- 作者: 武者小路実篤
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1952/07/02
- メディア: 文庫
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BOOK〜30年読んでいる座右の書…『武者小路実篤詩集』(新潮文庫)
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中学、高校時代に夢中で読んだ実篤を今、改めて読んでみるとまた新たな感動がよみがえってくるね。この本は、何回目かな〜。(・。・)
これも山谷五兵衛シリーズ。まったくお金を持たない生活をしている主人公の真理(しんり)先生、下手な石の絵ばかり書いて皆からバカにされている画家、通称・馬鹿一(ばかいち)、画家として成功している白雲、その白雲の弟で新進気鋭の書家・泰山などを中心に自由精神に貫かれた生き方を描いている。
本の裏表紙のメッセージ、「今日の小説には暗い世相を描き、人生を否定的にみた作品が多い。時代の実相はその通りかもしれないが、人生の美しさ、人間の善意を大胆に表明した作品があっていいはずで、本書はそういう作品の典型である。登場人物はすべて善人だが、善人とはお人好しではなく自分の理想や信念に忠実な努力家であり、こうした人物の異様な魅力を描き、人生肯定家としての作者の頂点をなす作品」
真理先生は一文も金は持たない。また自分でも金儲けをしようとは思わない。電車にも殆ど乗らない。自分の家から歩いてゆける処以外は滅多に出かけない。金のかかる生活はしないでも彼は生きていけると思っている。だから金の好きなものは彼に近づかない。しかし多くの人が彼の処を訪ねるのは、彼と逢って話をしていると、いつのまにか落ち着き、明るい気持ちになり、心の内のわだかまりがなくなるからだ。彼は正直である。嘘をつく必要はないのだ。彼は彼でありさえずれば、他の人は喜ぶのだ。
「私は人生を肯定出来ているものではありません。しかし人生を肯定したいと思って今日まで歩いてきたもので、私の一生はこの一つの目的に集中されて来たと言ってもいいのであります」
ラストにあの変人・馬鹿一がとうとう、画家としてモノになっていくのだが、そのくだりが感動する。(T_T)
馬鹿一は何年も何年も、くり返しくり返し毎日毎日続けてきたのだ。一歩一歩、一寸一寸、彼は毎日目的に向かって追及して来た。その真剣な勉強こそ、いつのまにか、今日の彼を築き上げたのだ。悪口を言った連中は、今になっても彼を馬鹿にして安心して軽蔑しているであろう。だが軽蔑された彼には絶えざる進歩があった。この絶えざる進歩こそ、今迄毛虫だった彼をいつのまにか蝶にしたのである。僕も彼を軽蔑し切った一人であるが、僕は依然として昔の僕なのに、彼は遂に堂に入った。
まだ実篤を読んだことのない方、『友情』や『愛と死』しか読んでいない方、真の名作はコレ。おススメよ!