「クワイエット・ラグジュアリー(静かなるラグジュアリー)」とは、自らの富を誇示しながらも度を越さないテクニックのことだ。最近、ますます多くのセレブリティがこの新たなファッショントレンドに夢中になっている。SNSでメンズスタイルのアカウントを見れば、リネンシャツやテーラードパンツはもちろん、淡くニュートラルなカラーパレットのモノクロームルックに出会わないことはない。
しかし、このように控えめなスタイルを着こなすには少々のコツがいる。けばけばしいロゴよりも、美しいファブリックやエレガントな仕立てに注目したいところだ。その発想の源から歴史、トレンドを牽引してきたブランド、そして着こなしのアドバイスまで、クワイエット・ラグジュアリーについて知っておくべきことを紹介しよう。
クワイエット・ラグジュアリーの再来
「クワイエット・ラグジュアリー」という言葉を聞いたことがない人には、もしかしたら「オールドマネー」のほうが馴染み深いかもしれない。ファッションにおいて、この2つはほぼ同義だ。控えめなエレガンスを指向するこのトレンドが一般に広まったのは1980年代。明るくはっきりとした色がファッションで支配的だった当時、いくつかのブランドがよりタイムレスなデザインアプローチに回帰した。エキセントリックな服との決別は、ポロシャツやローファー、伝統的なレザーバッグなど、裕福なアメリカ人らしい上品なスタイルの再来を呼び寄せた。
その後、ストリートウェアの台頭によって影の薄くなっていたクワイエット・ラグジュアリーが、ここ数シーズン、ファッション業界で急速な復活を見せている。SNS上のインフルエンサーたちも派手な格好を捨て、よりエレガントで控えめかつ洗練されたルックを取り入れるようになってきた。実際、クワイエット・ラグジュアリーとは単なるトレンド以上に、ひとつの生活様式なのである。その考え方の根本には、慎み深さや節度、ミニマリズムがある。それは、スタイルによる新たな鎧であり、今の時代にはびこる浅はかで表層的な態度に対する返答なのだ。
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このアプローチに特に関わりの深いブランドがいくつかある。ラルフ ローレン、オルセン姉妹のザ・ロウ、ジェリー・ロレンゾのフィアオブゴッドがそうだ。これらのブランドは毎シーズン、思慮深さと真面目さを体現したコレクションに磨きをかけ続けている。ほかにも、決まったトレンドを追求することをやめないブランドがあるいっぽうで、多くがクワイエット・ラグジュアリーに目を向けるようになってきている。
このトレンドは、2024年春夏メンズ・ファッションウィークでもあらゆるところに表出していた。最新版のオールドマネー・ルックをオフィシン ジェネラルやアルマーニ、エルメス、ゼニアが披露し、かつてと同じように今でも、真のラグジュアリーはロゴにばかりあるわけではないのだと再認識させてくれた。
「レス・イズ・モア」が鍵
このトレンドをうまく着こなすための最も有益なアドバイスを教えよう──レス・イズ・モア。それ以上に、余計なことをしないこと。そして、よりうまくやること。リネンやオーガニックコットン、ウールなど、考えられる限り最高の自然素材を常に選ぶこと。そして何よりも重要なのは、モノクロームにまとめることだ。
服の仕立ても重要なポイントだ。オーバーサイズは定石に反する。ストレートカットを選ぼう。ウエストが絞られているものもいい。シャツとセーターのように重ね着するのもいいが、夏はポロなどの半袖のシャツを選びたい。小物についてもルールは同じだ。大きな腕時計や派手なサングラスのことは忘れよう。冬ならウールのスカーフを巻きたいところだ。アンティークのジュエリー、シグネットリングやレザーのクラッチバッグがルックを完成させてくれる。
ハリウッドスターの多くが、クワイエット・ラグジュアリーをうまく取り入れている。その中でも傑出しているのが、ほかならぬデヴィッド・ベッカムだ。彼は、ジャックムスの2023年秋冬ショーでまたしても着こなしの妙を披露してくれた。ヴェルサイユ宮殿のグランカナルに浮かべたボートから妻ヴィクトリアとともにショーを観覧した彼は、美しいリネンのセットアップを身に着けていた。
前述のように、多くのラグジュアリーブランドが、この貴族的なスタイルにインスピレーションを得たコレクションを展開している。エルメス、ゼニア、ベルルッティ、アルマーニなどがそうだ。しかし、財布の紐が気になるのなら、リッチに見栄を張るために貯金をすっからかんにする必要はない。
人気の高まりを受けて、多くの主流ブランドがカスタマーの要求に応えようとこのトレンドを受け入れるようになってきている。もう少し下の価格帯で静かなラグジュアリーを取り入れたい人は、次のブランドに目を向けてほしい。マッシモ ドゥッティ、ポール・スミス、オフィシン ジェネラル、ユニクロ、ブルックス ブラザーズ、ラコステ、フレッドペリー、そしていつだって頼りになるラルフ ローレンにも。
From GQ France Adapted by Yuzuru Todayama