あるジャム屋の話 (安房直子 絵ぶんこ9)
安房直子(あわなおこ) 文
伊藤夏紀(いとうなつき) 絵
あすなろ書房
2024年10月30日 初版発行
新聞の広告で見かけた。安房直子 絵ぶんこシリーズの最新刊って。安房さんって、知らなかったので図書館で借りて読んでみた。
安房直子 絵ぶんこシリーズは、絵は色々な作家で、文が安房さんということらしい。
「ジャム屋」が気になった。なんせ、私もジャムを作って売っていたことがある。というか、手製ジャム販売のお手伝いをしていた、ということだけれど。農林水産省のジャムの規格より糖度が低いので、実際にはジャムではないのだが、知り合いのレストランでのテイクアウトの一環でつくり始めた。季節の美味しい果物を、そのままでは食べきれない分を旬の香りのままに瓶に閉じ込める作業は、結構楽しい。
表紙には、森の中の小さなお家と、それをそっと眺めているようなバンビの後姿。優しい色合い。
表紙の裏には、
” 心がぽっとあたたかくなる、 優しい 童話集。
森の中の小さなジャム屋。
ジャムのお味は、 とびっきりなのに
ちっとも売れません。
どうしたものかと困っていたら、
ある夜、 思いかけないお客さんが・・・”
と。
作者の安房さんは、 東京都生まれ。 日本女子大学在学中より山室静氏に師事。 大学卒業後 、同人誌『海賊』に参加。 1982年、『遠い野ばらの村 』(筑摩書房)で 野間児童文学賞、 1985年『風のローラースケート』(筑摩書房)で新美南吉児童文学賞。 1993年 肺炎により逝去。享年50歳。没後もその評価は高く、安房直子コレクション 全7巻 (偕成社)が刊行されている。
お話の主人公は、社会にうまくなじめない一人の男の人。 大学卒業後に就職した会社は 1年で辞め、故郷に帰ってゴロゴロしていた時に、ジャム屋さんを思いつく。それは、母の手作りあんずジャムの思い出からの思い付き。
くる日もくる日もジャムをつくってみた。近所の人には大評判。大の男が昼間っからジャムなんてこしらえて、、という影口も聞こえてきたけれど、意地になってジャムを作り続けた。そして、「ジャムの森野屋」という看板をたて、山の小屋にお店をつくった。
美味しいと言われていたジャムだけれど、町に売りに行っても一つも売れなかった。
何をやっても自分はダメなんだ、と落ち込んで町からもどってきたある日、森の小屋に明かりがついているのを見つける。胸がドキドキ。ランプしか使っていない小屋に、誰かがいるのか?
恐る恐る中を覗いてみると、一匹のシカが小屋の中でわたしのつくったジャムを美味しそうに食べている。そして紅茶を美味しそうに飲んでいる。とっても美味しそうに。
わたしは、すっかり嬉しくなって、思わず
「おいしいかい?」
と、たずねてしまった。
シカは飛び上がる程びっくりして、体をピクリとさせて、怯えた大きな目でわたしをじっと見つめました。
そして、ジャム談義。
美味しいのに、売れないんだという話をすると、シカは
「それはあなたの売り方がわるいのです」といって、まるで説教するかのようにいいました。
「わたしがなんとか、考えてあげましょう」
そして、次の夜の7時過ぎ、シカの娘は約束通りにやってきた。
「レッテルをつくってあげましょう」といって、美しい絵具で美しい絵をかいてくれた。
一面の野原に遠い森、 そしてその向こうに、 薄紫の山並み。 山を吹く風の音が聞こえてくるような、 野ばらの臭いまで わかるような、そんな美しいレッテルをシカの娘が書いてつくってくれた。
そして、そのレッテルを貼ったジャムは飛ぶように売れるようになる。
もっとたくさんジャムを作りたくなった私に、シカの娘は「とっておきのブルーベリー畑」を案内してくれる。
娘が案内してくれた畑には、牡鹿がいて
「娘が大変お世話になりまして」と挨拶してきた。
そして、
「私の娘が、人間に姿を変えて、あなたのところに尋ねていったら、そのときはお嫁にしてくれますか?」と。
「はい、いつまでもまっています」
それから、ぱたりとシカの娘はやってこなくなった。
わたしのジャムはどんどん売れ続け、レッテルは弟がシカの娘の書いた絵を印刷して大量につくってれた。
娘は姿を表すことはなかったけれど、ジャムをつくったのこりのブルベーリーでつくったお酒を飲んでいると、いつも耳元に娘の声がきこえた。
「まっていて、もう少しだから」
そうして何年過ぎたでしょうかねぇ、 わたしは、 変わり者のジャムやと呼ばれ年も30をいくつか過ぎました。
ある年の冬でした。
降り続いた雪が止んでまん丸の月が空に登った頃、誰かが ほとほとと小屋とたたきました。
「あたし、あたし。」懐かしいあの声。
ドアをあけると二本足の人間の娘がたっていたのです。 大きな、涼しい目をした、シカの娘がしていたのと同じ青いネッカチーフを風にはためかせて。
二人は、結婚して、たくさんのジャムを売りました。
森野屋はますます繁盛して、ジャムの種類は37。
レッテルの美しさは、どこにも負けませんが、味もどこにも負けません。
さ、このブルーベリーのジャム、おみやげにひとびん、さしあげましょう。
THE END.
最後は、可愛らしいジャムの瓶の絵。
ほっこりのような、ちょっと寂しいような。
シカの娘は人間になるために、さまざまな試練を潜り抜ける。そして人間の姿になるということは、シカの両親とはお別れしたってことなんだろう。。。。
ちょっと、寂しい。
人間になった娘は、昔のようにシカの両親にも会えるのかな。だったらいいな。
絵の上手なシカの娘と、ちょっと変わった人間の男の人のお話。
ほんわか。
紅茶にジャムをおとして飲むって、ロシア紅茶ってよく絵本にでてきて、子どもの頃に憧れたな。でも、実際にやってみると実はそんなに、感動するほどのものではない。。。やはり、紅茶は紅茶で、ジャムはジャムでいただいた方が、、、私は好きだ、けどね、
ちなみに、旬のフレッシュさをのこしたジャムをつくるなら、フルーツと果物をゆっくり2,3日マリネして、火入れをちょっぴりにするとよい。沸騰してから、弱火で10分程度、とかね。自宅で作るなら、お砂糖も控えめで、、、。