朝日新聞記者

記者

高島曜介が記事を書きました

クラウドの乗り換え妨害は独禁法違反 三菱商事子会社に排除措置命令

 建設業向けクラウドサービスの顧客が競合他社に乗り換えるのを妨害したとして、公正取引委員会は24日、独占禁止法違反(取引妨害)の疑いで三菱商事子会社の「MCデータプラス」(東京都渋谷区)に排除措置命令を出し、発表した。クラウド事業をめぐる公取委の同命令は初めて。  同社は、建設現場の作業員情報をクラウド上で管理し、労務や安全衛生管理の書類を作成するサービス「グリーンサイト」などを建設会社に提供している。建設業務系クラウド事業の市場規模は約50億円で、同社は業界最大手という。  公取委によると、同社は2020年以降、「個人情報の保護」などを口実に、クラウド上のもとのデータを顧客に提供することを拒否。また、自社で作成した書類を他社で利用することを約款で禁止して通知するなどし、顧客と別のクラウド事業者の取引を妨害したという。  公取委は、こうした行為によって公正な競争が阻害されているとし、同社に違反行為の取りやめと再発防止を求める排除措置命令を出した。  企業に提供したデータを別の企業に移すことができる「データポータビリティー権」は、デジタル・プラットフォーム(PF)事業者間の乗り換えの壁をなくすものとして、欧州連合(EU)では個人の権利として認められている。公取委の研究機関「競争政策研究センター」が21年にまとめた報告書でも、「PF間の競争を促す」としてデータポータビリティーの重要性を指摘している。

12分前
クラウドの乗り換え妨害は独禁法違反 三菱商事子会社に排除措置命令

井上道夫が記事を書きました

公益通報制度に刑事罰導入へ 対象は解雇と懲戒 改正法案提出方針

 消費者庁の有識者検討会(座長=山本隆司・東京大学大学院教授)は24日、事業者が公益通報を理由に解雇や懲戒をした場合、刑事罰を科すことを求める報告書をまとめた。これを踏まえ、政府は来年1月に召集される通常国会に公益通報者保護法の改正案を提出する方針。  現行の公益通報者保護法では、通報者に対して解雇や懲戒といった不利益な取り扱いをすることを禁じているが、罰則規定がなく、通報者保護の観点から不十分との声があがっていた。刑事罰を導入することで、事業者による通報者への「報復」の抑止力とすることが狙いだ。政府は今後、罰則の程度を詰める。  また、不利益な取り扱いを巡り、通報者が勤務先を相手取って民事裁判を起こした際、公益通報した日から1年以内の解雇と懲戒については、通報者側ではなく事業者側に立証責任を負わせる(立証責任の転換)制度の導入を盛り込んだ。  現行では、「公益通報を理由に不利益な取り扱いが行われたこと」について、通報者が原則、立証することになっている。検討会では、情報や証拠資料が事業者側に偏っていることなどから、通報者の負担軽減を考慮した。  このほか、現在は法定指針で禁止されている「通報者捜し」を、新たに法律で禁止することも提言。検討会ではこれについても罰則を設けるべきだとの意見も出たが、「罰則に値する反社会性の高い行為とまでは言えない」といった意見もあり、罰則規定は見送られた。

12分前
公益通報制度に刑事罰導入へ 対象は解雇と懲戒 改正法案提出方針

河合真美江が記事を書きました

伏見城籠城の鳥居元忠に魅了されて 村木嵐さんが描いた戦国の親子

 村木嵐さんの新刊時代小説「いつかの朔日(さくじつ)」(集英社)は徳川家康に仕えた親子を通して戦国の世を見つめる。いつか天下をとる人だと家康を信じる忠臣たちを描いた連作短編集だ。  家康の忠臣、鳥居元忠にひかれていたと村木さんは言う。少ない軍勢で伏見城に10日以上籠城(ろうじょう)し、主君のために命をかけた。「かっこいいなと。どうしてこのような人になったのか。そのもとには父親忠吉の存在があった」  この鳥居忠吉、元忠の親子を軸として、主君となる家康の成長を浮き彫りにした物語だ。幼いころに父親を亡くし、今川家の人質となった家康。竹千代と呼ばれたころからそばで仕えたのが元忠であり、家康の出世を信じて松平家を支えたのが忠吉だった。「忠吉はつらい時代を耐え抜いた。地味に見えますが、彼もかっこいい」  元忠と父親の忠吉、家康と父親の松平広忠。どちらの親子も、父から息子へ言葉をかけることなく、会えないままでも思いは伝わっていた。そんな親子関係が描きたかったという。  戦国の世は女性にとっても厳しい。武士の妻たちはわが子と引き裂かれたり、家のための結婚を重ねたりもした。幼い家康と別れざるを得なかった母親、於大(おだい)もしかり。「それでも生き抜いた。強いと思います」  つらいことがあって、つい下を向いてしまうような時、今作を読んでほしいと村木さんは願う。「空を見上げたくなるような作品になっていたら」  村木さんは1995年から司馬遼太郎の家で家事手伝いをしていた。翌年、住み込んで3カ月後に司馬は亡くなる。短い時間だったが、その姿は鮮明に残った。「すいすいっと原稿を書き上げているように見えた。ゴミ箱に書き損じもありませんでした」 ■司馬遼太郎の妻、福田みどりさんから教わったこと  司馬と妻の福田みどりさんに書くことを勧められた。「無理、無理」とかわしていたが、みどりさんに「いつか書く道に進んでほしい」と真剣に言われたことが背中を押した。  いざ書くと、司馬を見ていたのとは大違い。たいへんな苦労が待っていたが。  みどりさんは2014年に亡くなった。その最期に向かう暮らしのなかで、この連作短編のいくつかを書いた。苦しい思い出がつまった作品でもある。  みどりさんには作家として自分の芯になるものをすべてもらったと思う。亡くなってからもずっと一緒にいるつもりで、毎日話しかけている。  作家になった時、みどりさんに「ありがとう」と言われた。どんな意味だったか、考え続けている。書けなくてつらい時、「ありがとう」を思い出す。  みどりさんに何も返せなかった。そんな後悔が尽きない。ただ、書くことは手放すまいと思っている。  「本を閉じた時、ああ読んでよかったと思ってもらえる作品を書いていきたい」

42分前
伏見城籠城の鳥居元忠に魅了されて 村木嵐さんが描いた戦国の親子

杉浦奈実が記事を書きました

PFAS規制、水質基準で管理強化へ 11都府県の専用水道で目安超

 健康への影響が懸念される有機フッ素化合物(総称PFAS(ピーファス))について、環境省は24日、規制を強化し、現在の管理の目安「暫定目標値」を水道法上の「水質基準」に引き上げる方針を固めた。この日あった専門家会議で小規模な「専用水道」の調査結果を示し、方針への了承を得た。  PFASは炭素とフッ素が結びついた「有機フッ素化合物」の総称。水道水では現在、代表的なPFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)の合計で1リットルあたり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という暫定目標値が設定されている。  24日は、全国の社宅や療養所などで使うための自家用の小規模な水道「専用水道」の調査結果を公表。対象約8千件のうち回答があったのは1929件で2割強でしか検査実施を確認できなかった。回答のうち、対象期間とした2020年4月~24年9月に10都府県の42件で超過を確認。その後、2カ所の自衛隊基地でも超過がわかり、計11都府県44件となった。  暫定目標値を超えた専用水道のうち、国設のものは▽府中刑務所(東京都)▽陸自小平駐屯地(同)▽陸自東立川駐屯地(同)▽空自府中基地(同)▽空自岐阜基地▽空自芦屋基地(福岡県)――の6カ所だった。  44件中26件は上水道への切り替えなどの対策が済んでいる。ボトルウォーターの配布などの応急対応を取っているのが14件で、残りの4件は今後浄水施設導入などの対策を実施予定だという。  水質基準に引き上げられると、検査などが努力義務の暫定目標値よりも管理が厳格になる。自治体などの水道事業者には水質検査の実施や、基準を超えた場合の対応が義務付けられる。今後、内閣府の食品安全委員会に諮るなどして手続きを進め、26年4月からの実施をめざす。

58分前
PFAS規制、水質基準で管理強化へ 11都府県の専用水道で目安超

北川慧一が記事を書きました

「労働からの解放」実現なるか 厚労省研究会が描くイマドキの働き方

 働き方の多様化に対応するため、労働基準法の改正などを検討してきた厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が24日、報告書をとりまとめた。副業促進に向けた労働時間規制の緩和などに踏み込んだ一方、労使の対話のあり方など残された課題も多い。  「副業時の割増賃金に関する制度は複雑だ。副業を希望する社員に理解してもらうためにも、シンプルになるのはありがたい」  不動産情報サイトを運営するライフルの人事担当者はこう話す。同社では、業種を問わず、他社に雇用される形での副業を認めている。社員に経験を積ませる狙いだが、副業先を含めて労働時間を管理する仕組みは煩雑で、悩みの種だ。労働者の自主申告頼みで、違法リスクも伴っていた。 ■今後の議論、労使対立か  現行制度では、本業・副業先の労働時間を通算し、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えると、契約の先後関係などをもとに割増賃金を支払う。研究会の報告書は「複雑な制度運用が日々求められ、雇用型の副業を難しくしている」と指摘。健康確保のために通算労働時間の把握は残すが、割増賃金の計算では通算しないよう求めた。  ただ、労働組合の中央組織・連合は「長時間労働や過労死などの現実を無視したもの」と批判して現行制度の堅持を主張しており、今後の労使による労働政策審議会では論議を呼びそうだ。 ■連続勤務、13日まで  一方、働き方の規制を強める見直しも多く盛り込まれた。労働者の連続勤務日数については、使用者は「13日を超える連続勤務をさせてはならない」との規定を労基法に盛り込むよう求めた。現行法は、少なくとも週1回の休日を原則としつつ、4週間を通じて4日以上の休日を与えれば足りるとする。さらに、労使協定(36協定)を結べば休日労働も命じられるため、上限なく連続勤務をさせられる制度となっていた。  また、一部の小規模事業場で法定労働時間を週40時間から週44時間に緩和できる特例措置は「撤廃」を提言した。家庭に直接雇われて働く家政婦(夫)にあたる「家事使用人」については、労基法の適用対象とすることを求めた。  研究会の座長を務めた荒木尚志・東大大学院教授(労働法)は「労働からの解放の重要性に着目し、休日規制などで新たな方向性を打ち出したのは成果ではないか」と、1年に及んだ議論を総括した。 ■過半数代表者の改善は道半ば  研究会では「長期的な課題」として今後の議論に委ねられたテーマも少なくない。その一つが、労働者の過半数で組織する労組がない場合に労働者の代表となる「過半数代表者」のあり方だ。法が定める労働条件の最低基準を緩める際の労使協定を担う。  「学校法人側も、正規職員の労働者代表も、非正規の自分たちに寄り添ってくれない」  静岡県内の私立高校で非常勤講師として働く40代の男性は、職場の過半数代表者に何度も立候補してきたが、いつも正規職員に譲らざるを得ず、選ばれたことはない。  非常勤職員に授業1コマ単位で支払われる賃金「コマ給」の改善などを求めてきたが、実現していない。男性は「正規職員が関心を持ってくれないため、改善のしようがない」と嘆く。  研究会の報告書は過半数代表者の機能強化を掲げた。「使用者が指名する」といった不適切な手続きがみられる選出方法のほか、定義や役割の明確化を提言。多様な意見の集約や負担軽減のため、現行法でも複数人の選出が可能だとした。  ただ、海外で普及している従業員を代表する組織や、労使でつくる委員会の設置までは踏み込まなかった。労組が持つ交渉権限が揺らぐという労組側の懸念に配慮した。 ■勤務間インターバルの義務化、踏み込まず  また、研究会は働き方改革関連法の施行5年後の見直しを検討する役割を担ったが、残業時間の上限規制の具体的な改正には触れなかった。終業と始業の間に一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」の義務化も、罰則を科すかや対象企業の範囲で意見が割れ、結論を先送りした。  経済界が求めた規制緩和も、研究会ではほとんど議論されなかった。事前に決めた時間を働いたとみなす「裁量労働制」や、年収が高い専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の適用拡大などは持ち越しとなった。経済界の関係者は「規制強化策の方が目立つ。多様なニーズをくんだ仕組みとしては不十分だ」と語った。  厚労省は2025年に労働政策審議会で議論し、26年にも法改正をめざす。

1時間前
「労働からの解放」実現なるか 厚労省研究会が描くイマドキの働き方

山田暢史が記事を書きました

「クリスマスにはシャケを食え」 農水省が特撮怪人に感謝の理由

 クリスマスの食卓を彩る料理と言えば、チキンなど肉類が人気だが、農林水産省はマグロやサケといった魚介類を食べて欲しいとSNSで訴えている。今年も特撮怪人と協力し、「クリスマスにはシャケを食え」と呼びかけた。一体どんな狙いがあるのか。  「シャーケッケッケッ 今年のクリスマスもシャケ一色に染めてやるーーっ!!」「そうだ、何度でも言うぞっ  今年も言うぞっっ クリスマスにはシャケを食え ! 分かったか~~!!」  農水省はクリスマスイブの24日、X(旧ツイッター)に特撮怪人とタイアップしたメッセージを投稿した。昨年に続き、2年連続の試みだ。  登場したのは2018年から放送されたテレビ番組「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」の敵の怪人「サモーン・シャケキスタンチン」。サモーンは話の中では「クリスマスにはシャケを食え」などと、街中のチキンをサケの切り身に変えていく。サモーンは昨年3月7日の「さかなの日」にも農水省のXに登場。ほかにも魚食の普及に協力したとして、水産庁職員が感謝を伝える動画2本は計10万回以上再生されている。 ■魚介類の消費 ピーク時から半減  水産白書などによると、食用魚介類の1人あたりの年間消費量は、2001年度の40.2キログラムをピークに減少傾向で、11年度に肉類に抜かれ、23年度には、ピーク時の半減近くになった。投稿の背景には、クリスマスをきっかけに消費者の「魚離れ」を食い止めたいという狙いがある。 ■昨年は「メリーブリスマス」  農水省は23日、「メリークリス鱒(マス)」として、サケを使ったホワイトラザニアを紹介し、「シャケもいいけど、ほかのお魚も食べてほしい」とマグロとアボカドの料理の画像も投稿。昨年は「メリーブリスマス」としてブリを使ったサラダやスープ、すしケーキなどのフルコースをXで提案した。広報担当は「サーモンだけにこだわっていない。コラボを通じて、多くの人が魚を食べるきっかけになれば」と話す。

1時間前
「クリスマスにはシャケを食え」 農水省が特撮怪人に感謝の理由

高絢実が記事を書きました

基礎年金底上げ策、「備え」と位置づけ 年金改正議論とりまとめ報告

 来年の年金制度改革に向け、厚生労働省の社会保障審議会は24日、とりまとめ報告書案を示した。最大の焦点だった基礎年金(国民年金)の底上げ策の実施は、結論を得られず、経済成長が鈍い場合の「備え」と位置づけられた。ただ、同省は来年の通常国会に提出する関連法案に盛り込む考えで、実施の場合には「安定した財源の確保が必要」と明記した。  厚労省の試算では、就業する人の数や賃金上昇のペースが鈍いと想定した場合、将来の公的年金の給付水準は現在よりも約2割減少する見通しで、特に基礎年金の低下が目立つ。そこで同省は、今回の改正議論で基礎年金の目減り防止策を強く打ち出していた。  具体的には、会社員らが入る厚生年金の積立金を使う。年金は人口減少や長寿化に応じて給付を抑えているが、積立金の活用で水準下落を防ぐ考えだ。ただ、支給する基礎年金の半分は国の負担で賄う仕組みのため、増やす場合には将来的に兆円単位で追加の財源確保が必要になる。この巨額の財源をめぐって、財務省や厚労省、与党などが水面下で激しい攻防を続けていた。  報告書案では、底上げ策について「経済が好調に推移しない場合に発動されうる備え」と位置づけた。その上で「さらに検討を深めるべき」だとして結論を避けた。 ■幹部にとっても「寝耳に水」  18日にあった自民党の調査会では、底上げ策について党提言として「備え」と言及。厚労省の審議会に向けた地ならしとした。  厚労省が準備してきた改革の道筋に対して、こうした動きは急転直下。幹部にとっても「寝耳に水」の展開だった。  そこには政権の意向も見え隠れする。年金は賃金にも影響されるため、成長型経済への移行をめざす政権の思惑通りになれば、経済が好転して底上げ策なしでも年金水準の下落は防げることになる。底上げ策は賃金上昇などのペースが鈍いケースを想定しており、10日の衆院予算委員会では、赤沢亮正経済再生相が「政権においては、(鈍い)ケースに行かないようにやっている」と答弁した。  それでも、21日に福岡資麿厚労相が省幹部とともに石破茂首相と面会。底上げ策の必要性を説いた。同省は一定の理解を得られたとして、関連法案に盛り込む方向で調整を続ける。  報告書案全体では、制度改革の方向性について、ライフスタイルの多様化を反映し「働き方に中立的な制度」をつくると明記。高齢期の経済基盤を安定させ、所得の再分配機能を強化するとした。  パートの人らが手取り減の目安と意識する年収「106万円の壁」については、賃金条件の撤廃を明記。「従業員51人以上」の企業規模条件も撤廃と結論づけた。制度改正により、週20時間以上働く短時間労働者は厚生年金に加入するようになる。  働く高齢者で一定の収入がある人の厚生年金を減額する「在職老齢年金」は見直しを打ち出した。65歳以上で働く場合、賃金と厚生年金(基礎年金を除く)の合計が50万円を超えると、厚生年金(同)が減額され、一定額を超えると全額カットされる。政府内では、62万円への引き上げが検討されている。  報告書案では、遺族厚生年金の見直しや高所得者の保険料増なども盛り込んだ。厚労省は、年明けから与党と調整し、法案化の作業を進める。 ■年金制度改革に向けた報告書案 改革の項目→報告書案の内容 ・基礎年金の底上げ  →「経済が好調に推移しない場合に発動されうる備えとして位置づけ、検討を深める」 ・年収「106万円の壁」  →賃金・企業規模条件を撤廃 ・5人以上の個人事業所の厚生年金加入  →飲食サービス業など「非適用」業種を解消 ・働く高齢者の年金カット  →制度の見直し ・高所得者の保険料増  →月々の収入ごとにまとめた等級を新設して対応 ・「3号被保険者」制度  →パートで働く人らの厚生年金加入を進め、3号の対象者を減らす ・子のない夫婦の遺族厚生年金  →男女差を解消して有期給付に ・子がいる場合の年金加算「加給年金」  →給付を拡充

1時間前
基礎年金底上げ策、「備え」と位置づけ 年金改正議論とりまとめ報告

東野真和が記事を書きました

「若者を呼び込む唯一の仕組み」 災害の復興支える地域おこし協力隊

■現場へ! 地域おこし協力隊(4)  行楽シーズンたけなわの11月半ば、阿蘇カルデラの中を走る南阿蘇鉄道(南鉄)の終着駅、高森駅(熊本県高森町)に観光客を乗せたトロッコ列車が着いた。  敬礼して迎える社員の宍戸優介(27)は昨年秋まで、金子大希(29)は今年春まで、それぞれ高森町の地域おこし協力隊員だった。  鹿児島市出身の宍戸は2016年4月の熊本地震前に、南鉄に採用が内定していた。しかし、南鉄は地震で鉄橋が落ちるなど被害は甚大で、内定は取り消された。7月末に一部開通したが、全面開通には国の支援を待つしかなかった。宍戸は別の鉄道会社に就職したが「再出発の力になりたい」とずっと願っていた。  一方、当時南鉄の社長だった高森町長の草村大成(57)も、復興やその後を担う人材を早く確保したかった。目をつけたのが、国費で費用を賄える地域おこし協力隊制度だった。「活用できないか」と総務省の担当者に直談判して認めてもらった。  宍戸ら通算11人が隊員として携わり、4人が任期後に社員に、1人がまだ隊員として働く。宍戸と金子は隊員のうちに運転免許を取り、23年7月の全線開通に間に合った。  今年3月の決算は開業以来2度目の経常黒字となった。現社長の津留恒誉(58)は「部分運行に加えコロナ禍で乗客が激減した時期もあり、隊員がいなければ前向きな準備ができなかった」と振り返る。  2人は他の社員同様、観光客に阿蘇五岳など観光案内をしながら運転する。沿線の駅の畑から運転席に「食べて」と野菜の差し入れが来るほど、地域になじんでいる。  南鉄社員は一人何役もこなさねば務まらない。宍戸は総務を担当。南鉄のトレードマークのデザインもした。金子は施設管理も担当し「社員が増えれば技術系の仕事に専念したい」と話す。 ■能登の復興支える協力隊経験者  能登半島地震の被災地・石川県珠洲市にある「あみだ湯」を切り盛りする新谷健太(33)は、同市の地域おこし協力隊員第1期生だった。20年に終了後、子どもらの居場所づくりなどをしているが、銭湯を継いでくれと頼まれ、準備中の今年元日に地震に襲われた。水道は断水したが、風呂は地下水を使っていたので、機械類を直して19日に再開。被災家屋の廃材で湯をわかした。  補修や清掃などの人手を補うのに力になったのは、協力隊経験者たちだ。全国のネットワークがボランティアの受付サイトを作りオンラインで派遣管理をしている。市内在住の元隊員があみだ湯に集まり、地域の被災者支援活動の拠点となっている。「被災家屋の片付けなど、行政の手が届かないニーズもある。地区に20~30代は数えるほどしかいない。私たちに頼らざるを得ない状況だ」  10月、被災者のニーズと支援を結びつける中間組織として一般社団法人・能登官民連携復興センターができた。代表の藤沢烈(49)は、東日本大震災の被災地・岩手県釜石市で若者中心の復興支援組織「釜援隊」を立ち上げた経験がある。  まず地域づくりや生業の復興に向けて動き始めた団体をサポートする人材として地域おこし協力隊員を起用すべく人選を進めている。  「住む所がないなど課題はあるが、若者を呼び込むしくみは、現状では地域おこし協力隊しかない」=敬称略

3時間前
「若者を呼び込む唯一の仕組み」 災害の復興支える地域おこし協力隊

富田祥広が記事を書きました

54歳と19歳の同期2人、盲学校で描く未来 心も温めるマッサージ

 「つらいところはありますか?」「ここ、痛いですか?」。ベッドに横たわる人の肩や背中に、指先や手のひらを優しく当てて、もみほぐす。鳥取県立鳥取盲学校(鳥取市)の「治療室」。54歳と19歳の同期の生徒2人が、地域の人たちにマッサージをして交流を深めた。  54歳の清水香世さん=鳥取県米子市=は先天性の病気で生後すぐに手術を受けたが、左目を失明し、右目の視力も弱くなった。県西部の小中高校を卒業し、飲食店や役場の事務補助などの仕事をしてきた。22歳で結婚。息子3人は成人し、孫も1人いる。  4月に鳥取盲学校の専攻科理療科に入学した。あん摩マッサージ指圧師やはり師、きゅう師をめざす専門学科だ。生徒は1年生の自分だけ。「盲学校で学ぶのは勇気がいる。でも、『やってみるか』と思ったんです」  マッサージには以前から興味があった。一歩を踏み出したのは、父が体を動かせなくなる難病を抱えたからだ。「痛みを和らげたり、体の動きを少しでもよくしたりしてあげたい」。昨年10月には姉を亡くした。「私もいつ何があるか分からない。やりたいことはやっておこうと思いました」  あん摩マッサージ指圧師などの国家資格取得をめざし、知識や技術を3年間しっかり学ぶ。「私自身、目が見えにくいせいで頭痛薬を手放せなかった。同じような症状や難病を抱える人を楽にしてあげられるよう、留年せずに頑張ります」  19歳の田中心愛(ここあ)さん=鳥取県大山町=は生まれつき視力が弱かった。小中学校は地域の学校に通ったが、白杖(はくじょう)を手に歩いたりサングラスをかけたりするのは自分だけ。教室の席はいつも一番前。席替えでは最前列で横に移るだけだった。  「自分にとって一番良い進路を考えたい」と、鳥取盲学校の高等部普通科に進んだ。校舎内の廊下は真ん中に点字ブロックがあり、通行の邪魔になるものは何もない。同級生はおらず、3年間1人きりだったが、「配慮の行き届いた学校で先生たちも親切。高校生活はキラキラしていました」。  3月に卒業し、4月に高等部保健理療科に入学した。あん摩マッサージ指圧師をめざすのに必要な専門教科を3年間かけて学ぶ。「就職や今後の生活のことを考えると資格は大切。両親や先生と話し合って決めました」  保健理療科の生徒は1年生の自分1人だが、実技の授業は35歳上の清水さんと一緒に受ける。「私も頑張ろうという気になります」。平日は学校の寄宿舎、週末は自宅で過ごす。「将来はひとり暮らしをしたい。目標があって、今、すごく充実しています」  2人は12月5日、地域の人たちを学校に招いてマッサージする「あん摩奉仕」の活動をした。明治43(1910)年創立の学校で、半世紀以上続く伝統行事だ。それぞれ3人ずつを担当。学校周辺を歩いている時に声をかけてもらうなど、日ごろ支えてもらっている地域の人への感謝の気持ちを指と手に込めた。  82歳の女性は「1年生なのに、すごく上手だった。世間話も楽しくて、体も心もぽかぽか温まった」。清水さんと田中さんは、先生から「みなさんに同じようなリズムでできていた。自信になると思う」とほめられた。

4時間前
54歳と19歳の同期2人、盲学校で描く未来 心も温めるマッサージ

足立朋子が記事を書きました

藤沢駅前の「秘境」ビルが「シンブン」発行 安齋肇さんら描き下ろし

 「藤沢の秘境」「ビルの中に下町がある」などと形容され、半世紀以上にわたり親しまれている藤沢駅直結の商業ビル「フジサワ名店ビル」。その運営会社によって9月に創刊されたフリーペーパー「名店シンブン」が話題だ。  ビルゆかりのアーティストが毎号表紙を描き下ろし、思い入れを語る構成で、9月の創刊号は、かつて市民だったイラストレーターの安齋肇さんが担当。「通っている人たちが温かくて、やさしくて、おごることなく庶民的」と懐かしんでいる。  閉館が予定される3年後までに全9号を発行する予定で、発行人で藤沢育ちの増田隆一郎さん(48)は、「次はだれのどんな作品になるのか、街のみなさんとワクワクしながら待ちたい」と話す。 ■印象は「カオス」  名店ビルは駅南口で1965(昭和40)年に創業。7階建てで隣接するダイヤモンドビル、CDビルと3棟が一つの建物のようにつながり、鮮魚店や青果店、喫茶店や書店など約30店舗がある。  整然とした最近のビルとは違い、市場を思わせる生鮮食品売り場や迷路のような店舗の配置、個性あふれるテナントなどで、昭和の香り漂うレトロビルとして知られる。  6年前にビルの取締役となり、各階をくまなく回るようになった増田さんの印象は「カオス」だった。 「例えばサーティーワンアイスの前がペットフード店だったり、朝早いからって午後3時には商品に布をかけて帰っちゃう店主がいたり……」  あまりに面白く、まだビルに足を踏み入れたことのない人にも知らせたいと始めたのが、今やビルの名物になった巨大な懸垂幕だ。 ■9号に濃い人選9人  ビルの広報戦略を担当する増田さんは、一般的には催事やセール告知などに使われる懸垂幕に、ビルの「世界観」を伝えるメッセージを掲げることを発案。縦14メートルの幕に「ダンディまるだし」「規格外」などと書いたところ、SNSなどで大きな話題となり、来館者も増え始めたという。  手応えを感じた増田さんの次の一手が、今回の「シンブン」。藤沢に転居してきた30~40代が「あの人も通っているのか」とビルをのぞいてみたくなるような「濃い人選」を探ったところ、様々な藤沢ゆかりの著名アーティストが、テレビ番組や文章などで名店ビルに言及していることがわかった。  「ダメ元でイラストをオファーしてみたら、みなさん引き受けてくれて。おかげさまで9人のラインアップはほぼ決まっている」と改めてビルの人気を実感したという。 ■トリビアやコラムも  編集は、サーフィン雑誌の編集長を歴任した湘南在住の佐野崇さんに依頼し、楽しいインタビューや、ビルの豆知識「名店トリビア」を連載。  ライター・船木三秀さんのコラム「追憶のフジサワ」、伝説のサーファー兼写真家・横山泰介さんが店主らを撮り下ろすポートレート「名店ジンブツ」も好評だ。  創刊号で写真のモデルとなった鮮魚店「湘南 魚つる」の岩田實さん(85)は、発行直後から店で何人もに「いい写真だった!」と声をかけられたという。  「毎日1時に起きて市場を回る仕事だけど、こうやって会いに来てくれるお客さんがいるんだからまだまだがんばらないと」と笑顔になった。 ■再開発後もストーリーを  ビルは老朽化が進み、3年後に閉館して取り壊し、3棟を一体化した新たなビルに再開発されることになっている。  まだ詳細は決まっていないが、増田さんは「個人的には、再開発できれいになったけど、今までのストーリーがプツッと切れたような場所には魅力を感じない」。「駅前は賃料が高いのでチェーン店ばかりになりがち。名店ビルのような『そこにしかないもの』を、藤沢に取り戻していきたい」と話す。  「名店シンブン」は各回約3万部発行。駅周辺地域の新聞折り込みや飲食店などで配布している。表紙絵はビルの懸垂幕としても掲げられる。  今月13日発行の第2号は、グラフィティアートで国内外の注目を集めるESOW(エソウ)さんが担当。年3回のペースで、次号は来春を予定している。

4時間前
藤沢駅前の「秘境」ビルが「シンブン」発行 安齋肇さんら描き下ろし

林敏行が記事を書きました

珠洲宝湯、100年超の歴史更地に 喪失感超え「ここでまた銭湯を」

 「今は笑ってもいいかな。あの時は、笑っちゃいけない気がしてたけれど」。橋元宗太郎さん(41)は表情を崩した。  明治中期から続く、石川県珠洲市の銭湯「宝湯」の4代目。かつて芝居小屋や遊郭も備えた本館は、能登半島地震で倒壊した。11月末に公費解体が終わり、更地には源泉が湧くパイプだけが突き出ている。  「ほとんど誰も住んでいない地域になって、ここで商売をやる必然性は普通ない。でも、珠洲が好きで、残って頑張っている人たちに、風呂に入ってほしいんですよね」  公衆浴場として再開し、歴史が詰め込まれた本館のような建物を、またつくりたいと思い描く。  無事だった簡易宿泊所の別館へお湯を引き、2月10日に地元向けの入浴支援を開始。3月25日から復旧事業者らの宿泊も受け入れた。ほどなく、「協力公衆浴場」が対象となる県の被災者向け入浴料補助制度から、簡易宿泊所は外れた。連日約15人を受け入れる宿泊所の運営に追われ、地元の役に立てない無力さを感じた。  喪失感も急に襲ってきた。本館解体の事前調査が終わった8月、三男と行った地元のおもちゃ屋で、「うち、畳むんで」とぼそっと言われた。子どもの頃、自身も父にウルトラマンのおもちゃをねだった店だった。  「感情がまひしてたんでしょうね。宝湯も同じで、なくなる現実が悲しいと、ふと気付いた」  今、更地を見て思う。「悲しいではなく、むしろすっきりした、これからだという気持ちです」

4時間前
珠洲宝湯、100年超の歴史更地に 喪失感超え「ここでまた銭湯を」

日比野容子が記事を書きました

京都の昭和初期の名建築がホテルに 旧鳴滝寮 重森三玲の庭園も復元

 昭和初期の名建築とされる「旧鳴滝寮」(京都市右京区)が改修され、高級ホテル「Hotel宇多野京都別墅(べっしょ)」としてオープンした。ホテルニューアワジ(兵庫県洲本市)が手がけた。京都市独自の「上質宿泊施設誘致制度」が適用された、開業第1号だ。  市などによると、旧鳴滝寮は1939(昭和14)年、電力会社・京都電燈の重役の邸宅として建てられた。昭和の作庭家・重森三玲による庭園もある。譲渡を受けた市は戦後、交通局の保養所としていたが、2015年に売却。その後は所有者が変遷した。  ホテルニューアワジが19年に土地・建物を取得。総事業費約17億円をかけ、昭和初期の大規模邸宅建築を復元した。敷地面積は3158平方メートル。書院造りや数寄屋建築の意匠が施された本館、アールデコ風の洋館、新館の3棟からなり、全10室。11月に開業した。同社としては京都で3カ所目、西日本で18カ所目の宿泊施設となる。  ホテルニューアワジグループの木下紘二副社長は「消えた地域の灯(ひ)をもう一度灯(とも)したいという思いで、史料に忠実にリノベーションしました」と話す。  市の上質宿泊施設誘致制度は、住民生活との調和を前提として、そこでしか味わえない京都の魅力を体験できる上質な宿泊施設を誘致する制度。この制度の適用を受けたホテル建設は仁和寺(京都市右京区)や相国寺(京都市上京区)の近くでも計画されている。

4時間前
京都の昭和初期の名建築がホテルに 旧鳴滝寮 重森三玲の庭園も復元

松本紗知が記事を書きました

ブルーシートの壁、見ず知らずの誰かの思い出…五者五様の写真表現

 まさに五者五様。東京都写真美術館(恵比寿)の「現在地のまなざし」展はテーマも手法も大きく異なる5作家の作品を紹介し、写真を用いた表現の多様さ、幅広さを実感させる。  将来性のある作家の発掘を目的とした、2002年から続く「日本の新進作家」シリーズの21回目。大田黒衣美、かんのさゆり、千賀健史、金川晋吾、原田裕規の5人が出展している。  宮城県生まれで仙台市を拠点に活動するかんのさんは、郊外の新築住宅などを撮影したシリーズを展示している。  真新しい住宅の外観はありふれていて、どこの地域とも特定ができない。しかし後半では、かさ上げされた造成地や工事中の様子が写り、看板に「閖上(ゆりあげ)」「富岡町」といった東日本大震災の被災地の地名が見え、これらが東北の写真だとわかる。  展示室の一角には、一面青色の壁が。  ブルーシートの写真をプリントしたもので、「ブルーシートの青は、何かが起きたあとに立ち現れてくる象徴的な青」とかんのさん。  その壁には福島の原子力発電所を遠くから写した写真1枚だけが掲げられている。鮮烈な青色とともに、原子力災害が今も続く現状が静かに突きつけられる。  「今回の展示の話をいただいたときに、原子力災害や震災のことを声高にやるのもどうかなと思ったけれど、やっぱり避けられないし、現在進行形なので。災害によって変化が起こった後の風景も入れたいと思い、最後に入れました」とかんのさんは言う。  一方で、見ず知らずの誰かが撮った写真を作品にしたのが原田さんだ。  「One Million Seeings」は、廃品業者などから引き取った持ち主がいなくなった大量の写真を、原田さんが24時間かけて1枚1枚眺めていくという映像作品だ。家族のだんらん、旅先での集合写真、結婚式や卒業式などの人生の節目。名前も知らない誰かの思い出が、次々と現れる。  「ある人にとって大事な写真も、その人が亡くなればその写真の価値は共有できない。でも、違う形で残すことができないかと思い、映像を見た方もそれを追体験できればと思って取り組んだ作品」と原田さん。  映像で使った写真の山も会場に展示されていて、手にとって見ることもできる。写真をデータで見ることの方が多くなったいま、誰かに大切に保管されていたモノとしての写真の存在感に気おされる。  そのほか、猫の背にくりぬいたチューインガムを載せた絵画のような写真(大田黒さん)、特殊詐欺をテーマにしたインスタレーション(千賀さん)、失踪を繰り返す父のポートレートと自身を含む男女複数人による共同生活の記録(金川さん)と、作家ごとに全く違った展示空間が広がる。写真表現の現在だけでなく、社会の現在をも照らすような内容だ。  ▽1月19日まで。12月29日~1月1日と6、14日休館。

4時間前
ブルーシートの壁、見ず知らずの誰かの思い出…五者五様の写真表現

内田快が記事を書きました

坂本花織、樋口新葉…シニア選手が持つ力とは 本郷理華が見た全日本

 大阪・東和薬品ラクタブドームで開催されたフィギュアスケートの全日本選手権は22日、坂本花織(シスメックス)の女子4連覇で幕を閉じた。  2位に入ったジュニアの16歳、島田麻央(木下グループ)は3年連続となる表彰台。樋口新葉(ノエビア)は3位に食い込み、3大会ぶりにメダルをつかんだ。  2015、16年四大陸選手権銅メダリストの本郷理華さんに、今大会の女子の戦いを振り返ってもらった。 ■シフト制かと思うときも  全体的に、見ているこちらにも緊張感が伝わってくる大会でした。やはりその分、経験値の高い坂本選手、樋口選手がしっかり力を出せているという印象がありました。  坂本選手は全員から追われる立場で、演技の順番は島田選手の直後。気にし始めたら、多くのことがのしかかってきそうな状況でした。が、自分の演技に集中していました。  ジャンプは大きく、相変わらず幅もありました。ジャンプというのは、同じことを意識しても、いつも同じジャンプができるわけではありません。例えば、「真っすぐ上がる」という意識を持った方がうまくいく時もあれば、「後ろに流れるように滑らせる」という意識の方が良い時もあります。  私の場合は「ルッツが良い時はフリップが良くない」とか、「サルコーが良い時はトーループがダメ」など。「シフト制なんかな……」って思うくらい、全部がバチッとそろう時は少ないのです。だから、色々な工夫が必要になります。  その中にあって、坂本選手は大舞台で大崩れしていません。今大会、フリー後半の3回転―3回転の連続ジャンプを成功できなかった点や、坂本選手自身が改善点だと思っているところはたくさんあるのかな、と思います。それでも、「強い」という印象を受けました。怖い物知らずで「グングン来ていた感」があった10代の頃に比べ、表現力の幅も広がっています。  これは、色々なプログラムで、色々な表現をしてきたからこそ。そういうものは長くやっていかないと身につかないものだと思っています。 ■振り付け、音楽、気持ちが合ってこそ  長年の努力が結果として表れているのだと思います。それは樋口選手についても同じです。  特にフリー。音の表現、一つ一つの手の動かし方に気持ちがこもっているようで、音楽ともマッチしていました。  振付師のシェイリン・ボーンさんが求める「気持ちを表に出す力」を、樋口選手は(演技に)落とし込むのが上手。あの演技の迫力は、振り付けと、音楽と、内側からこみ上げてくる気持ちが合っているからこそできることなのかな、と。  シェイリンさんは、何シーズンも樋口選手の振り付けをしています。だからこそ、選手の良さがどこにあるかを分かっている。すごくゆっくりな曲で同じ表現をしても、同じような迫力が出るか分かりません。選曲を含めて良さを出していると思います。樋口選手も自分の強みを理解しています。  さらに、復帰して2シーズン目での表彰台という点も特筆すべきことです。私も1年間の休養をしてから復帰したことがあります。ただ、途中で「休まんかったらよかったな……」と思いました。  休んだことで、ジャンプの感覚は別物になり、フリーが滑りきれない。曲を流しつつ、ジャンプとスピンを抜いてプログラムを滑る「スルー」という練習があります。初めの頃はそれをやっただけで苦しい。休養前にフルで演じていた時より苦しいんです。それほど体力が失われていました。 ■坂本、樋口との違いは  2位に入った島田選手は、一番落ち着いているように見えました。  私がジュニアの頃、「シニアに挑戦する立場」だからと、怖い物なしでできたシーズンがありました。でも、島田選手はそういった感じではなく、大会前も演技後も、冷静に自分を客観視しているような印象がありました。  シニアとジュニアが同じ大会に出ると、一歩一歩の伸び、スピード感、リンクの使い方、音の取り方、余韻に差があるように見えることがあります。そういった部分について、島田選手と坂本選手、樋口選手をよく比べると、違いがあるかもしれません。それでも、伸びしろを残してもシニアと戦いここまで結果を残していることは本当にすごいことです。 ■知子ちゃんと似ているところ  4位の千葉百音選手と島田選手は、浜田美栄先生に習っている選手です。  (17年に全日本4連覇を達成した宮原)知子ちゃんも、浜田先生の教え子。私も一緒に試合に出ていたのですが、知子ちゃんは一つ一つの所作がとてもきれい。指先や足のつま先、フリーレッグ……もちろんジャンプの完成度も高い。本当に細かいところまで神経が行き届いていて、「注意してやっている」というのが外からも見えて、見習いたいと思っていました。滑りも上品で、きれい。フィギュアは美しさを求めるスポーツ。そういうところを追求しているのかな、と。  そういった印象を、島田選手と千葉選手の滑りにも感じました。チーム内の選手の誰か、ではなく、みんなが所作が美しい。浜田先生のご指導はもちろん、周りに強い選手がたくさんいて、刺激し合い、みんなで強くなっているのかなと思いました。

4時間前
坂本花織、樋口新葉…シニア選手が持つ力とは 本郷理華が見た全日本

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