニクと少量のごま油で和えたような一品。これも大好き。もっとニンニクがガンガンに効いていてもうまい。
おいしい。こういう中華料理が出る店に入ったのも、大学生になってからだ。しかも年上の誰かに連れて行ってもらって。
父は仕事がらみで行ったことがあるとは思うが、母は専業主婦だったから、円卓のような本格中華料理店なんて、ほとんど入る機会がなかったと思う。
安くて檄ウマの料理を楽しむうち、また昔の記憶に囚われる
家で出た中華料理は何があっただろう。
餃子は、買ってきたり皮から作ったりしていた。
シューマイも時々出た。揚げシューマイもよく弁当に入っていた。あれは冷凍を揚げたもんだろう。
一品料理は酢豚ぐらいしか思いつかない。
あ、麻婆豆腐的なもので、ほとんど辛くないのがあったような気がする。
チャーハンはよく食べた。でも今思うとおよそ中華料理的ではなく「焼きめし」という感じだが、大好きだった。
自分のうちで醤油に漬けて中まで茶色くなったニンニクを使うのが特徴。これを薄くスライスしたのと、塩とネギだけで作る。鰹節も少し入っていたかもしれない。
卵は入れない。肉も入ってない。ネギは千切りをたっぷり。
あのチャーハン、おいしかったなぁ。全然油っぽくなくて、見た目から何から全然中華じゃない。ニンニクの醤油漬けの味はよかったんだなぁ。今でも口の中に味を思い出せる。
さらに実家で食べなかった中華料理を頼む。
干し豆腐の和え390円。これも大好き。サイドツマミによい。
黒酢豚680円。単に黒酢を使った酢豚、と思ったら、思った以上に黒い料理だった。なんの黒だろう?でもうまかった。
飲み物は紹興酒に変えた。5年ものボトル。1,200円。ほとんど酒屋の値段だ。
ザーサイ190円も頼もう。ザーサイは10年ぐらい前、すごくおいしいのを食べてから、さらに好きになった。
土鍋餃子専門店のは、味は普通だったが、白髪ネギとキュウリの千切りと白ゴマを混ぜてごま油で和えてあった。190円とは思えない仕事ぶり。
ザーサイといえば、子供の頃は、桃屋の瓶詰めの「搾菜」が時々食卓にあった。これも結構好きで、ご飯のおかずによく食べた。
桃屋の「根菜」ってのもあったな。味、覚えてない。今も売っているかな。
桃屋の花らっきょう。今も好き。
桃屋の江戸むらさき。小さい頃は本当によく食べた。「何は無くとも江戸むらさき」というキャッチコピーを、子供心に確かにそうだと思った。それさえあればご飯が1杯食べられた。
我が家は昔、桃屋にずいぶんとお世話になっていたんだな。
実家ではラーメンもよく食べた。もちろんインスタントラーメン。
小学校6年の時、大阪万国博覧会があった。
その時「♪出前一丁食べて食べて万国博へ行っこっう」という「出前一丁」のCMが流れていた。出前一丁の空袋5枚集めて送ると、毎週ペアで何組とかを万国博にご招待というキャンペーン。
空前の万博ブームで、ボクもガイドブックも買って、全部のパビリオンの名前が言えた。
家族の協力のもと、出前一丁を一生懸命食べて、何度か応募した。
だけど、もし当たったら、ボクはお父さんと行くのか、お母さんと行くのか、心配で不安だった。留守番する方はかわいそうだし。この時弟の心配は全然しなかった。残酷な兄。
ペアで、というのをちょっと意地悪だと思ったが、1枚だけで当たっても、ボク一人では大阪なんていう遠方に、乗ったことのない新幹線で行けるわけがないから、それはそれで困るなぁ、と布団の中で余計なことを考えたりしていた。
結局当たらなかったから、ボクは万博へは行かなかった。
万博が終わった途端、ウチで食べるラーメンは「サッポロ一番」になった。出前一丁は好きだったけど、万博用ラーメンだったのだ。
とはいえ「ごまラー油」というものを初めて食べたのは「出前一丁」だ。できたものにかけるだけで、格段とおいしくなるので軽く感動した。
当時は土曜日、学校から帰ってのお昼は、サッポロ一番に、豚バラの入った野菜炒めをどっさりのせたものを、母が作ってくれた。サッポロ一番は醤油、味噌、塩と3種類あるから飽きない。今でも好き。時期によって、好きな味のブームがあった。ちょっと前までは塩期長い。今また味噌。
「チャルメラ」もたまーに食べた。小学校の時、授業中にそのCMの「♪明星チャルメラおいしいなあ」というのが頭の中にリピートして、困ったことを覚えてる。覚えてるってことは、何回もそれがあったんじゃないだろうか。
中華料理からの実家の食生活の話は、どうも貧乏臭い話ばかりだ。
でも実際に貧乏だったんだからしかたがない。でもその頃のことを思い出すと、なんだか楽しいのだ。なんともおいしそうなのだ。どうしてだろう。
黒胡麻チャーハンに四川マーボをかけて、これで締めだァ
さて、いつの間にか紹興酒のボトルは2本空いていた。
締めに、黒胡麻チャーハンと、四川マーボ豆腐を頼んだ。もう値段はいいや。
これは編集者女のオススメの組み合わせで、このチャーハンに麻婆豆腐をかけて食べるのがおいしいんだそうだ。
黒胡麻チャーハンは、そのままでもプチプチした食感が混じっていておいしかった。
でもこれにマーボ豆腐をかけると、確かにおいしかった。
マーボ豆腐が辛過ぎないのがよかった。この店は全体的に味付けがしょっぱ過ぎないのもいい。近年、外食の塩っぱいのがダメになってきた。塩っぱいのに敏感になったというか。塩がいらなくなってきたんだろう。
酔ってたので、忘れていたが、これを書くために写真を見たら、マーボ豆腐のみ土鍋に入っていた。すっかり土鍋のことを忘れていた。
あんだけ食べて飲んで、会計は3人で税込7,615円だった。編集者男女はレモンサワーみたいなのも挟んでいたし、やっぱり驚異の安さだ。混むのも当然だ。それが西永福なんていう駅の駅前にあるのがまた面白い。
中華料理というのは、1皿の量が多いから、3人以上いないとつまらない。そして3人以上いるとたくさん頼みたくなって、結局すごく高くつく。しかも食べきれない。ここは全部食べられた。
お腹いっぱいで気持ちよくなった3人は、今度は線路の反対側に行って、住宅街の夜の道を浜田山に向かった。
寒くも暑くもない春のいい夜だ。ほろ酔いそぞろ歩きの楽しさよ。
住宅地の夜は静かだ。ボクらも静かに歩く。
カーテンを閉めた窓から漏れる明かりの中で、家の人たちは何をしているのだろう。
テレビを観てるのか。お茶を飲んでいるのか。宿題をやっているのか。
家という家の中に、外から戻ってきた人たちがいて、まだ寝る時間では無いから、起きていて、なにかしている。でも数時間後にはほとんどの人が、布団の中で意識を失うのだ。
街外れの古いバーの前を通り過ぎ、浜田山駅の南側の線路脇の細い商店街、はまなん横丁を歩く。
古いお茶屋があって、天ぷら屋があって、鍼灸院があって、クリーニング屋があって。
こういう個人商店の集まった街が好きだ。でも今はみんなもうシャッターが閉まっている。
古い店の2階に住んでいる老店主は、風呂に入って、飯を食って、ゴロンとしているのか。
マンションもあるけど、せいぜい3階建てだ。高層マンションはもはや好きじゃないので、いいなと思う。
居酒屋の「かのう」もこの通りにあった。開いていれば、この晩ももちろん入っただろう。
そして最初の方で書いた、浜田山駅の西側の小さな踏切のそばの、その名も「ふみきり」という、初めて入る小さな居酒屋に入った。
近所に住むと思われる若者たちが、楽しそうに飲んでいた。
井の頭沿線、やっぱり好きだな、と思った。
今これを書きおわろうとしたら、急に実家で食べた中華料理に、もう一品好きなのがあったのを思い出した。
ワンタンスープだ。
これは大好きだった。スープは鶏ガラを使って時間をかけて作られた、透き通ったものだった。食べる直前に、具のひき肉が少なめなワンタンを入れる。あとは刻みネギくらいしか入ってない。
これを、スープ皿によそって、スプーンで食べた。
ワンタンがスープと一緒にヘロヘロと口に入っていくのが、なんともうれしくておいしくて、何杯もお代わりした。
でもその横には、お茶碗に入ったご飯と、ナスやキュウリのぬか漬けがあるわけで、へんてこりんな夕飯だ。
紹介したお店
TEL:03-3325-9960
営業時間:11:30~15:00、17:00~23:00
無休
※掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。
著者プロフィール
文・写真・イラスト:久住昌之
漫画家・音楽家。
1958年東京都三鷹市出身。'81年、泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として漫画誌『ガロ』デビュー。以後、旺盛な漫画執筆・原作、デザイナー、ミュージシャンとしての活動を続ける。主な作品に「かっこいいスキヤキ」(泉昌之名義)、「タキモトの世界」、「孤独のグルメ」(原作/画・谷口ジロー)「花のズボラ飯」他、著書多数。最新刊は『ニッポン線路つたい歩き』。