日銀の「資金循環勘定」によると、今年3月末の家計金融資産は2,199兆円となりました。この1年で146兆円増えたことになり、一見すると家計の懐具合は豊かに見えます。しかし、実態はこの数字に反し、貯蓄できない家計の窮状が隠されています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年7月31日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
株高による見た目の資産増
まず、家計の金融資産は、見た目ほど増えてはいません。この1年間で増えた146兆円の内訳をみると、その大半の102兆円が株・投信の増加によるもので、現預金は1年で12兆円(1%増)、保険・年金等が8兆円の増加となっています。
株・投信の増加分102兆円も、その内訳は価格上昇効果による「評価増」で、新規の購入によるものではありません。株価が上昇している時期は評価額が増加し、6月末分も恐らく株の評価額はさらに増加しているとみられますが、あくまで評価額の増加にすぎません。
足元で日本株が下落しているので、その影響はいずれ金融資産の減少要因になります。
株以外は物価高で目減り
この1年でみると、株資産の増加(増価)率は33%で、ここで利益確定していれば、物価上昇分をはるかに超える利益を得ていることになりますが、実現していなければ「含み益」にとどまります。
またそれ以外の資産、例えば金融資産の約半分を占める現預金は1106兆円から1,118兆円となり、物価上昇を考えると実質減少となります。保険年金も同様に目減りしています。
株を保有している人は物価高でも金融資産の購買力は維持できていますが、株を持たない9割弱の人にとっては、この2年間の大幅物価上昇で保有する金融資産の実質価値は減少を続けています。
その減少分を補填する必要があるのですが、現実は厳しいものがあります。
新規貯蓄の余裕なし
そこで内閣府の「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報」をみると、2023年度の名目の家計可処分所得316.8兆円に対して家計最終消費額が314.8兆円で、この1年間の貯蓄額はわずか1.3兆円(所得と消費の差とあいません)に過ぎません。
それも今年1-3月に住民税非課税世帯に物価高支援金7万円の支給があり、低所得高齢者世帯中心に貯蓄が1.7兆円あったためで、これを除くと貯蓄はマイナスになります。
この「貯蓄できない状況」は近年徐々に進行してきました。例えば、90年代後半は年間貯蓄額が平均して30兆円ありました。それが2000年代になって最初の10年は年平均10兆円前後に低下し、アベノミクスが始まった2013年からの3年間はマイナスからゼロに後退しました。