今日は日比さんに変わってタカキさんがパートナー。
作家 山内マリコさんによる入魂の一冊。
宇多丸さん:お待ちしていましたよ!
そんな前だと思っていなかったけど、前回の出演は2020年3月出演ですって
山内さん:コロナ禍の始まりでドキドキしながら出演した
宇多丸さん:その時はギリギリスタジオで収録してたラストのタイミングくらいだ
山本さんによる山内マリコさんの紹介
1980年富山県生まれの小説家。
2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。女性同士の友情や地方都市をテーマに小説、エッセイをコンスタントに発表。
代表作に『あの子は貴族』など。
先月末、マガジンハウス刊の松任谷由実さんの生涯を描いた小説『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』が発売されて話題に。
宇多丸さん:『あの子は貴族』の映画評したからもっと近々に会っていると勘違いしていた
山内さん:嬉しく聴いていました
宇多丸さん:素晴らしかったです。岨手由貴子(そで・ゆきこ)監督も素晴らしかった。この年の邦画トップクラスの作品。
山内さん:嬉しい!
山内さん:キャンティで?!
山内さん:(笑)
宇多丸さん:ユーミンさんどれだけキャンティ案内してるんだって言う。ほとんどキャストと化すくらい。
この小説は飲みの席でお会いした際に「ユーミンさん話聞かせてください」と言って僕が聞いていた内容のさらに高解像度版。小説であり時代の記録であり、素晴らしい仕事です。
山内さん:ありがとうございます!
宇多丸さん:小説を書くことになったきっかけは?
山内さん:今年はユーミンのデビュー50周年。
今年は周年に合わせて色々企画がある中で、編集者の方からの指名で『小説ユーミン』でお声がかかった。
今まで地方のことを書いてきた自分に都会的なイメージは無い。都会のキラキラの象徴のようなユーミンを描けるのか。接点がないようにも思える。
しかしユーミンさんの出身地である八王子の立地は「都心」では無い。
宇多丸さん:八王子の呉服屋さんが実家ですもんね
山内さん:都心に出るのに一時間弱かかる。東京への距離感が地方民と近いものがあると感じたこともあり、今まで自分が書いてきた女の子の物語の延長線としても捉えられると感じた。また、「ユーミンから一次情報を聞きたいな」という思いもあった。
それもあって「やります」と引き受けた。
宇多丸さん:ユーミンさん自身序盤で「私は八王子の呉服屋の出だから、お買いのキラメキを描けるんだ」って仰ってる
山内さん:文学の世界では「小説家の作家性は東京との距離感で決まる」とも言われている。
自分は富山の出なので新幹線で2時間ちょい。昔はもっとかかった。
ユーミンさんは1時間ほどでで都心にも横浜にも出られる。ミュージシャンの「港町」へのアクセスは実は重要。
常に新しい音楽は海からやって来るんですよ
宇多丸さん:日本で一番最新音楽に詳しい人だった
山内さん:ユーミンさんは「日本で一番最初にレッドツェッペリンを聴いた一人」と言われていますからね。
八王子は立川基地にも近く、アメリカ人に混じってレコードを漁っていたという話も。それで最新の音楽を吸収していく。
宇多丸さん:格好良い音楽を再現して喜ぶ様子何かは日本の新しい音楽が生まれる瞬間のような
山内さん:ユーミンさんはJPOPの象徴。
日本人は洋楽を吸収して、洋楽の最新音楽に伍するような新しい音楽を生み出すことが出来なかった。どうしても歌謡曲になってしまぅていた。
「和製ポップス」として輸入した音楽に日本語の歌詞を載せるような、洒落た音楽を生み出せなかった時代に、これだけ文化資本の元、最新音楽を吸収した十代の女の子が八王子からやって来て、とてつもなく新しい音楽をぶちかます所が格好良い!
本作をフェミニズム的な視点で作品を書いてみたが、「こんなにも女の子が格好良いことがかつてあっただろうか?!」と思ってしまった。
日本の音楽史の振り返りであると同時に、近代史の振り返りでもあると思った。
宇多丸さん:圧倒的な才能があるのに、女性であるが故にアウトプットの場が限られてしまうのは「そんな訳あるかい!」と思う。そんな状況を、時に悔し泣きしつつも自らの才覚で切り拓いていく。
そう言った観点は今日紹介してくれる本とも通じますね。
『小説ユーミン』は才能ある若い女性の物語としても最高の一冊!
(CMを挟んで)
宇多丸さん:取材にはどれくらい時間をかけたんですか?
山内さん:三日。
ユーミンはおいそがしい笑(※この「おいそがしい♪」の言い方、メッカワです)
宇多丸さん:そりゃそうだ。
山内さん:一日3~4時間ずつくらい。最終日には荒井呉服店と実家にも行った。
宇多丸さん:(取材時間と比較して、成果物たる小説の)出力凄いな〜
入魂の一冊
女子達よ!闇の通過儀礼をサバイブせよ!
キム・リゲット著 『グレイス・イヤー 少女たちの聖域』
宇多丸さん:ちなみに火曜パートナーの宇垣さんも読んだそうです
山内さん:これは総裁案件ですよね
宇多丸さん:ジャケの時点でヤバイと言ってました。山内さんはオビにコメントも寄せていますね。
山本さんによる概要紹介
ガーナー郡に住む16歳を迎えた全ての少女は、危険な魔力を持つとされ、森の奥のキャンプへ一年間追放される。16歳を迎えるティアニーは「妻として」はでなく、自分の人生を生きることを望みながら、謎に包まれた通過儀礼「グレイス・イヤー」に立ち向かう。
本国では2019年に刊行。NTタイムズのベストセラーに選出、『チャーリーズ・エンジェル』のエリザベス・バンクスによる映画化も予定されている
山内さん:帯の依頼が来てゲラの状態で読んだ。
ゲラ読みして断ることもあるが、本作は設定だけでも面白いだろうと思って「やります」と答え、実際読んでみたらやっぱり面白かった
宇多丸さん:帯に「一気読み必死」とコメントを寄せていらっしゃるけど、僕も一気読みでした。
山内さん:翻訳の方が上手いと言うのもあると思う。“THE GIRLS”というマンソンファミリーを描いた小説の翻訳も手がけていて、それもすごく面白かった。
宇多丸さん:設定についても山内さんの手描きの制作?創作メモのようなものがあるんですね。
山内さん:はい(笑)書いていました
宇多丸さん:さすが作家というか。
山内さん的に面白かったのはどちらでしょうか
山内さん:冒頭から引き込まれた。
「誰もグレイス・イヤーの話はしない。禁じられているからだ。私たちには特殊な能力があって、寝ている大人の男を誘惑したり、若い男の子の理性を失わせたり、妻たちを嫉妬に狂わせたりすることができると言われている。しかも、私たちから剥いだ皮そのものにも、強力な催淫効果や若返りの効果があると彼らは信じている。だから私たちは16歳になると追放され、その魔力を自然の中で解き放った後で、ようやく文明に戻るのを許される」
女には魔力がある。これだけでピンと来る人はピンとくるのでは?
宇多丸さん:女性に責任を転嫁することは今でもありますもんね
山内さん:著者の後書きには、この本を思いたきっかけが書いてあった。
駅でローティーンの女の子が家族に見送られて寮に戻る送るシーンを見たときに「心は子供だが体つきは大人になりかけている女の子」を、男性は舐めるような視線でその子を見て、女性はそれに敵愾心を燃やす。
それを見たときに作者は涙が流れ、その体験だけでこの作品の設定を作り、一気に書き上げた。
(こちらについては以下のインタビューに詳しい。)
ニューヨークに住んでいたころ、ペンシルヴェニア駅で、ある少女が家族と共にいるところを見かけました。14歳くらいで、大人の女性へと変わっていく独特のエネルギーに満ちていました。すると、男性が通りかかり、彼女を品定めするかのように見たのです。まるで獲物のように。さらに、ある女性が通りかかり、彼女を嫉妬するような目で見ていました。かつて自身にあった若さを思い出したかのように。やがて列車のベルが鳴り、彼女の家族は別れの挨拶をして、おそらく寄宿舎へ向かうのであろう彼女を見送ります。そこには「これでまた一年間、彼女を安全な場所に置いておける」というような安堵の表情が見えました。
この一部始終を目撃した私は「わたしたちは若い女の子にこんなことをしているのだ」とつぶやき呆然としました。そのまま列車に乗ってその少女のために泣きました。そして、パソコンを開き、目的地に着く頃には『グレイス・イヤー』のプロットが出来上がっていたのです。
宇多丸さん:両親が寄宿舎に入れるのも、隔離しちゃうということですもんね。現実のメタファーというか。山内さんも帯に書かれているとおり。
山内さん:私が帯に書いたのは「現実のメタファーがあちこちに零れ落ち、拾い集めるごとに家父長制の秘密が暴かれていく。必読!」
これはフェミニストSFをよむ喜びだが、物凄く差別的な状況設定が作り込まれている。架空のシステムが作られているフィクションだが、それによって自分たちが今住んでいる社会のことが見てくる。
「これってあれのことじゃん」と思うことがすごく多い
宇多丸さん:「まんまじゃん!」とかね
山内さん:たとえば1年間のグレイス・イヤーの前には「集団婚約式」などもあり、今世間を騒がせてせているカルト宗教の集団結婚式を連想させるような、ミソジニーが根付文化の中で行われている儀式だが、平たく言えば今の普通の日本の結婚制度もこれに近いものがある。
グレイスイヤーを迎えた女の子たちは髪を赤いリボンで結ぶというものがあり、年齢や未婚なのか既婚なのかを切るものによって決めているのは、日本の着物文化でもあったことだし、イスラム系の国におけるヒジャブなど、衣服による女性の抑圧も「これって現実にもあるよな」と思わせられる。
宇多丸さん:まるで出品されるかのようにね
山内さん:恐ろしいのは、生まれてすぐに足の裏に父方の焼印を押されるというもの。そして、結婚相手を決める際は中央倉庫に集められ、男たちが密談して誰が誰を娶るのかを決める
宇多丸さん:結婚相手を決められなかったのなんてつい最近まであったことですもんね
山内さん:そうなんですよ。
この作品は「『侍女の物語』×『蠅の王』」と宣伝されることも多い。
設定だけ聞いて「森の中のキャンプで女の子たちが集めれれてそこでサバイブする物語」というところだけを見ると、自分が今なんでも「シスターフッド」に結びつけて考える脳なので、「きっと女の子たちがサバイブしてこのクソシステムを破壊するのかな」と思うが、そうではなく『蝿の王』になっていく。
通過儀礼で思い出したのはニコラス・ローグ監督の『WALKABOUT 美しき冒険旅行』。
アボリジニの男の子が「自分の力で荒野で生き残れば大人の男として認められる」という通過儀礼を描いた映画。その風習を美しく撮っていた。
が、「女の子の通過儀礼を描くときは美しくは描けない」と著者は思ったのではないか。簡単に団結したり、「イェイ!」というふうに持っていけるほど今のこの抑圧された仕組みは単純じゃねぇ。
だから次世代につなぐような展開になっていく。
通過儀礼の描き方ひとつとっても男と女で違ってくるとかんじておもしろかった。ダークでバイオレンスでロマンスもあって。
宇多丸さん:最大の罠は女性同士が争うことになっていること。だからある意味団結を最も恐れているんですよね。
主人公は最初から強く聡明な人だが、主人公のものの見方が変わっていく成長譚的な側面はヤングアダルト小説的。
山内さん:それが特に「女性観」の面で起きる。最初に出てくる女性がいずれも(男性の作った)「体制側」の人間。
それは「グレイス・イヤー」から戻ってくる女性が壊されて戻ってくるから。
でも……
宇多丸さん:エンタメ性とメッセージ性がガッツリ一致してますね
山内さん:映画化の話があると言うことだけど、ミュージカル化しても良いと思う。ミュージカル映えしそう!
推薦図書は…
— 山内マリコ (@maricofff) November 23, 2022
『グレイス・イヤー
少女たちの聖域』
でした〜‼️
『#小説ユーミン』もよろしくね😉
宇多丸さん、山本アナ、ありがとうございました! https://t.co/rLQhuuqSx6 pic.twitter.com/RcbGqyS2rL
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