この記事では、CD売上と配信売上で票割れを起こした大ヒット曲を歴代ランキング化し、集中的にピックアップする。
先にランキング結果を示すと以下のとおりとなった。
概要と定義
基本的には、CD売上やフル配信ダウンロード売上の大ヒット基準はミリオンであり、MV再生回数やストリーミング再生回数の大ヒット基準は1億再生である。
しかし、これらの指標は市場の移り変わりによって全体規模の盛衰があるため、指標別に見ていると、市場移行期に発売された大ヒット曲には光が当たりにくくなってしまう。例えばCD市場からダウンロード市場へ消費者の楽曲購入動向が移行していた2000年代半ばに発売された楽曲は、CD市場衰退によってCDミリオン到達が困難となっていた一方、ダウンロード市場も黎明期だったためやはりフル配信ダウンロードミリオン到達が困難であった。結果的に、例えばCD75万枚+フル配信75万ダウンロードで合計150万人が購入したミリオン級の大ヒット曲が、「CDミリオンヒット曲特集」「配信ミリオンヒット曲特集」といった企画の何れからも漏れてしまう。
この問題意識から、ここでは「CDシングルミリオン・フル配信ダウンロードミリオン・MV1億再生・ストリーミング1億再生何れも未達となっているが、合計すればミリオン相当になっている大ヒット曲」を抽出し、歴代ランキング化した。
各指標の「大ヒット」の定義については以下記事で詳述している。
集計期間や指標間の換算式については以下記事をベースとしており、後者は「CDシングル10万枚=着うた50万ダウンロード=フル配信10万ダウンロード=MV・ストリーミング5,000万再生」としている。
当ブログで特集した指標別歴代ランキング記事のリンクも以下に並べた。
なお、フル配信ではない楽曲切り売り形式の着うたダウンロード売上に関しては、市場全盛当時こそ「ミリオン」が大ヒットの証明であるかのごとく宣伝文句として飛び交ったが、実際には楽曲切り売り形式である以上、着うた1ダウンロードはCD売上1枚やフル配信1ダウンロードよりも価値が低かったうえ、着うた市場全盛期間が短かったことで、世間一般のコンセンサスとしても「着うたミリオン=大ヒット」の図式が定着することはなかった。よって当ブログでは着うた売上だけを以て大ヒット曲として扱ってはおらず、この記事でも着うたミリオン以上達成曲を含めて構成している。
TOP5
1位 レミオロメン「粉雪」
1位はレミオロメン「粉雪」。その売上はCD85万枚、フル配信50万ダウンロードとなっており、綺麗に票割れした。着うた200万ダウンロード、MV5,000万再生も記録している。当時はCD売上のヒットチャートしか十分にフォーカスされなかったが、その年間チャートでは2006年の2位を記録した。
本曲の歌詞は深まらずにすれ違っていく悲恋を積み重ならない粉雪に例えており、季節感のある流麗なギターイントロとサビ前までの落ち着いたメロディーを経てサビの絶唱で感情を爆発させる楽曲構成が起承転結あるストーリーを想像させる仕上がりになっている。最高視聴率20.5%を記録した大人気ドラマ『1リットルの涙』の挿入歌としても効果的に使用されたことで楽曲は普及し、自身最大のヒットを記録した。
2位 平井堅「瞳をとじて」
2位は平井堅「瞳をとじて」。その売上はCD89万枚、フル配信50万ダウンロードとなっており、綺麗に票割れした。他指標でも着うた100万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を記録している。当時はCD売上のヒットチャートしか十分にフォーカスされなかったが、そのチャートでは2004年の年間1位を記録した。CD売上の年間1位を振り返る企画なら、この曲にも光を当てることは可能である。
この曲は興行収入85億円を記録したヒット映画『世界の中心で、愛をさけぶ』主題歌に起用されたことで注目が集まり、映画にもリンクする切ない歌詞や持ち前の個性的な歌声による表現が涙腺を刺激する形で支持を拡大した。この曲は完全本人作詞作曲ナンバーでもあり、このヒットで平井堅はシンガーだけでなくソングライターとしての実績も確かなものとした。
3位 ポルノグラフィティ「アゲハ蝶」
3位はポルノグラフィティ「アゲハ蝶」。その売上はCD91万枚、フル配信50万ダウンロードとなっており、他指標でも着うた50万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を記録している。当時はCD売上のヒットチャートしか十分にフォーカスされなかったが、その年間チャートでは2001年の10位を記録した。なお本曲はフルMVが制作されていない。MV撮影地にて悪天候が続くなどスケジュールの都合がつかなかったため、ラスサビの1分弱しか完成しなかったのである。
本曲の歌詞では高嶺の女性に対する叶わぬ恋をする男性の苦悩が描かれており、ラテン調のサウンドがそれを情熱的に盛り立てている。考察性の高い歌詞はメロディーへのハマり具合も秀逸で、ノリの良さも際立った。
4位 EXILE「ただ・・・逢いたくて」
4位はEXILE「ただ・・・逢いたくて」。その売上はCD56万枚、フル配信75万ダウンロードとなっており、綺麗に票割れした。他指標でも着うた100万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を記録している。当時はCD売上のヒットチャートしか十分にフォーカスされなかったが、その年間チャートでは2006年の6位を記録した。
本曲はau「LISMO」CMソングに起用された珠玉のウィンターラブバラードとして大ヒットした。なお本曲はATSUSHIとSHUNがボーカルだったEXILE第一章の時期の楽曲であるが、YouTubeに公開されているMVは第二章で撮り直したバージョンの短尺版となっている。
5位 ZONE「secret base ~君がくれたもの~」
5位はZONE「secret base ~君がくれたもの~」。その売上はCD74万枚、フル配信75万ダウンロードとなっており、ほぼ50:50の比率となった。他指標でもストリーミング5,000万再生を記録している。
本曲は昼ドラマ『キッズ・ウォー3 〜ざけんなよ〜』の主題歌。ドラマは放送時間帯を考えれば異例となる最高視聴率17.2%を記録する大人気となり、ZONEのブレイクにも繋がった。幼少期の友人との別れをノスタルジックに歌っている本バラードはその普遍性から時代を超えて支持された。
6位以下ピックアップ
6位以下の楽曲のうち、以下アーティストの楽曲についてはそれぞれの個別記事内で言及しているため、リンクをあいうえお順に並べた。
また、以下の楽曲については別記事で言及している。
- オゾン「恋のマイアヒ」
- I WiSH「明日への扉」
- 鬼束ちひろ「月光」
- BENNIE K「Dreamland」
- Whiteberry「夏祭り」
- Crystal Kay「恋におちたら」
- 遊助「ひまわり」
- 玉置浩二「田園」
→続・第71回(2020年)NHK紅白歌合戦歌唱曲の楽曲人気データ【完全版】
ここでは、以上の記事何れにおいても未だ言及できていない楽曲を幾つかピックアップしていく。
平原綾香「Jupiter」
「Jupiter」は2003年に発売された平原綾香のデビュー曲。CD92万枚、フル配信20万ダウンロード、着うた100万ダウンロードを売り上げた。当時はCD売上のヒットチャートしか十分にフォーカスされなかったが、その年間チャートでは2004年3位→2005年42位と推移するロングセラーとなった。
この曲はクラシック音楽として有名な組曲『惑星』の第4楽章「木星」の第4主題に歌詞をつけたもので、傷ついた人に寄り添う深い愛が描かれている。荘厳雄大な旋律と当時10代だったとは思えない平原綾香の堂々とした歌唱によって届けられた歌詞は多くのリスナーの胸を打った。
酒井法子「碧いうさぎ」
「碧いうさぎ」は1995年に発売された酒井法子の27thシングル。CD99万枚、フル配信25万ダウンロードを売り上げた。ダウンロード売上は2004年の解禁から17年かけて積み上げ2021年に認定を受けたものであり、息の長い人気が窺える。
本曲は、自身が主演を務め、最高視聴率23.9%を記録した大人気ドラマ『星の金貨』主題歌に起用されたことで普及し、自身最大売上を記録した。ドラマは聴覚障害を持つ主人公の悲恋を描いており、歌詞もそれに沿った内容となっているほか、MVや紅白歌合戦での手話を交えた歌唱も話題となった。作曲を手掛けた織田哲郎のメロディーラインと酒井法子の透き通った歌声もマッチしていた。
一青窈「ハナミズキ」
「ハナミズキ」は2004年に発売された一青窈の5thシングル。本曲も特筆すべきロングセラーとなり、CD売上の年間チャートでは2004年30位→2005年80位と推移。各指標の累計はCD41万枚、フル配信35万ダウンロード、着うた100万ダウンロード、MV8,000万再生、ストリーミング5,000万再生を記録した。CD売上だけを見ればこの曲の2年前に発売されヒットした「もらい泣き」の46万枚に次ぐ自身2位だが、総合的に見れば「ハナミズキ」が圧倒的に自身最大のヒット曲である。カラオケでは一際歴史的な人気となり、DAMが2023年に発表した30年間の歴代ランキングでは1位を獲得した。
こうした記録からも推し量れるとおり、本曲は極めて普遍性の高いスタンダードなバラードナンバーであるが、米同時多発テロ発生時ニューヨークにいた友人の無事を案じながら描いた歌詞には大切な人の末永い幸せを望む想いが反映されており、「君と好きな人が百年続きますように」という愛情溢れる表現と歌唱が多くのリスナーの心を打った。
椎名林檎「本能」
「本能」は1999年に発売された椎名林檎の27thシングル。CD99万枚、フル配信10万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を記録した。CD売上の年間チャートでは集計割れを起こし、1999年40位→2000年49位と推移した。ダウンロード売上は2006年の解禁以降で積み上げられたものであり、息の長い人気が窺える。
1stオリジナルアルバム『無罪モラトリアム』がロングヒット中に発売された本曲は大きな注目を集め、MVでナース姿の本人がガラスを叩き割るシーンなど前衛的な楽曲内容が話題となり、自身最大のヒットを記録するに至った。
柴咲コウ「かたち あるもの」
「かたち あるもの」は2004年に発売された柴咲コウの6thシングル。CD63万枚、フル配信35万ダウンロード、着うた100万ダウンロードを売り上げた。当時はCD売上のヒットチャートしか十分にフォーカスされなかったが、その年間チャートでは2004年の6位を記録した。柴咲コウは2003年にもRUI名義で発売した「月のしずく」がCD83万枚、フル配信25万ダウンロード、着うた50万ダウンロードを記録しており、CD売上だけで見れば「月のしずく」が自身最大売上だが、当ブログの合計式を用いれば僅かに「かたち あるもの」が上回っている。
本曲は最高視聴率19.1%を記録したドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』の主題歌に起用されたことで普及した。元々このドラマは青春恋愛小説が原作となっており、この小説に柴咲コウが寄せた書評が帯に載ったことがベストセラー化のきっかけの一つとなり、ドラマに先立って映画化された際は柴咲コウ自らヒロインを務めるなど、縁が深い作品である。それもあって、落ち着きのある中でも感情のこもった歌唱は一際リスナーの胸に迫るものがあった。
Every Little Thing「fragile」
「fragile」は2001年に発売されたEvery Little Thingの17thシングル。CD83万枚、フル配信25万ダウンロード、ストリーミング5,000万再生を記録し、「Time goes by」に次ぐ自身2番ヒットとなった。ダウンロード売上は2004年の解禁以降で積み上げられたものであり、息の長い人気が窺える。
本曲は恋愛バラエティ番組『あいのり』の主題歌として普及したバラードナンバー。片想いのもどかしさと愛情を描いた歌詞がハスキーな歌声で切なげに表現されており、タイアップともマッチする内容だったことで楽曲は多くの共感を集めた。冬に合う温かいサウンドと優しいメロディーも支持された。
夏川りみ「涙そうそう」
「涙そうそう」は2001年に発売された夏川りみの3rdシングル。森山良子が1998年に発表した同名曲のカバーである。沖縄を発信源にして徐々に楽曲人気が普及していった本曲は類稀なロングセラーとなり、CD売上の年間チャートでは2002年87位→2003年21位→2004年58位と推移し3年連続年間TOP100入りを達成した。この曲で連続的に紅白歌合戦にも出演し、その反響で週間チャートでも最高8位を2003年1月と2004年1月に1週ずつ記録。週間TOP100登場数は合計157週を数えたが、これは2010年度末時点で中島みゆき『地上の星/ヘッドライト・テールライト』の183週に次ぐ歴代2位記録であった。各指標の累計はCD68万枚、フル配信35万ダウンロード、着うた75万ダウンロードを記録した。
本曲は作曲を手掛けたBEGINによる優しいメロディーと沖縄のサウンド、作詞を手掛けた森山良子による早世した兄への想いを描いた泣きの歌詞が元となっている。2000年に行われた沖縄サミットでBEGINのセルフカバーを偶然聴いた夏川りみがカバーを熱望したことで誕生した本曲は、夏川りみの情感溢れる澄み渡った歌声によって多くのリスナーの心に響き、伝播していった。
藤井フミヤ「Another Orion」
「Another Orion」は1996年に発売された藤井フミヤの10thシングル。CD98万枚、フル配信10万ダウンロードを売り上げ、ダブルミリオンを記録した「TRUE LOVE」に次ぐ自身2番ヒットとなった。ダウンロード売上は2005年の解禁以降で積み上げられたものであり、息の長い人気が窺える。
本曲はドラマ『硝子のかけらたち』主題歌として普及した珠玉のバラードナンバー。少ない音数で歌声に浸ることができ、美しい夜空が思い浮かぶような楽曲になっている。大切な人との別れを意味のあるものとして描いた歌詞もドラマティックな世界観に誘った。
Kiroro「未来へ」
「未来へ」は1998年に発売されたKiroroの2ndシングル。CDミリオンを記録したデビュー曲「長い間」に次ぐ自身2番ヒットを記録したが、その売上構成はCD58万枚、フル配信50万ダウンロードとなっており、綺麗に二分されている。しかしダウンロード売上は2002年の解禁以降で約16年かけて積み上げられたものであり、息の長い人気が窺える。
本曲は当時ノンタイアップだったが、卒業シーズンにぴったりな普遍性の高いバラードナンバーとして支持された。今でも合唱曲として採用される機会が多く、それも世代を超えた売上推移になっていることの一因となっている。
小泉今日子「優しい雨」
「優しい雨」は1993年に発売された小泉今日子の34thシングル。CD95万枚、フル配信10万ダウンロードを売り上げ、CDミリオンを記録した「あなたに会えてよかった」に次ぐ自身2番ヒットとなった。ダウンロード売上は2008年の解禁以降で積み上げられたものであり、息の長い人気が窺える。
本曲は自身もヒロインとして出演した恋愛ドラマ『愛するということ』主題歌。歌詞もこれに沿ったドラマティックな内容になっており、ドラマとともに多くの女性の共感を集めた。曲調はしっとりとしたバラードとなっており、クールに抑えた歌唱は直感と理性の間で揺らぐ内なる心情から出る吐息を思わせるものとなっている。
T.M.Revolution「HOT LIMIT」
「HOT LIMIT」は1998年に発売されたT.M.Revolutionの8thシングル。CD71万枚、フル配信10万ダウンロード、MV6,000万再生、ストリーミング5,000万再生を記録しており、票割れしながらも世代を超えて人気が受け継がれている。CD売上だけを見れば自身3番ヒットだが、総合的にはCDミリオンを記録した「WHITE BREATH」に次ぐ自身2番ヒットだと言える。
野球選手のイチローが出演したアサヒ飲料「三ツ矢サイダー」CMソングにも起用されていた本曲は、インパクトのあるメロディー、遊び心に溢れた歌詞、奇抜な衣装、強風を浴びながらのパフォーマンス等が大きな話題を呼び、T.M.Revolutionの代名詞として後世に渡り名を残していくこととなった。
TUBE「夏を抱きしめて」
「夏を抱きしめて」は1994年に発売されたTUBEの18thシングル。CD93万枚、フル配信10万ダウンロードを売り上げ、自身最大ヒットを記録した。CDシングルのミリオンセラーを記録していないTUBEだが、ダウンロード売上との合算では本曲がミリオンを記録していると言えるのである。
トヨタ「カローラセレス」のCMソングにも起用された本曲は、ボーカル前田亘輝の伸びやかな歌唱が存分に活かされた爽やかなサマーポップチューンとなっており、煌びやかなギターサウンドも相まって、夏に合うバンドというTUBEのイメージをさらに強固なものにする楽曲となった。
工藤静香「慟哭」
「慟哭」は1993年に発売された工藤静香の18thシングル。CD93万枚、フル配信10万ダウンロードを売り上げ、自身最大ヒットとなった。ダウンロード売上は2000年の解禁以降で積み上げられたものであり、息の長い人気が窺える。なお本曲と殆ど同じ売上構成となった小泉今日子「優しい雨」とは奇しくも同日発売であり、売上は僅かに「優しい雨」が上回ったが、週間チャートでは「慟哭」が僅差で「優しい雨」を抑えて1位を記録した。
本曲は自身もメインキャストとして出演した恋愛ドラマ『あの日に帰りたい』主題歌。ドラマが最高視聴率18.6%を記録する人気となったこともあり楽曲も普及した。サウンドもさることながら、歌詞も特にサビのフレーズで強い印象を残した。作詞は中島みゆきが手掛けており、失恋ドラマ仕立てになっている。
まとめ
以上がCD売上と配信売上で票割れを起こした大ヒット曲の歴代ランキング結果となる。
こうして該当曲に注目してみれば、例え一指標だけを見るとミリオンセールスに達していなくとも、それに全く遜色しない十分な知名度を有している楽曲ばかりであることが分かる。TVのクイズ番組などで該当曲の一指標のみの売上記録が紹介された際の視聴者の第一印象として「こんな有名な曲がミリオンに達していないのは意外だ」という感想が出ることは多い。しかし、繰り返しになるが、これは一つの指標にしか注目していないがゆえに出力されている数字に過ぎず、総合的な楽曲人気を過小評価してはならない。該当曲が総合的に見ればミリオン級の数字・人気となっていることを本記事から読み取っていただければ幸いである。