拡大するトランプ王国 あれから4年 グラフィック・加藤啓太郎
トランプ政権が発足した後、私は白人ナショナリズムの取材を始めた。その取材の中で、今でも忘れられない出会いがあった。ここでは、その時の出会いについて動画と一緒に紹介したい。
2017年4月29日。白人ナショナリストの団体の代表者がインタビューを受けてくれることになり、私はアパラチア山脈のど真ん中、ケンタッキー州の東部に入った。
この日、白人ナショナリストの団体はまず、同州パイク郡のパイクビルで集会を開いた。その後、隣接するレッチャー郡の山奥の「私有地」で懇親会を開くことになっており、インタビューはそこで実施されることになった。
懇親会ではセミナーが予定され、代表者が「国家社会主義(National Socialist)の哲学」について講義し、入会方法を説明するという。彼らは2日前から集まり、合宿中だった。
気になったのは、会場が公共の空間から私的な空間に移ることと、その私有地がかなりの山奥にあることだ。スマホの地図には、道のない地点が表示される。トラブルが起きても警察の初動は遅くなる。アジア人の自分が1人で行っても大丈夫か。そんな懸念も頭をよぎったが、AP通信のほか、海外勢ではフランスやノルウェーの報道機関からも問い合わせがあったといい、私以外にも取材に来るかもしれないという。安心材料にはなった。
私有地へは、さらに山奥に向かう1時間ほどのドライブだ。
拡大する白人ナショナリストの集会場に向かう砂利道。途中でGPSも入らなくなり、2キロほど走って到着した=2017年4月29日、ケンタッキー州レッチャー郡、金成隆一撮影
スマホをカーナビ代わりに運転していると、山が深くなるにつれ、電波が不安定に。何度も道に迷い、偶然すれ違った地元ハンターにも道を聞きながら、何とか目的地に近づいた。
舗装道路が途絶え、砂利の一本道になった。砂ぼこりを巻き上げながら走っていると、前方でダンプが真横に停車し、道を完全に封鎖していた。私は20メートルほどの距離をとって車を止めた。
運転席の窓から白人男性が身を乗り出さんばかりの勢いで、こっちに向かって何かを叫んだ。私はトラブルに巻き込まれたことを覚悟した。車の窓を開けると、男性の言葉が聞き取れた。
「こっちに来るな! 引き返せ! 中国人は来るな! 立ち去れ!」
拡大する「中国人は来るな! ここを立ち去れ!」と叫ぶデイビッド。山奥では白人ナショナリストが集会を開いているので、アジア人は危険だとして、記者の車を止めようとトラックで道をふさいでくれていた=2017年4月29日、ケンタッキー州、金成隆一撮影
白人以外はお断り、ということか。すごい迫力だ。私は武装していると誤解されないよう上着を脱ぎ、ズボンのポケットも空にして車から降りた。白人ナショナリストの代表者とインタビューの約束があるから道を譲って欲しい、と頼むためだ。
ゆっくりと近づくと、男性はダンプのドアを開けて話し始めた。
「この先に行くのはやめておけ…