「ジャッソウ、ジョヤサ」。男たちの威勢の良い掛け声が山々に響いた。岩手県奥州市の黒石寺の伝統行事「黒石寺蘇民祭」が17日夜、千年以上の歴史に幕を下ろした。御利益があるとされる「蘇民袋」を、上半身裸で下帯姿の男衆が激しく奪い合う争奪戦が繰り広げられた後、参加者からは「今年で終わりにしたくない」「来年も続けてほしい」と祭りの継続を望む声が多く聞かれた。

 黒石寺は昨年末、関係者の高齢化や担い手不足を理由に、来年以降は祭りを行わないと発表。最後となる今年は、時間を短縮して実施された。

 午後6時、下帯姿の男たちが山内川に入り、頭から水をかぶって身を清めると、暗闇の中を角灯を掲げて薬師堂などを巡り、五穀豊穣(ほうじょう)などを祈った。

 午後10時には「ジャッソウ、ジョヤサ」の掛け声が突然、罵声と怒声に変わる。男たちが蘇民袋を手にしようと、体中から真っ白な湯気を立ちのぼらせて激しく体をぶつけ合った。

 参加した地元の公務員、佐藤幸善さん(39)は「痛かったけれど、みんなが一つのことに夢中になれて、最高に楽しかった」。

 終了後、蘇民祭の継続を望む声があちこちで聞かれた。今年の取主(蘇民袋の締め口を最後に持っていた人)になった同祭保存協力会青年部の菊地敏明部長(49)は、報道陣に「来年以降も、形は変わるかもしれないが、残していきたい」と希望を語った。

 一方、藤波大吾住職(41)は「長きにわたって蘇民祭を支えてくださった多くの方々に感謝の気持ちです」と語り、存続を求める声が上がっていることについては「私は蘇民祭をやめることを決めた人間。今言えるのは、今日をもって終了となりますということだけです」と話した。(三浦英之