1975 年 53 巻 3 号 p. 203-213
冬の季節風による日本海沿岸の降雪中の化学成分,放射性核種および安定同位体を分析した.一続きの降雪内では雪の塩化物濃度は同じ海洋起源のナトリウムばかりでなく,他に起源を求められるカルシウム,硫酸塩,放射性核種ともよい相関性を示している.これは対流性雲から生ずる雪による化学成分の除去過程ではレインアウトの効果がウオッシュアウトより大きいためと考えられる.北海道,厚沢部での雪のラドン娘核種210Pb,210Biおよび210Poから1kgの雪をつくるのに関係した空気量は2000m3STPと計算された.Isono et al.(1966)の結論とは違って,雪の酸素同位体組成は海面の温度や雪が生成する温度には支配されていず,大陸から供給される水蒸気量と太平洋側に抜けていく水蒸気量の日本海から蒸発した水蒸気量に対する割合に支配されていることがわかった.得られた結果が相互に矛盾していないことを冬の季節風内での水と化学成分の収支を定量的に考察することによって確かめた.