“大学格差”が露骨に表れる一般選抜入学者数の多寡、開き直って「年内入試で定員100%確保」を掲げる大学も(2024年10月27日『ダイヤモンド・オンライン』)

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 「早慶」などの大学群別に一般選抜比率(一般選抜による入学者が入学者全体に占める割合)をマッピングすると、大学の格差が露骨に表れる。難関国公立大学は9割台が多く、下位私立大学では1~2割が珍しくない。特集『大学格差』(全20回)の最終回では、学力選抜ができる大学、できない大学の格差に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美、ルートマップマガジン社取締役・編集長 西田浩史)
● 桐蔭横浜の入学者9割超が年内入試 一般選抜入学0人や数人の大学続出
 一般選抜で合格して2024年4月に入学した人数、わずか33人。神奈川県にある桐蔭横浜大学の24年度入学者は570人で、このうち9割超は指定校推薦や総合型選抜(旧AO入試)などの「年内入試」で集まった。年明けの一般選抜を経て入学する学生は、レアな存在になっている(下表参照)。
 桐蔭横浜大は、幼稚園から大学院までを擁する学校法人桐蔭学園が経営する大学。一貫教育を行う中学・高校は、故・鵜川昇元理事長のカリスマ的な経営手腕などにより、2000年代初頭に開成、麻布、武蔵ら男子御三家に次ぐ東京大学合格者数を叩き出す位置まで上り詰めた進学校だ。一方、大学は受験難度で下位に位置する。
 桐蔭横浜大に限らず、下位大学ほど年内入試へのシフトが進んでおり、一般選抜による入学者がゼロや数人という大学も続出している。
 これから先ますます、受験勉強の成果を試される一般選抜で真剣勝負するのは学力上位の受験生たちに絞られ、一般選抜で受験生を選抜できる大学もまた、一握りに絞り込まれていく。それ以外の受験生および大学の主戦場になっていくのは年内入試。24年度入学者において私立大学の6割が定員割れしており、特に定員が埋まりにくい下位大学の年内入試は、学力問わずの全入状態になる。
 次ページでは、大学群別に一般選抜比率(一般選抜による入学者が入学者全体に占める割合)をマッピングしてみた。すると、大学の格差が露骨に表れた。
● 難関国公立大は一般選抜9割 下位大学は1~2割が珍しくない
 23年度入試で大学全体の一般選抜比率は47.9%と半数を割り、初めて年内入試の割合が半数を超えた。私立大の一般選抜比率については39.7%まで縮小している。
 大学群別に見ると、「旧七帝大」(東京大学京都大学北海道大学東北大学名古屋大学大阪大学九州大学)など難関国公立大学の一般選抜比率は9割前後が多く、準難関国公立大になると8割前後が多くなる。これらのクラスは一般選抜で受験生がしのぎを削り、難関・準難関以外となると、幅が下に広がる。では私立大はどうか(下図参照)。
 最難関「早慶」(早稲田大学慶應義塾大学)、首都圏の難関「MARCH」(明治大学青山学院大学立教大学中央大学、法政大学)、首都圏の中堅「日東駒専」(日本大学東洋大学駒澤大学専修大学)、関西の難関「関関同立」(関西大学関西学院大学同志社大学立命館大学)の一般選抜比率は5割台、6割台が目安だ。なお早慶を例に、「内部進学組は中学入試などで先に受験勉強して厳しい選抜を通っている。彼らも含めたら一般選抜比率は8割くらいになる」(比良寛朗・早稲田合格塾代表)という見方もある。
 上位大学では、一部の大学は例外だが、総じて一般選抜による入学が過半を占める。対して、関西の中堅「産近甲龍」(京都産業大学近畿大学甲南大学龍谷大学)あたりから5割を切る大学、首都圏で日東駒専の下の大学群になる「大東亜帝国」(大東文化大学東海大学亜細亜大学帝京大学国士舘大学)あたりから4割を切る大学が出てくる。
 関西で産近甲龍の下の「摂神追桃」(摂南大学神戸学院大学追手門学院大学桃山学院大学)では2割台の大学もあり、下位私立大学は1~2割が珍しくなくなった。
 一般選抜比率が低くなるほど、上位高校らの一般選抜受験組からそっぽを向かれ、日東駒専などメジャー大学群との併願ラインから外されてしまう。こうして年内入試メインの大学は一般選抜が機能しなくなっていき、「一般選抜入学者ゼロ大学」が大量発生する時代がやって来るだろう。
● 桐蔭横浜は開き直って 年内入試に全力投球
 一般選抜比率が低いことを隠したがる大学は多い。一般選抜受験組に避けられやすくなってしまうし、一般選抜枠を少なくして偏差値の下落を食い止めていると受け止められたりするからだ。
 そんな中で冒頭の桐蔭横浜大は、23年度入試で「年内入試で定員の9割確保」、24年度入試で「年内入試で定員の100%を確保」という目標を明確に掲げ、年内入試に全力投球している。23年度の一般選抜比率は13.4%、24年度はさらに下がって5.8%である。
 年内入試への大胆な目標を隠しもしない開き直りっぷり。これについて同大学は、「極めて大きな転換期であり、学内教職員の意識改革が必要不可欠であることから、23年度入試より、具体的な数値をもって行動目標を設定した」と説明する。
 「教科学力の中だけではなく、課外活動や学校行事などで鍛えた資質能力を伸ばし、真に社会から求められる人材を育成するため、20年度より教育改革に着手した。人生と学びの基盤となる力を、全学を挙げて育成しているところ。大学全入時代において、選択される大学となるために、この力に志向性のある受験生へ広く訴求できる、総合型選抜に重きをおくことした」
 同大学の教育と入試戦略の転換は、自らの今後の存在意義を示すものとなっている。
● 中位・下位大学の存在意義とは? 桐蔭横浜の入学者は定員を上回る
 文部科学省中央教育審議会大学分科会・高等教育の在り方に関する特別部会の資料によると、23年の18歳人口は約110万人で、1966年のピークから半減。さらに2040年には約82万人まで減少すると推測されている。一方で大学進学率は上昇し、23年で57.7%。大学進学者数は約63万人で、1966年から倍増している。18歳人口が減少しても進学率が上昇したため、受験人口を確保できてきた。
 大学は813校まで増えており、入学定員は約63万人。進学率ももう頭打ちになり、2040年の大学進学者数は約51万人と推計される。上記の特別部会は8月に報告した中間まとめの中で「これから先の急速な少子化は、中間的な規模の大学が1年間で90校程度、減少していくような規模で進んでいる」と言及しており、ここから先、大学淘汰が本番を迎える。
 しかも、学生の奪い合いは国内にとどまらない。
 「韓国の大学が日本から学生を引っ張ろうとしている」と拓殖大学入学支援センターの稲富直樹事務部長。「これからは日本と韓国、それ以外の国も含めて互いに引っ張り合いになる」という。
 韓国では日本より先に急速な少子化と大学のリストラが進んでおり、留学生集めを強力に推し進めている。そしてこれは韓国に限ったものではなく、世界で留学生の獲得競争が激化している。
 海外に比べて日本の研究力が低下しており、学力上位の大学は海外からも優秀な頭脳を集めて巻き返すことが至上命令となっている。では淘汰の中心になるだろう学力中位、下位の大学の存在意義は何なのか。そこに桐蔭横浜大は答えを出したわけだ。
 大学進学率が5割を超え、大学はエリートのためだけのものではなく、万人に向けて教育内容の多様化を求められる。入学者の学力が下がるほどに、教育の質も下がることを自ら許容する大学は淘汰されて当たり前。上位大学とは異なる質を追求した上で、それでも生き残れないかもしれないという、過酷な戦いが繰り広げられるのである。
 年内入試に振り切った桐蔭横浜大は、今のところ、定員を上回る入学者を確保している。
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臼井真粧美/西田浩史
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