「いつかこの子をみとって…」 気管切開した息子の成長、喜びと孤独
松本千聖
2024年9月16日11時00分
「ラララにじがにじが 空にかかって」
「きみのきみの 気分もはれて」
埼玉県に住む寅二郎さん(14)は、童謡「にじ」(新沢としひこ作詞)が大好きだ。
出生後に受けた脳の障害によって、医療的ケアを必要としながら生活する寅二郎さんは、呼吸やたんの除去をしやすくするための気管切開をしてから声を出さなくなった。それでもこの曲のサビを聞くと、肩を震わせながら笑って楽しさを表す。
なじみの訪問看護のスタッフがやってきて「とらちゃん」と声をかければ、笑顔を見せ、自然と周囲も笑顔になる。
寅二郎さんが痛みや苦しみをなるべく感じず、穏やかな毎日を過ごすこと。それが母ななえさんにとって何よりの願いだ。
寅二郎さんは赤ちゃんのときに、代謝異常の遺伝性難病「オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症」と診断された。生体肝移植手術を経て病気は治ったが、生後の発作で負った脳へのダメージは大きかった。
口からは十分に食べられないため、胃から栄養を取るための胃ろうをつくり、さらにそれでも足りなくて腸ろうチューブからも栄養や薬を入れられるようにした。感染症にかかれば、予断を許さない状況も経験した。
そんな日常は大変だったが、ななえさんは、寅二郎さんがかわいくて仕方がなかった。特別支援学校に楽しく通い、教室で名前を呼ばれればにっこり笑った。
だが、成長とともに孤独を感じるようにもなってきた。
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