日本人の約4割が睡眠不足と言われ、さまざまな健康被害のリスクや日本経済への影響も懸念されています。
今回は、日本人の睡眠不足をテーマに、「睡眠負債」とはなにか、睡眠負債を解消するためのコツ、睡眠負債を解消する方法としての「スリープテック」をご紹介します。
睡眠不足が引き起こす「睡眠負債」とは?
睡眠不足は多くの人が直面する問題であり、睡眠不足が続くと様々な健康被害が生じることが知られています。
「睡眠負債」とは、不十分な睡眠時間が借金のように徐々に蓄積され、心身に悪影響を及ぼすことです*1。
例えば、1週間に毎晩6時間しか睡眠をとらなかった場合、通常必要な6.5~7時間の睡眠量に対して、合計3.5~7時間の睡眠不足が蓄積されることになります。これが睡眠負債と呼ばれるものです。
1989年の厚生労働省の調査によると、男性の37.5%、女性の40.6%が6時間未満の睡眠で、特に30代~50代の男性、40代~50代の女性でその割合は4割を超えています*2。
睡眠負債は、身体にさまざまな影響を与えます。疲労感、倦怠感、免疫力の低下などを招くほか、肥満、糖尿病、脳卒中、高血圧など、生活習慣病の発症リスクが高まるのです。
また、認知力や判断力の低下、不安定な感情、抑うつ状態など、精神的な問題が起こるケースもあります。
仕事のパフォーマンスにも影響を与えかねず、正しいビジネス判断ができなくなることは明白です。
睡眠負債は、経済にも悪影響を及ぼします。アメリカにあるシンクタンクの試算では、睡眠不足による日本の経済損失は年間約15兆円に相当します*3。
近年、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏やマイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏など、世界的な経営者が自ら「1日8時間睡眠」を提唱していることからも、睡眠の重要性がわかるのではないでしょうか。
睡眠負債を改善する4つのヒント
長期間の睡眠不足によって蓄積された睡眠負債は、どうすれば解消できるのでしょうか。4つのポイントをご紹介します。
1.理想的な睡眠時間を見つける
適切な睡眠時間を知る方法として、6.5時間を基準にし、起床時間に応じて就寝時間を調整することが推奨されています*4。
睡眠効率が低い場合、認知行動療法の観点から「条件づけ」が有効とされています。
睡眠効率とは、「睡眠時間/布団横になっていた時間×100」で導き出せる数値で、この睡眠効率が85%を下回らなければ、あまり心配する必要はありません。
また、条件づけとは、「寝室や布団は寝るための場所」と認識させるための手法です。スマホや本など不要なものは持ち込まず、眠くなったときにだけ布団に入るようにします。
睡眠時間を計算する際には、昼寝やウトウトした時間も合算することも大切で、睡眠手帳をつけることも勧められています。
2.良質な睡眠を得る
快適な睡眠環境を整えることが良質な睡眠を得るために重要です*5。具体的には、優しい暖色の照明、適切な大きさの寝具、適温の布団、好きな香りのアロマを使用することなどが挙げられます。
また、就寝前の過食や大量の飲酒、スマホ使用を避け、ストレッチや入浴をすること、明日のことを気にしすぎず、時計を頻繁に見ないことも快適な睡眠を促進するとされています。
3.光と夢を制御する
質の良い睡眠のために、スムーズな入眠だけでなく、より良く目覚めることも大切です*6。
朝日が入る透過性のあるカーテンを使うことが望ましいとされ、悪夢をコントロールすることも重要です。寝る前にネガティブ思考を反芻しないことも提唱されています。
4.短時間の昼寝もメリットに
特に眠気を感じやすい午後1~4時の時間帯に、短時間の昼寝も効果的です*7。昼寝は記憶の定着や学習などに役立ち、認知症を予防する可能性もあります。
ただし、過度の昼寝は夜間の睡眠を妨げる可能性があるため、昼寝は15~20分程度にとどめます。
睡眠負債解消のための「スリープテック」
快眠のために実践したい4つのポイントをご紹介しましたが、それでも質の高い眠りが得られない場合は、「SleepTech(スリープテック)」の使用も選択肢の一つです。
スリープテックとは、IT(情報技術)やAI(人工知能)などの技術を用いて、「睡眠」を科学的に分析したり、より快適な睡眠環境を提供したりする製品・サービスを指します*8。
「見える化」で健康的な生活を意識させる
スリープテックでまず思い浮かぶのは「ウエアラブル端末」の分野でしょう。
スマートウォッチやリストバンド型のスマートバンドは、スマホアプリなどと連携して日々の健康管理や運動の記録をする代表的なウェアラブル端末ですが、指輪型の端末もあるのをご存知でしょうか*9。
専用アプリに目標、睡眠状態、生活習慣、個人情報を登録し、指輪のセンサーが計測したデータを元に、目標の達成度や疲労回復度合いなどを確認できます。
継続使用で分析能力が向上し、健康状態の把握と改善に役立つというものです。
日々の体調や睡眠の質が数値で示されることで、昨日のスコアを上げるために意識的に早寝早起きしたり、体を動かしたり、健康管理への意識が高まるのではないでしょうか。
睡眠のトラッキングはスマートウォッチでも可能ですが、腕時計をしながら寝るのは少しストレスに感じる方もいるでしょう。
指輪であれば、就寝中や入浴中でもストレスなく24時間装着できます。軽くて着けやすいので、日常生活で特に不自由を感じないかもしれません。
より良い睡眠の実現
良質な睡眠を得るためには、快適な寝具や静かで暗い環境、適切な温度調整などが必要ですが、スリープテックでは、これらの要素をテクノロジーで補完できます。
例えば、寝室環境の研究を長年続けてきたパナソニックは、「睡眠家電」という切り口でさまざまな商品を開発しています*10。
同社のアプリケーション「おやすみナビ」に対応したエアコンや照明を使えば、室温や明るさに応じて快適な睡眠環境を作れます。
LEDシーリングライトは、照明にBluetoothを搭載し、スマホアプリ「おやすみナビ」との連携が可能です。
アプリでおやすみを開始すると照明が消灯し、起床時刻が近づくと、太陽が昇るように徐々に照明が明るくなります。同時に、目覚めやすいようにアラームを鳴らすように設定することもできます。
LEDシーリングライトのモニター調査では、7割が「眠りが変わった」と感じており、照明を変えるだけで「質の良い眠り」が実現可能です*11。
睡眠ウエアラブル端末の将来性と課題
さて、スリープテック市場は今後どうなっていくのでしょうか。
例えば、睡眠ウェアラブルデバイスは医療機器として承認されておらず、データ収集の問題などが指摘されています*12。
しかし、テクノロジーが進歩し、健康やウェルネスにおける睡眠の重要性が高まるにつれ、ウェアラブルデバイスを用いた健康追跡や遠隔モニタリングが拡大していくでしょう。
将来的には、個人に合わせた健康アドバイスを提供する包括的なサービスへと発展する可能性があります。
スリープテックの世界市場は、年々拡大しています。市場調査会社によると、2024年には約1,000億米ドル(約10兆円)に達すると予想されています*13。
テクノロジーはあくまで補助的なものであり、睡眠の質を高めるためには、生活習慣の改善やストレスマネジメントなど、総合的なアプローチを心がける必要があるのではないでしょうか。とはいえ、スリープテックの発展にも大いに期待したいところです。
*1:放っておくと怖い「睡眠負債」。寝不足がもたらす心身への影響と対処法を大学教授に聞いた|LINK@TOYO|東洋大学
*2:令和元年国民健康・栄養調査結果の概要 厚生労働省 p27
*3:自覚なき「睡眠障害」、日本の経済損失15兆円に:日経ビジネス電子版
*4:放っておくと怖い「睡眠負債」。寝不足がもたらす心身への影響と対処法を大学教授に聞いた|LINK@TOYO|東洋大学
*5:放っておくと怖い「睡眠負債」。寝不足がもたらす心身への影響と対処法を大学教授に聞いた|LINK@TOYO|東洋大学
*6:放っておくと怖い「睡眠負債」。寝不足がもたらす心身への影響と対処法を大学教授に聞いた|LINK@TOYO|東洋大学
*7:放っておくと怖い「睡眠負債」。寝不足がもたらす心身への影響と対処法を大学教授に聞いた|LINK@TOYO|東洋大学
*8:いま話題のスリープテックとは(睡眠コラム5)|くすりと健康の情報局
*9:ŌURA、アジア発のリテール展開はソフトバンクショップから!「Oura Ring Gen3 Horizon」を12月8日に発売|SB C&S株式会社のプレスリリース
*10:ネムリへのこだわりポイント | 睡眠家電 | Panasonic
*11:モニターの声 教えてみんなの睡眠事情 | 睡眠家電 | Panasonic
*12:スリープテックで健康管理 ウエアラブル端末が進化 - 日本経済新聞
*13:産業ニュース 関心が高まるスリープテック市場 ちばぎん証券