《あらすじ》
自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよなーーー。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある事故死をきっかけにそれぞれの人生が重なり始める。だがその繋がりは、“多様性を尊重する時代”にとって、ひどく不都合なものだった。
読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。
【要約・感想】P108-P119
寺井啓喜
2019年5月1日まで、365日(平成から和へと元号が変わるまで)
泰希が動画配信することについて、職場の同僚である越川秀己に相談した。30代前半の彼は真っ直ぐな性格で口が固く信頼に値するので家庭内の話は打ち明けられるのである。
らいおんキッズで出会った彰良とは家が近く、動画配信も2人ですることになった。YouTubeチャンネルの名前は【元号が変わるまであと○日チャンネル】らしい。動画を一度観たが個人情報が流出しすぎないようにある程度配慮はされていた。内容はやはり、彰良と共通して観ていた学校に対しての批判もあり、その他はコメントに対しての回答だった。子どものやりたいようにやらせてあげたい、子どもの考えを否定したくないと啓喜も思っている。ただ子どもの過ちを指摘するのも親の役目だと思っている。
「あの、蛇口の事件なんですけど」越川が午前中に勾留延長請求した案件のことである。事件内容は2人組の男が全国の公共施設の蛇口を盗んで回っており、おそらく金属転売が目的であろうというものである。
2004年にも同じような事件があり、容疑者藤原悟は蛇口を盗み水を出しっぱなしにした。供述では「水を出しっぱなしにするのがうれしかった」と、世の中には様々な異常性癖の人がいてる。今回の事件も、もしかしたら目的がそうなのかもしれないと考えた。
帰宅すると由美が膨らます前の風船を持っていた。動画配信で使用するが泰希たちの肺活量では膨らませれないらしい。そんな由美から漂うトリートメントの匂いを嗅ぐと、脚の付け根あたりの血液が渦巻きはじめたのを感じた。また風船を由美から受け取ったが、それがコンドームに見えた。由美は挿入時になぜか涙を流す。後ろ向きな理由ではないらしく、最初は戸惑ったが今ではその丸い瞳が濡れていくのを見るのが好きになった。いつしか、ついに一滴が流れ落ちるその瞬間、興奮が最高潮になる。
「水を出しっぱなしにするのがうれしかった」
ふと脳裏に昼間見た記事のその一文が蘇ったのである。
元号が変わるまでちょうどあと1年である。
泰希と彰良との動画配信をするがいくら個人情報について配慮しているといえども、いつどこでどんなきっかけで身元がばれるわからない。児童ポルノ摘発の件もあるから心配である。この子たちが被害を受けないように心から祈りたいと思う。
蛇口窃盗事件について、もしかしたら性癖からくる理由が動機であるということで、人それぞれで何に対して気持ちが動くのかはわからない。今回の事件が性癖からであるとしても私自身、それの何が興奮するのだろうか、と首をかしげてしまう。とは言え、性癖は個々の感覚ではあるが、窃盗など他社に迷惑をかけるというのはいくら表現の自由といえども許されるものではない。
検事というお堅い仕事をしてる啓喜も由美との営み中にでてくる性癖があるというわけで、逆に性癖のないひとなんてきっとこの世にいないんじゃないのだろうか。
みんなそれを心の引き出しに閉まってあるだけで、恥ずかしいという気持ちがあり表に出していないだけである。
私自身の性癖は何かというと...やはり恥ずかしくて言えない。
これから泰希と彰良の動画配信をするにあたりどのようなことを学ぶのか、また今回の蛇口窃盗事件の真相は一体何だろうか。
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